法律豆知識、バリ島の連続爆発事件(その3)、具体的な対応について
バリ島連続爆発事件では、実施中のパックツアーを中止すべきか否かの決断で混乱が生じたようだ。旅行の途中解除についても、様々な問題が生じるのである。ツアー参加者に犠牲者が出た場合については、バス事故について検討したこと(本コーナ第25回等)が参考になるはずであるが、その際のテロ特有の問題点については、別の機会に改めて検討しよう。
今回は、参加者に犠牲者が出なかった場合のケースを検討することとする。
▽旅行契約約款では
旅行契約約款では、かような旅行実施中の中止、つまり、旅行開始後の解除のケースにたいしては、「天災地変、戦乱、暴動、運送、宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の当社の関与し得ない事由が生じた場合であって、旅行の継続が不可能となったとき」には、旅行者に理由を説明することを前提に、旅行業者による解除が可能となると記載されている(募集型、受注型いずれも18条1項3号)。
この条項は、旅行者による解除(16条2項3号)、あるいは旅行開始前の旅行業者による解除(17条1項7号)に関する規定と類似するが、文言上重要な違いがある。
旅行者による解除、旅行開始前の旅行業者による解除の場合は、「旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき」とある。が、旅行開始後の解除の場合は、単に、「旅行の継続が不可能となったとき」とあるだけである。つまり、「安全かつ円滑な実施」や、「不可能となるおそれが極めて大きい」という要件が落ちている。
となると、旅行途中でテロに遭遇して交通機関や、宿泊施設等が利用できなくなって、旅行が物理的に不可能となれば契約を解除できるが、物理的にはなお可能、つまり、交通機関は運行されており、宿泊施設も利用可能となると、困った事態が予想される。今回のバリがまさにそうであった。
この場合、ツアーに参加した旅行者全員が不安を感じて旅行中止を申し出れば、その時点で、旅行業者としては旅行を解除し、あとは約款(18条3項)に従って金銭処理をすればよい。
問題は、旅行業者としてはその後の安全が見込めないので旅行を中止したくても、一部、又は、全部の旅行者が続行を希望するときである。この場合は、旅行業者は、解除できないことになる。なぜならば、「旅行の継続」が不可能でないので、一方的には契約解除できないからである。
また、運送機関が運行を停止する可能性が極めて高くても、そのおそれが高いだけでは解除できず、現実に停止して「旅行の継続が不可能」になって初めて、旅行契約解除が可能になるのである。
このように約款上は、旅行開始後の解除は、かなり制約を受けることを忘れないで欲しい。
▽テロに遭遇した時
旅行業者としては、危険性が高いため旅行の中止をしたかったが、旅行者がそれを拒否したためやむなく旅行を継続した。ところがその後、現実にテロに遭遇し犠牲者が出た場合、旅行業者の責任はどうなるのか。
この場合、旅行者が自ら希望したので旅行を継続した。それゆえ、旅行者の犠牲は自業自得で、旅行業者の責任は無いはずだといえるだろうか。
このケースで裁判になると、一般論としては、旅行業者のかような抗弁が認められるのは、なかなか難しいことが予想される。しかし、旅行業者が危険情報を徹底的に調査収集し、それを旅行者に十分に開示できた場合には、旅行業者が免責されることは考えられる。この場合は、旅行者は、豊富な情報を前提に安全性を検討し、みずから旅行の続行の是非を判断できたはずだからである。
▽危険情報開示の必要性
このようにみると、ここでも危険情報の開示がいかに重要か、改めて理解してもらえると思う。
開示の前提としては、現地営業所や添乗員と本社との緊密な連携が重要であることは言うまでもない。現地だからこそ得られる情報と、現地だから得にくい情報がある。本社が得やすい情報もあり、得にくい情報もあるからである。
豊かな情報が集中できれば、旅行業者と旅行者の間で、旅行を続行すべきか否かで意見の相違が出ることもかなり防げよう。
そして何よりも、的確に危険を回避できる。
不十分であれば、危険の回避が出来ないままテロに遭遇してしまい、犠牲者を出すという事態もあり得る。犠牲者が出れば、旅行業者が負うべき責任は巨大になる。人が死ねば、その損害額は、一人1億円に達することも稀ではない。多数の犠牲者が出れば、会社の存亡にもかかわる。
情報開示を徹底し、そのようなリスクを可能な限り低減させるべきであろう。
今回は、参加者に犠牲者が出なかった場合のケースを検討することとする。
▽旅行契約約款では
旅行契約約款では、かような旅行実施中の中止、つまり、旅行開始後の解除のケースにたいしては、「天災地変、戦乱、暴動、運送、宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の当社の関与し得ない事由が生じた場合であって、旅行の継続が不可能となったとき」には、旅行者に理由を説明することを前提に、旅行業者による解除が可能となると記載されている(募集型、受注型いずれも18条1項3号)。
この条項は、旅行者による解除(16条2項3号)、あるいは旅行開始前の旅行業者による解除(17条1項7号)に関する規定と類似するが、文言上重要な違いがある。
旅行者による解除、旅行開始前の旅行業者による解除の場合は、「旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき」とある。が、旅行開始後の解除の場合は、単に、「旅行の継続が不可能となったとき」とあるだけである。つまり、「安全かつ円滑な実施」や、「不可能となるおそれが極めて大きい」という要件が落ちている。
となると、旅行途中でテロに遭遇して交通機関や、宿泊施設等が利用できなくなって、旅行が物理的に不可能となれば契約を解除できるが、物理的にはなお可能、つまり、交通機関は運行されており、宿泊施設も利用可能となると、困った事態が予想される。今回のバリがまさにそうであった。
この場合、ツアーに参加した旅行者全員が不安を感じて旅行中止を申し出れば、その時点で、旅行業者としては旅行を解除し、あとは約款(18条3項)に従って金銭処理をすればよい。
問題は、旅行業者としてはその後の安全が見込めないので旅行を中止したくても、一部、又は、全部の旅行者が続行を希望するときである。この場合は、旅行業者は、解除できないことになる。なぜならば、「旅行の継続」が不可能でないので、一方的には契約解除できないからである。
また、運送機関が運行を停止する可能性が極めて高くても、そのおそれが高いだけでは解除できず、現実に停止して「旅行の継続が不可能」になって初めて、旅行契約解除が可能になるのである。
このように約款上は、旅行開始後の解除は、かなり制約を受けることを忘れないで欲しい。
▽テロに遭遇した時
旅行業者としては、危険性が高いため旅行の中止をしたかったが、旅行者がそれを拒否したためやむなく旅行を継続した。ところがその後、現実にテロに遭遇し犠牲者が出た場合、旅行業者の責任はどうなるのか。
この場合、旅行者が自ら希望したので旅行を継続した。それゆえ、旅行者の犠牲は自業自得で、旅行業者の責任は無いはずだといえるだろうか。
このケースで裁判になると、一般論としては、旅行業者のかような抗弁が認められるのは、なかなか難しいことが予想される。しかし、旅行業者が危険情報を徹底的に調査収集し、それを旅行者に十分に開示できた場合には、旅行業者が免責されることは考えられる。この場合は、旅行者は、豊富な情報を前提に安全性を検討し、みずから旅行の続行の是非を判断できたはずだからである。
▽危険情報開示の必要性
このようにみると、ここでも危険情報の開示がいかに重要か、改めて理解してもらえると思う。
開示の前提としては、現地営業所や添乗員と本社との緊密な連携が重要であることは言うまでもない。現地だからこそ得られる情報と、現地だから得にくい情報がある。本社が得やすい情報もあり、得にくい情報もあるからである。
豊かな情報が集中できれば、旅行業者と旅行者の間で、旅行を続行すべきか否かで意見の相違が出ることもかなり防げよう。
そして何よりも、的確に危険を回避できる。
不十分であれば、危険の回避が出来ないままテロに遭遇してしまい、犠牲者を出すという事態もあり得る。犠牲者が出れば、旅行業者が負うべき責任は巨大になる。人が死ねば、その損害額は、一人1億円に達することも稀ではない。多数の犠牲者が出れば、会社の存亡にもかかわる。
情報開示を徹底し、そのようなリスクを可能な限り低減させるべきであろう。