WILLER EXPRESS、過去最高益へ――「LABO×RootS」で進化する“人と品質のマネジメント”
WILLER EXPRESS代表取締役社長 平山幸司氏
高速バス大手のWILLER EXPRESSが、12月4日に実施した戦略説明会で「過去最高益の見込み」を明らかにした。24年比での増収増益を確保し、乗車率は87.5%、平均単価は5594円。販売席数は2019年比で約2割減と供給力が縮小する中、需給ギャップを価格上昇で補い、利益を拡大した。
同社が設定する3つのKPIのうち販売席数は減少したが、乗車率と単価の上昇がそれを上回った。平山幸司社長は供給制約のなかで利益を出せる構造が整ってきたことを強調した。
■「供給制約×高稼働」構造に
| 年度 | 販売席数 | 乗車率 | 平均単価 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 79.2% | 4848円 | |
| 2024年 | 85.8% | 5328円 | |
| 2025年(見込) | 19年比78% 24年比94% | 87.5% | 5594円 |
同社の高速バス市場は、運転士不足による運行便数の減少で「売る座席」が減少している。
一方、旅行コスト上昇を背景に需要は高止まりし、乗車率はコロナ前の8割から9割近くへ上昇した。とりわけ、「ドーム」や「リボーン」といった、付加価値型シートの稼働率はほぼ100%に達しているという。「夜行バス=安価な移動」という構図から、「快適で合理的な宿泊・移動手段」へと認識は変化しつつある。
単価上昇の背景には、2つの外部要因がある。
ひとつは物価高による宿泊費上昇。都市部を中心としたホテル代の高騰により、旅行者が「車中泊」に切り替える動きが広がった。
もうひとつはインバウンドの増加。年間4000万人に迫る勢いで、関東―関西間を中心に夜行バスの利用が増加した。平山氏は人口減少による長期的な需要減少分をインバウンドで取り込むと示唆しつつも、「訪日客のマナーに関する課題があるのも事実」として無条件に拡大する方針ではないと示した。
| 年齢層 | 2019年 | 2024年 | 2025年(見込) |
|---|---|---|---|
| 17歳以下 | 2.9% | 2.8% | 2.3% |
| 18〜23歳 | 42.6% | 42.3% | 39.8% |
| 24〜30歳 | 20.7% | 23.4% | 23.6% |
| 31〜50歳 | 24.2% | 21.0% | 22.2% |
| 51歳以上 | 9.6% | 10.5% | 12.1% |
■「LABO×RootS」で構築する人材戦略
収益好調の一方で、最大のボトルネックは人材だ。運転士(同社の呼称は「ハイウェイパイロット=HWP」)の数は増加傾向にあるが、依然として人手不足は深刻である。
WILLERはその解決策として、人材を育成する教育施設「WILLER LABO」と、品質を維持・管理する業務システム「RootS」という二つの仕組みを整備した。
WILLER LABOではホテル・飲食・空港勤務などサービス業出身者を含む未経験者のジョブチェンジを促進。約3か月間の研修は全寮制で同期意識を醸成し、孤立による離職を防ぐ効果があるという。
また、緊急時対応力や運転技術を競う「トップガンコンテスト」(賞金100万円)を開催し、現場教育の実践力を高めている。同コンテストにより日頃から緊急時の事例などが共有されやすいことから、平山氏は「教育効果を考えれば100万円は安い」と述べた。
こうした取り組みを背景に、同社は採用ルートの多様化にも踏み出した。2025年には外国人採用・高卒採用・大卒採用を同時に展開し、人材確保に取り組んでいる。各ルートで課題と成果は異なり、同社はそれぞれに応じた採用手法を設計しているところだ。
外国人材:フィリピン7名が内定、ネパール4名が内々定。ただし日本語試験(JLPT N3)が年2回しかなく、制度的ボトルネックになっている。
高卒採用:地元校との関係構築が難しく、従来型の学校推薦に依存しないSNS発信型へ転換。
大卒採用:学生側からの要望により採用開始。予想以上に応募が集まり、一旦応募を停止するほど。
LABOでは、昨年5月の開校以降205件の応募のうち入校者は33名。採用段階から「接客力・ホスピタリティ」を重視し、未経験からでも年収600万円を実現できるキャリアモデルを提示している。
一方、品質管理の中核を担うのが業務システム「RootS」だ。運転士の健康情報や車両整備履歴、事故・故障データなどを一元管理し、全営業所で可視化。「現場で何が起きているかが分からない」という従来の課題を解消し、法令基準を上回る運行管理品質を実現している。
多様な人材を採用する中でも品質を一定に保つ役割を果たしており、今年からはシステムの外販も開始。すでに6社・約1000アカウント(車両+人単位)が稼働しており、2026年には1万アカウントへの拡大を目指すという。
2026年の採用目標について平山氏は「量も質もあきらめない」と強調したうえで、現状から約10%増となる30人の純増を掲げる。人口減少と労働制約が進む中、同社は「LABOによる人材教育」と「RootSによる品質管理」を両輪とした事業モデルの確立を目指している。


