「旅のハードルを下げる」-ENVISION 2025で語られたTrip.comのグローバルと日本市場の戦略

 グローバルOTAのTrip.com Groupはこのほど、「ENVISION 2025」を中国・上海で開催した。会場には世界各国から3000人を超える旅行業界関係者が集い、「イノベーション」や「サステナビリティ」をキーワードに、新時代の旅行エコシステムの構築に向けたビジョンが語られた。

 登壇した共同創業者のジェームズ・リャン会長は「旅行とイノベーションは人類の未来にとって最も重要な営みだ」と強調。AIや低炭素ホテル、地域文化を活かしたエンターテインメント型観光の事例を交えながら、同社が設立した1億ドル規模の「Tourism Innovation Fund(観光イノベーション基金)」の意義を紹介した。今後は産業横断的な連携も含め、「革新的なアイデアの実現を支援していく」と意気込みを語った。

ジェームズ・リャン会長

 また、CEOのジェーン・スン氏は、旅行業が世界GDPの10%を担う社会の基幹インフラであるとした上で、同社としては2024年第1四半期の海外旅行予約がコロナ前の120%以上にまで回復したと報告。加えて、旅行者の多様なニーズに応じた商品展開、AIレコメンドなどのテクノロジー活用、さらに緊急時に2分以内で対応する「グローバルSOSサービス」の実績を披露し、今後も"人"を中心に据えたイノベーションを推進する方針を示した。

 来場者の注目を集めたのは、英国ヘンリー王子の登壇だ。王子は、自らが創設した持続可能な観光の推進団体「Travalyst(トラバリスト)」の代表として登場。「観光は地域社会を支援する存在であるべき」とし、特にAPACは今年4900億ドル規模の世界最大の旅行市場となる見込みであることから、同地域での気候変動対策に積極的に貢献する責任を強調した。

 Travalystでは、旅行予約時にCO2排出量やエコ認証の有無を可視化する仕組みを整備し、これまでにパートナー企業での1300億回以上の検索に排出量情報が表示されたという。中でもAPACの旅行者は、持続可能な選択肢への意識が高く、今後のグローバルでの持続可能性への取り組みの中核を担うとした。

 テクノロジー領域では、バケーション担当のCEOレイ・チェン氏が、AIを活用した旅行体験の最適化について講演。予約、レビュー解析、カスタマー対応までの全工程にAIを導入し、ユーザーとパートナーの双方に価値をもたらす「Win-Winな旅行エコシステム」を構築していると語った。昨年ローンチした個人旅行向けの運転手兼ガイドの登録などを行う新たなプラットフォームは既に14万人以上が利用しており、柔軟な商品開発と利用者満足度の向上を両立。精度の高いレビュー分析やパーソナライズなどによって、AI新時代におけるエコシステムの構築を加速させる構えだ。

 Trip.comはさらに、持続可能性、テクノロジー、文化遺産、観光地開発などの分野で革新を遂げた個人や団体を表彰する「Tourism Innovation Award」の創設、オーストリアやニュージーランドなど観光局との戦略提携、6000超の実店舗ネットワークを活用したオンライン・オフライン統合型の旅行販売など、エコシステム全体を包摂する施策を打ち出している。