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宿泊施設が販売価格を上げていくべき4つの理由―亜欧堂 堀口洋明氏寄稿

  • 2022年3月25日

どうすれば価格を上げられるのか

 これまで述べてきた様々な問題を解決するには「販売価格の引き上げ」を行うべきです。では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。

日本では販売価格が下がりやすい

 日本の宿泊産業は構造的に販売価格が下がりやすい傾向があります。世界的に比べチェーン比率が低い日本では、その分競合施設が多くなるため競争心理が値下げ方向に向かいやすいようです。一方でチェーン比率が高いアメリカでは2021年12月時点で「米ホテル、22年稼働率は61.7%予想、ADRの回復顕著」と報じられています。各種データを見ても日本はADR回復が遅いようです。

 需要予測を行うレベニュー・マネジメント・システムの普及率に比べ競合料金を監視するシステムの方が高い普及率であるのも、この傾向に拍車をかけています。

 まずは「意識的に価格を上げなければいけない」ことをしっかり把握してください。

体験価値を上げる

 お客様から「良いものである」と評価されれば価格を上げることができる、これが正攻法です。しかし既に取り組んでいてなかなか成果が出ない、そういう施設でも、今までより体験価値を上げる工夫は可能です。

 例えばチェックイン時間を前倒し・チェックアウト時間を後ろ倒しするのも手です。清掃が課題になりそうですが、値上げで増益しつつ稼働率を下げるよう調整することである程度対応できます。あるいは思い切ってフロアごとにチェックイン・チェックアウトの時間を変えることも考えられます。

 どのみち人員不足が長引けば作業量を減らすことも考えなくてはなりません。以前にも客室清掃員不足により稼働制限をかけざるを得ない事例もありました。

 「今までの当然」をなくして考えるべきタイミングに来ているのではないでしょうか。

GoToトラベルは良いタイミング

 再開が期待されるGoToトラベルも販売価格引き上げには良い機会だと思っています。もちろん便乗値上げ的なことは避けるべきですが、このタイミングで体験価値を上げる工夫をして販売価格を引き上げたとしても、国からの補助がある分お客様の負担感は和らぎます。

競合より100円でも高くする

 今までは競合より100円でも安く販売することで稼働率を稼ごうという発想の方が多かったようですが、これからは「競合より100円でも高くする」という発想に転換してください。稼働率は下がるでしょうが増益すれば問題ないと考えてほしいのです。そのためには損益計算して「ここまで稼働率が下がっても大丈夫」という目安を持ちましょう。

 先程の例で、ADRを10,000円→10,100円に値上げした場合に同じGOP額を保つ客室稼働率は80%→78.9%となります。ADRを10,000円→10,500円にした場合に同じGOP額を保つ稼働率は80%→75%です。

 このように販売価格を引き上げた場合に同額のGOP額や営業利益額を保てる稼働率を試算することを強く推奨します。宿泊特化型施設用に計算ツール(Excelファイル)を用意しました。自由に加工していただいて構いません。ぜひご自身の施設の数値で試算してみてください。

まとめ

1. コスト上昇は中長期的に続く
2. ADRが高い方が利益は出やすい
3. ゼロベースで体験価値を上げる検討を
4. GoToトラベルは良いタイミング
5. 利益を保てる稼働率の目安を試算


堀口洋明
ホテルマネジメントをサポートする/株式会社亜欧堂 代表
フルサービス・リミテッドサービス・リゾート、国内系・外資系、宿泊・宴会・レストラン部門を全てマネージャーレベルで経験し、亜欧堂設立後は経験と理論を両立したコンサルタントとしてホテル業界の支援を行っている。