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ポストコロナ、宿泊業界はどう変わるのか? 4つの大転換とは―宿屋大学 近藤寛和氏寄稿

  • 2022年2月17日

②ホテルの競争激化

 コロナ禍に入って2年が過ぎましたが、いまだにホテルの開業ラッシュは続いています。「HOTERES」誌(2021年12月3日号)によると、今年下半期に開業したホテルは135軒、今後開業予定のホテルは445軒もあるそうです。それらの傾向を見ると、チェーン系の宴会場を持たない宿泊主体型ホテルが大半を占めています。こうした「宿泊インフラとしてのホテル」は、スケールメリットを効かせることができるために、大手が有利となります。

 では、大手ではなく、資本力も弱いホテルは? これこそ、標準化から個性化の変化に対応すべき部分でしょう。

 時代を鋭く分析し、価値ある示唆を社会やビジネス界に提言してくれている山口周氏は、その著書『ニュータイプの時代』で、モノの価値を<役に立つ>と<意味がある>という二軸のマトリックスで解説しています。そして、「<役に立つ>という在り方の市場で勝者になるのはごく少数であり、それ以外の多くは敗北する」と語っています。

 自動車業界の例でいうと、「快適に移動する」という役に立つ乗り物であるカローラ(今でいうとヴィッツでしょうか)は、表の左上に位置します。一方、2シーターで荷物もほとんど積めず、爆音をとどろかせて猛スピードで走るフェラーリのような車種は右下、「役に立たないけれど意味がある」枠に位置します。フェラーリは数千万円を払ってでも買いたい人がいる、つまり、欲している人にとっては「唯一無二の意味」があるのです。

 このマトリックスはホテル業界にも当てはまります。左上は、大手宿泊特化型ホテルチェーン。山口氏の論で言うと、この市場で勝つのはごく少数です。ではフェラーリに当たるのはというと、私は京都の「俵屋旅館」のような存在だと考えます。宿泊客は俵屋の建物や設え、節句の表現、料理やおもてなしなどに大きな意味を見出し、1泊2食に10万円前後を支払います。

 私がホテル業界に提案したいのは、「意味がある市場で、ブルーオーシャンを見つけよう」ということです。大手数社しか生き残れない「役に立つ市場(標準化の市場)」ではなく、「意味がある市場(個性的な魅力で選ばれる市場)」で、独自の魅力を創造して、それに共感する人たちに顧客になってもらう。どんな人たち(ペルソナ)に、どんなコンセプト(価値)を提供するのかを明確にしていく戦略です。

 意味や個性的な魅力・価値を創っていく方向性には、ローカル文化、地産地消、働くヒトやコミュニティ、アクティビティ、世界観、哲学などが挙げられます。これは、ホテル企業の経営のためだけではなく、日本社会の成熟化の意味でも大いに価値のある在り方です。単なる寝床としてのホテルばかりの社会よりも、個性的なホテルがたくさんあって、自分の好みに合わせて選ぶことができる社会の方が豊かに決まっていますから。

③急速なデジタル化(デジタルを使わないは、死を意味する時代)

 コロナ禍でデジタル化が急速に進み、我々の生活や仕事は、ネット上で展開されている時間がどんどん長くなっています。時代は「Digital or Die(デジタル化しないと、死ぬだけだ)」です。ホテルや旅館は、どこに行っても「人が足りない」と言われます。でも、問題解決の答えは「人を増やすこと」だけじゃないはずです。

 理想はこの状態です。人口減少の日本において「スタッフ数」を増やすことは至難であり、「能力」か「モチベーション」を高めることも必要です。とはいえ、この2つも一朝一夕には上がりません。だったら、左辺の「仕事量」を減らすことです。人でなくてもできる業務をロボットやIT技術にやってもらうことで、人のパフォーマンスを高めることを考えるべき。製造業や外食業はすでにこれを進めています。「いやいや、ホテルは、ここを省いちゃおしまいだ」という人は、思考停止状態に陥っていると思います。人のパフォーマンスを高め、ホスピタリティを発揮できる時間と余裕を作ることで、アウトプットの量と質は上げられるのですから。

 もう1つ大事なポイントは、「行動量より思考量」ということです。昭和のホテルでは、四大卒の新入社員が現場の効率化などを提案すると「そんなことを考えている暇があったら体を動かせ」なんて言われていましたが、今は逆であるべきでしょう。思考することでアウトプットの質と量を高めていくスタンスが必要です。

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