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インタビュー:「ツアコンオブザイヤー2017」大賞のHIS中田氏

「一時しのぎ、10回でやめる」からプロへ
添乗力とは「実践力」と「経験値」

-ツアー中にお客様から苦情が来ることもあると思いますが、どう対応していますか

「ツアーコンダクター・オブ・イヤー2017」の授賞式の様子

中田 まずは、お客様の仰ることをすべて受け止めるようにしています。若い時は「いつ辞めてもいい」と思っていたので、本気でお客様と喧嘩をしたこともありましたが、今は、「大金を払ってはるばるやって来て、しかもここを訪れるのは最初で最後かもしれない」といったお客様の状況を理解しなければならないと考えています。

 以前、空港でお客様の足に別のお客様のカートがぶつかった事件がありました。足にカートをぶつけられたお客様は、同じツアーの仲間なので文句を言いづらく、同行のアシスタントに文句を言いました。私は別行動をしていたのでそのような状況を知らないまま集合場所でそのお客様に声をかけたところ、お客様から大声で怒鳴られました。そのうちお客様は、私がその場にいなかったことに気づいたようですが、その後も「ホテルのトイレが狭かった」など無関係なことで理不尽に怒り始めました。

 そのような場合も黙ってお客様の意見を伺って、お客様が落ち着いて「まあ、君に言っても仕方がないが」と言い始めてから、初めてこちらからお話しました。お客様自身のいろいろな気持ちを一度しっかりと受け止めてからお話すると、納得する方が多いです。


-現在はHISで添乗以外の活動もされているとのことですが

中田 私を含めて3名の「添乗員チーム」に所属し、派遣会社の添乗員とともにHISの都内の旗艦店を回って、お客様の旅行の相談に乗る「添乗員デスク」という取り組みをしています。現在は新宿本社のインプレッソ専門デスク、銀座本店のヨーロッパ専門店、渋谷、上野、横浜など首都圏の13店舗でサービスを展開しているところです。

 「添乗員デスク」では、HISのパッケージツアー「impresso」に関する質問を主に受け付けています。参加するツアーが決まっているお客様は、ツアーの前にできるだけ詳しい情報を知りたい方が多く、自由時間を取る場所やタイミング、ホテルから地下鉄駅までの距離など、細かい質問が多くなります。旅行先が決まっていないお客様については、旅行の時期や見たいものなどをヒアリングして、行き先を提案しています。


-旅行者のFIT化が進むなか、添乗員付きのパッケージツアーの魅力は何だと思いますか

中田 バックパッカーとして旅行した経験などを踏まえても、その国を深く知りたいと思った時に最適なのはパッケージツアーだと思います。バックパッカーとして1人で自由に行動すると、旅行の際に誰とも会話をしないことがあります。また、「自分自身で見た」という自負がある分、勝手な思い込みに固執することがあると思います。一方、添乗員付きのツアーはその地域をよく知る添乗員が同行し、ガイドやドライバーなど現地の人々と触れ合う機会が少なからずあります。

 ツアーグループでさまざまな「旅行観」を共有できるのも魅力の1つ。1人で旅行したら腹を立てることでも、一緒に旅行した人たちが「こういったことがあるから勉強になる」「海外ではよくあること」と言えば、「そういう旅行観もあるのか」とプラスに捉えることができると思います。

 また、ツアーは旅行会社、航空会社、現地のランドオペレーターなどが管理しているので、事件や災害が起こった際の対応が早く、予防策もしっかりしています。例えばバックパッカーとしてモロッコに行った際、勝手にガイドを始める押し売りに毎日囲まれ、落ち着いて観光ができませんでした。ツアーでモロッコに行った際は正規の現地ガイドと現地の旅行会社がサポートしていたので、そういったことはありませんでした。