日本遺産で地方送客へ、文化財を「ストーリー」として発信
文化庁は20年までに100件認定
認知度向上へ「国際フォーラム」開催も
パネルディスカッションでは、クラブツーリズムや日本政府観光局(JNTO)などからのスピーカーに加えて、日本遺産の認定に向けた取り組みに携わっているジャーナリストなどが登壇。海外に「ストーリー」を発信して外国人旅行者を取り込む際の課題について意見を交換した。
生駒芳子氏 日本遺産プロデューサー フュートゥラディションワオ代表理事 ファッションジャーナリスト
黒田尚嗣氏 クラブツーリズムテーマ旅行部顧問
ドラ・トーザン氏 国際ジャーナリスト エッセイスト
小堀守氏 日本政府観光局理事
モデレーター:
ロバート・キャンベル氏 日本文学研究者 東京大学大学院教授
外国人目線の情報発信と受入対策を
モデレーターを務めた、日本文学研究者で東京大学大学院教授のロバート・キャンベル氏は、冒頭で「日本の観光には特徴的な魅力と課題がある」と問題提起。魅力として「1つの国のなかで多様な自然や気候、料理、風俗などを経験できること」を挙げた一方、課題としては「行政や地域の人々の意識が縦割りになっている」と述べ、「日本遺産は1軒の歴史的建造物などではなく、1つのエリアとして地域が連携し、その背景にあるストーリーをプレゼンテーションしていかなくてはいけない」と語った。
キャンベル氏の意見を受けて、まずは各パネリストが日本遺産に関するプレゼンテーションを実施。伝統工芸の再生・発信プロジェクトを手がけるフュートゥラディションワオ代表理事で、日本遺産のプロデューサーも務めるファッションジャーナリストの生駒芳子氏は、現在の日本遺産に共通する課題として、「その場にアクセスするための交通手段が未整備なところが多い」「地元の人々の関心が低い」「物語が旅行者に伝わらない」「補助金がなくなる4年後も自走できるか怪しい」「複数の市町村にまたがる場合、各地域が個別に動いている」などを列挙した。
その上で、交通手段の整備については、「秘境」とされる地域も多く選ばれている日本遺産の良さを保つため、団体旅行よりも個人旅行に適した交通手段を開拓することを、地元の関心の向上に向けては市民参加型のワークショップの開催を、物語を伝えるためにはガイドとなる「語り部」の育成や、エコロジーなど現代のトピックと関連する催しの実施を提案。また、補助金の公布が終了した後の自立に向けては、首長がリーダーシップを取って自治体内に専門の組織を作り、観光課や商工課、民間と連携してピーアールをおこなうこと、地域の連携に向けては各地域のビジョンをすり合わせ、価値の共有をめざすことが重要とした。
クラブツーリズムテーマ旅行部顧問の黒田尚嗣氏は、日本遺産の認定地域が外国人にとって魅力ある観光地になるために必要な要素を説明した。クラブツーリズムはバスツアーを中心とした訪日向けの旅行商品「YOKOSO Japan Tour」を販売しているところ。黒田氏は「これまでの外国人向け旅行商品は、『日本の名所を見る』という形でピーアールをしていたが、今後は名所を『見る』のではなく、観察や体験を通じて『理解する』ツアーをめざす」と述べ、日本遺産のコンセプトに同調するとともに、外国人目線での商品企画と情報発信、ストーリーを細かく説明できるガイドの育成の重要性を示した。
日本政府観光局(JNTO)理事の小堀守氏は、日本遺産を活用した海外向けプロモーションについては「情報発信も受入体制の整備も、外国人目線でおこなわなくてはいけない」と強調。加えて、「何度も行ってみたい観光地やコンテンツを育て上げて発信していくためには、捨てる勇気も重要。数ある観光資源のなかから絞り込み、マーケティングに基づくプロモーションをすると同時に、受入体制などの質を向上させる必要がある」と述べた。