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インタビュー:外務省領事局海外邦人安全課長の石瀬素行氏

邦人の安全確保に「旅行会社も巻き込む」
「たびレジ」などで官民連携推進

旅行会社のツアー造成に大きく影響する、危険情報のレベル判定やスポット情報などの発出基準はどのように設定していますか

石瀬 人口当たりの犯罪件数や警察官の数などを、方程式のようなものに当てはめてレベルを決定しているわけではないことをご理解いただきたい。すべての国を表面的な数字をもとに比較したところで「日本人にとっての安全さ」は割り出せない。政治や社会の情勢、現地の大使館や治安当局、報道機関、さらには駐在員の肌感覚なども含めて、得られる限りの情報から総合的に判断している。一部の関係者との意見交換だけで判定しているわけではない。

 ある特定の地域に進出したい企業や、ツアーを造成したい旅行会社、現地在住の日本人など、一定の利害関係を持つ方のなかには、自らの感覚に基づいてレベルの引き下げなどを陳情される方もいる。それが悪いと言うつもりはないが、そうした感覚が常に正しいかというと、決してそうとは言い切れない。直後に治安が悪化したり、テロ事件が起こったりして、そのような声が自然に消えていくケースもある。


シリアでの日本人殺害事件を契機にした15年の表記改定では、レベル2の「不要不急の渡航は止めてください」の書きぶりが注目されました。ガイドラインでレベル2の地域へのツアー造成を認めている日本旅行業協会(JATA)にとっては、影響が大きかったのではないでしょうか

石瀬 レベル2の表記については単に厳格化したとは考えていない。従来は「渡航の是非を検討してください」としていたが、「メッセージが具体的に伝わりにくいのでは」との懸念があった。諸外国での表現も「不要不急の渡航は止めてください」と似たものが多いが、要は「今回の渡航はどうしても必要で、急ぎの案件なのか」とよく考えて、厳しい判断をしてほしいという趣旨だ。

 変更後は官民問わず「分かりやすくなった」という声が増えたと思う。そもそも近年は「世界は安全になってきた」と感じる人よりも、「注意しなくては」と感じる人が増えているのだから、異論を唱える人は少ない。実際に多くの旅行会社がレベル2の地域へのツアーを造成していないということは、我々の判断を参考にしていただいた結果と理解している。


14年には、レベル4の退避勧告を発出していたアフリカのニジェールで、ある旅行会社が受注型企画旅行を催行して波紋を呼びました

石瀬 レベル3以上の地域へのツアーは、多くはないが今も催行されている。そのようなツアーを催行する旅行会社には省まで来ていただき、「非常に危険なので中止して欲しい」と要請している。

 個人旅行者やジャーナリストなどのなかにも、危険な地域に行くことをソーシャルメディアなどで発信している人が散見されるが、可能な限り本人または家族、所属先の企業などに連絡して再検討をお願いしている。我々に渡航の自由を制限する権限はないが、危険情報を発出していることは必ず伝えて、強く再検討を促している。