海外医療通信2016年1月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報(2016年1月)

(1)中南米でジカ熱の流行が拡大

中南米で蚊に媒介されるジカ熱の流行が拡大しています。2015年5月にブラジルで最初の患者が確認されてから、流行は中南米22カ国に及んでいます(WHO 2016-1/28)。また、この病気に由来するとされる2つの重大な健康問題があります。一つは妊婦が感染した場合、新生児に小頭症という先天奇形をおこす可能性がある点です。この問題はブラジルで多く発生しており、今までに3500人以上の患児が確認されました(PAHO 2016-1/17)。もう一つはギランバレー症候群という神経疾患を合併する点で、中米のエルサルバドルで合併例が増えている模様です(WHO 2016-1/21)。

ジカ熱はデング熱と近縁のウイルスによりおこる病気で、発病直後の症状で区別することは困難です。診断はウイルスの検出や抗体検査が行われますが、日本では国立感染症研究所や一部の衛生研究所で検査が実施されています。媒介する蚊はデング熱と同じシマカ(ヤブカ)で、昼間吸血する種類です。流行地域に滞在する際には、蚊に刺されない対策を十分にとる必要があります。なお、米国CDCや英国NaTHNAc(渡航医学情報サービス)は妊婦が流行地域に滞在するのを控えるように勧告しています(米国CDC 2016-1/19, 英国NaTHNAc 2016-1/19)。また、1月20日に日本の国立感染症研究所も同様の勧告(下記pdf参照)を発表しました。ブラジルでは今年の8月にオリンピックが開催されるため、試合の観戦で渡航する人にも注意喚起が必要です。

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10906000-Kenkoukyoku-Kekkakukansenshouka/0000109917.pdf

(2)中国での鳥インフルエンザ患者の発生

中国では毎年冬季に沿岸部で鳥インフルエンザA(H7N9)型の患者発生がみられています。今年も1月になり浙江省や広東省で10人の患者が確認されました(WHO 2016-1/10)。全ての患者は発病前に生きた家禽との接触があった模様です。2月は春節で多くの人が移動するため、患者数がさらに増える可能性があります。

なお、中国ではA(H5N6)型の鳥インフルエンザの患者も散発しており、最近1か月間に広東省などで5人の患者が確認されました(WHO 2016-1/21)。患者は全員が重症の肺炎をおこしており、3人が死亡しています。このウイルスも家禽からの感染によるものとみられています。

(3)シンガポールでデング熱患者が増加傾向

シンガポールでは昨年のデングン熱患者数が1万人と例年よりも少ない数でした。しかし12月からの雨季到来とともに患者数が増加しており、この傾向は1月も続いています(WHO西太平洋 2016-1/13)。シンガポールでは国内各地で建設工事が盛んに行われていますが、工事現場周辺はデング熱に感染するリスクが高くなるため、とくに注意が必要です。

(4)デング熱ワクチンの承認国が広がる

前号でサノフィ社が製造しているデング熱ワクチン(Dengvaxia)がメキシコで承認されたことを報告しましたが、その後、このワクチンはフィリピンやブラジルでも承認されました。これらの国で実際に接種できるようになるまでには、まだ時間がかかりそうです。このデング熱ワクチンに関する話題は今号の「今月の海外医療トピックス」に掲載されています。

(5)タイでMERS患者が発生

タイのバンコクで1月中旬に同国で2例目となるMERS(中東呼吸器症候群)の患者が発生しました(WHO 東南アジア 2016-1/24)。この患者は中東・オマーンから入国した71歳の男性で、この患者以外には拡大していない模様です。中東のオマーン、サウジアラビア、UAEでは1月もMERS患者の発生が続いており(WHO 2016-1/4, 7, 26)、こうした国々に滞在する際には感染源となるラクダに近づかないように注意が必要です。

(6)西アフリカのエボラ熱~終息と再燃

西アフリカのギニアでは2013年の年末よりエボラ熱の流行がみられていたましたが、WHOは2015年12月29日に流行が終息したことを宣言しました(WHO 2015-12/29)。これを受けて、厚生労働省では、それまで検疫所で行っていたギニアから入国する者に対する健康監視を中止することを発表しました。一方、隣国のシェラレオネではエボラ熱の終息宣言が2015年11月に出されていましたが、1月中旬に患者1名が発生しました(WHO 2016-1/15)。現在、接触者の健康監視が行われています。

(7)モザンビークでマラリアの流行が拡大

アフリカ南部のモザンビークでマラリアの拡大が報告されています。同国北西部のTeteでは2015年に37万人のマラリア患者が発生し200人以上が死亡しました(ProMED 2016-1/11)。患者数は2014年の10倍以上になっています。モザンビークには日本の企業や国際協力団体からの派遣者が数多く滞在していますが、滞在中はマラリアの予防内服も含めて十分な対策をとる必要があります。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2015年12 月7 日~2016年1月10 日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.htmll

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸菌感染症3例、腸・パラチフス3例、アメーバ赤痢7例、A型肝炎3例、E型肝炎2例が報告されています。最近はE型肝炎の事例が増加傾向にあり、今期は中国とパキスタンでの感染でした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が26例で、前月(12例)から大きく増加しました。これは冬休みで流行国に渡航する人が増えたためと考えます。感染国はフィリピン(8例)とベトナム(6例)が多くなっています。なお、2015年のデング熱累積患者数(輸入例)は292例で過去最多となりました。マラリアの報告はアフリカでの感染が1例で、前月(0例)に続いて少なくなっています。


・今月の海外医療トピックス

メキシコでデング熱ワクチンが認可

昨年、インドや東南アジアで大規模な流行をしたデング熱ですが、2015年12月9日、Sanofi Pasteur社がメキシコで予防ワクチン(Dengvaxia®)が承認されたと発表しました。

このワクチンは、4価の弱毒生ワクチンで、今回の承認内容では流行地域に住む9-45歳が対象で接種スケジュールは明らかにされていませんが、臨床試験では2-14歳、または9-16歳の小児に6ヶ月間隔で3回の接種が行われています。New England Journalに掲載された臨床試験では、デング熱による入院の相対危険度を対照群に対し、ワクチン接種群では0.84とした解析結果も発表されています。効果や副作用などについては、今後の調査が望まれますが、流行国へ渡航する者にとって今後考慮すべきワクチンとなるかもしれません。但し、接種対象年齢や接種スケジュールが海外勤務者への接種の際には壁になりそうです。 兼任講師 古賀才博

http://www.sanofipasteur.com/en/articles/dengvaxia-world-s-first-dengue-vaccine-approved-in-mexico.aspx


・渡航者医療センターからのお知らせ

1)  第15回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

次回の実用セミナーは下記日程で開催いたします。テーマは 「リオデジャネイロ オリンピック・パラリンピック参加者の健康対策」です。皆様のご参加をお待ちしています。

・日時:2016年2月25日(木曜) 午後2時~午後5時 ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・会費:無料 ・定員:約100名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。

・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください) http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html      

2)第29回トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)

標記研修会が下記の日程で開催されます。今回は「最近の渡航者用ワクチンをめぐる変化」に関する講演などがあります。

・日時:2016年2月13日(土)午後1時半~5時半 

・会場:国立国際医療研究センター 研究所B棟地下会議室(新宿区)  

・詳細は以下のホームページをご参照ください。http://www.npo-bmsa.org/img/tvf29_2nd.pdf

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