ツーリズム産業が復興の主導に-危機時の取り組み、WTTCより

  • 2012年5月8日

アップデートとコミュニケーションが鍵

JR東日本取締役副会長の小縣方樹氏

 登壇者のうち、日々、リスクに対する改善を行っている例として、東日本旅客鉄道(JR東日本)が紹介された。日本の新幹線はこれまで開業から衝突、脱線による死亡事故はゼロ。これを守り続けるための安全管理体制をJR東日本取締役副会長の小縣方樹氏が発表した。

 東日本大震災では、2004年10月の中越地震での脱線による教訓を受け、地震探知から緊急ブレーキまでの時間を短縮する取り組みを続けた結果、東日本大震災では大きな脱線が発生しなかった事を紹介。技術的には地震発生時の初動波P波を感知し、自動で新幹線を停止させる仕組みがあり、現在も日々改良を重ねているという。こうした技術的なことに加え、旅客対応でも地震発生時のマニュアル整備や繰り返しの訓練をしてきたことで、東日本大震災時に運行していた新幹線27本、在来線670本で、乗客の死亡はなかった。

 このような危機に対する取り組みは、旅行会社や宿泊施設でも取り入れられる部分がある。特に、交通機関の停止に備えた対応、顧客対応のマニュアル化と日々の見直し、コミュニケーションの明確化などがあげられるだろう。

左から)PATAのバート・バン・ウォルビーク氏、UNWTOのディルク・グラッサー氏

 危機への備えの重要性を強調したのは、太平洋アジア観光協会(PATA)で危機管理と早期リカバリーを担当するタスクフォースのバート・バン・ウォルビーク氏とUNWTOのリスク・クライシス・マネジメントコーディネーターのディルク・グラッサー氏だ。

 PATAはスマトラ沖大地震と津波被害や、フィジーでの大雨による洪水などの対応など、危機への対応事例は多い。そうした経験から、発生後の対応は、ツーリズム産業の一人ひとりが「われわれの仕事」という意識で共同責任を持つ必要があると強調する。このためにはチームワーク、コミュニケーションが重要になり、さらに関連する多くのステークホルダーの理解を得ることが不可欠だ。

 UNWTOのグラッサー氏は、多くの人が旅行をすぐに再開できる「復元力」の高い観光が重要になるとも話す。例えばSARS以降はインフルエンザや感染症対策で、国連各機関が連携して情報に一貫性を持たせ、共同発表としてプレス向けにリリースするなど、リスクへの対処法を改善してきている。改善の積み重ねで、リスク発生時にもその後の回復に大きな効果が発揮されるという。

 さらにUNWTO、PATAは観光開発自体にも回復力があると指摘。コミュニティの関わりが大切な要素で、つまり、一般の人たちや警察など、観光関係以外の地域コミュニティの人たちが、ツーリズム産業で重要な役割を担っているという考えだ。このため、ツーリズムの回復プランを練るにあたっては当初から、多くの関係者が参画ができる体制づくりが重要なポイントだという。