インバウンド、震災から回復しベストデスティネーションとして発展するには

  • 2011年10月25日

観光庁のメディア対策
政府の声より人の声

ビコ代表取締役の李碩鎬氏
 このような風評被害を防ぐために、観光庁は震災発生直後から国内外に対する安全情報の提供をしてきたが、山田氏は「悪い情報は針小棒大にあっという間に世界中に広がっていく。正しいニュースは発信しても拾ってもらえない」と感じているという。「そのような状況には自分達で情報源を作り出し、JNTOなどを通じて根気よく事実関係を流してきた」という地道な活動を展開してきた。

 しかし、山田氏は外国人が日本政府の発表に信頼感を失いはじめている現状を目の当たりにした。そのため、メディアコントロールの第2段階として800社、約1000人のメディアや旅行会社を招請したほか、留学生や在日外国人による情報発信を推し進めている。

 一方で、李氏は「韓国においてはメディアコントロールを民間業者が感じるほど強かった」と感じた一方、「国の顔しか見えなかった」という感想をもつ。JNTOやJATAから声明や提案はあるものの、「民間レベルからのポジティブなメッセージが少なかったのが残念」との印象で、例えば取引先のホテルはホームページの右側に小さくアピールする程度だったという。海外からの受け止められ方を考えると、民間レベルでも積極的に声をあげていくことにも意義があるようだ。


円高とアウトバウンドの好調
航空座席の不足も回復を阻害か

沖縄ツーリスト代表取締役社長の東良和氏
 積極的なメディア対策にもかかわらずインバウンドの回復が遅れている背景には、風評以外の問題がある。そのひとつとして、東氏は円高と好調なアウトバウンドがインバウンドに影響し、回復を鈍化させる構造があるのではないかと指摘する。

 具体的には、航空座席の不足があげられる。韓国から送客をしている李氏は、それを実感している一人だ。韓国市場では震災後に積極的な広告を展開し、日本/韓国線のLCC地方発着の便の計画が多くあったにも関わらず、8月末でも韓国からの訪日外客数は対前年同月比40.5%と回復が鈍い。「今年の夏は必死で宣伝して売ったのに、飛行機がないという状況だった」という現状への対策として、李氏は「航空会社と協力してインバウンド用のフライトを確定させるなど、インバウンドに対する計画的な席の確保も必要なのではないか」と提案した。

 東氏も「8月の日本人出国者数が短月で過去最高水準というのは手放しには喜べない」という。円高の状況で航空会社が日本に座席を優先させて販売するという経済合理性が働いているため、「8割、9割の座席が埋まり、韓国などほかの市場に席が回らない。沖縄でも同じような状況が起こっている」と東氏は説明する。「将来的に旅行業のビジネスモデルの伸びしろがインバウンドにあるとすれば、ここは一歩立ち止まって、売りにくくてもインバウンドを真剣に取り組む努力が各旅行会社に必要になってくるのでは」と訴えた。