取材ノート:2011年展望−団塊リタイア効果が徐々に進行、宿泊増を期待

  • 2011年2月1日
 財団法人日本交通公社(JTBF)主任研究員の黒須宏志氏は、昨年12月に開催した旅行動向シンポジウムで「旅行マーケット最新動向と2011年の展望」を発表、市場動向では引き続きシニアが伸び、特に団塊の世代のリタイアがすすむにつれ、日程にゆとりのある旅行の需要が高まると分析した。海外市場では20代女性の伸びにも注目が集まる。一方、国内市場は2010年にやや上昇に転じたが、この回復は一時的なものと解釈。2011年の海外旅行者数を、2010年の予測値1660万人から4.2%増加して1730万人と予想した。


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団塊世代、リタイア効果は「五分咲き」
数年かけて旅行日数増加の予測


 2010年の市場全体の流れを2009年と比較すると、「(旅行の)機会や支出を搾っている、搾らざるを得ない」と答えた人は、34%から40%に増加した。年代別では40代に倹約の傾向が強い。ただし、「機会や支出を増やしている」との回答も4%から7%へ増加している。特にポジティブなのは60代で、この10年の旅行者数は過去最高の水準を徐々に更新しているという。黒須氏は「テロなどによる短期的な落ち込みはあるものの、シニアの伸びが市場に与える影響はきわめて大きい」と述べる。

 とはいえ、「シニア世代によって一気に変化が起こるわけではない」とも指摘。2007年は1947年生まれの最初の団塊世代が定年を迎える年だったが、市場に特別な変化は見られなかった。その理由は、年金の満額受給年齢引き上げなどの影響で再就職をして働く人が多く、「完全にリタイアした人が3割しかいない」からだ。定年の時期は各人によって異なるため、黒須氏は「今後数年をかけてじわじわと市場の変化がすすむ」と捉え、「団塊世代のリタイア効果はまだ『五分咲き』」と表現する。

 また、団塊世代の旅行需要には「時間的余裕」という特徴が見られる。団塊世代の男性は今後旅行に使うお金について、29%が「やや増える」、8%が「かなり増える」と答えているが、その理由は「時間的余裕が増えそう」が82%を占める。年間の旅行日数についても「やや増える」が30%、「かなり増える」が8%で、成人人口全体の各14%、2%と比べて高い割合を示す。理由としては「旅行の回数が増えるから」が77%、次いで「旅行日数が全般に長くなるから」と答えた人も成人人口全体で25%だったのに対し、団塊世代では48%に上った。

 これらの結果から黒須氏は、リタイア世代の旅行の質的変化を強調。「日本の旅行は短期間でいかに遊ぶかという商品に集中してきた」が、「時間のあるリタイア世代では一回あたりの旅行日数を増やしてリーズナブルに、という要望がでてくる」と分析する。たとえば遠隔地への旅行でもう1泊分を延泊する、ワゴンタイプの自家用車やキャンピングカーを利用して車中泊をする旅行の需要が表れるなど、これまでの「旅行の回数は増えるが日数は増えない」という状況が変わってくると予測する。


海外旅行は女性好調、男性にも伸びしろ
来年下期の座席供給量が課題


 海外旅行市場は、全体として上昇傾向だ。もっとも、2008年9月のリーマンショック前後を比較すると、需要の戻りに男女で大きな差がある。女性は2009年1月には出国率が回復傾向となり、2010年9月にはすべての年代で2009年8月のレベルを上回っている。特に20代の伸びが顕著で、黒須氏は若年層の旅行者数減少が指摘されているなか、20代女性を「現時点ではきわめて強気、中長期的に増加の基調」と評価し、今後の若年層市場における裾野の広がりに期待する。一方、男性が上昇に転じたのは2010年1月から。現状ではまだリーマンショック前の水準まで至らず、その分「伸びしろがある」と述べる。特に40代前半には増加の余地があり、「ビジネスだけでなくレジャーにも強い世代」と可能性を示す。

 もう一点、黒須氏が海外旅行市場で重要視するのは、座席供給量だ。日本発の国際線座席供給量は2009年に低下し、2010年にはやや回復を見せた。2011年の第1四半期は、「再国際化した羽田空港を中心に新規の需要が創出される」ため、前年同期比6.1%増と高い上昇を予想している。問題は羽田の上乗せ効果が、ほぼ出尽くすと見られる来年の下半期。1.7%増と伸び悩む予想だ。ただし、航空協定の進捗によるものの、現在就航していない中国路線など新規就航の可能性がある。さらに黒須氏は「市場には伸びる力がある。下期に備えて業界から先導して需要を引き上げ、座席供給量増加に取り組んでいくべき」とし、業界側から働きかける必要性を主張する。

 2010年は、旅行者数が1660万人で前年比7.5%増に対し、座席供給量は0.1%増であった。2011年は海外旅行者数(予測)が4.5%増の1730万人に対し、座席供給量は3.2%増にとどまると予想している。日本航空(JL)による減便、機材の小型化が業界に大きな影響を与えている事実はあらためて認識した上で、黒須氏は「需要の伸びに対して供給の伸びが抑制的であることが大きなマイナス要素」と重ねて指摘した。


国内旅行の回復は一過性
今後は高速割引が旅行の前提に


 国内旅行市場に関しては、今年の4月から6月に宿泊需要の伸び率が前年比15%増以上に高まったものの、黒須氏は昨年の新型インフルエンザによる落ち込みの反動と解説。また、2009年から導入された高速道路の割引・無料開放施策で利用者が増加したが、実情はトラック貨物の増加であり、「レジャーというよりビジネス需要が増えたと理解すべき」と述べる。全体としてはいまだに長い下り坂の延長にあり、黒須氏は「2010年の回復は一過性といっても過言ではない」と楽観視を戒めた。なお、高速道路割引の効果は来年以降「定着する」と見て、今後は高速道路の利用を前提として、片道3時間以上の遠出を計画する人が増えるとも述べた。

 また、インバウンドは2010年が26.7%増の860万人、2011年は2010年予想値の15.1%増となる900万人との予想だ。インバウンド市場については、CNNとVISAの調査によると、日本が「アジア太平洋地域で2年以内に行ってみたい国」の第2位にランクインしており、注目が高まっている感触があるという。東アジアやタイ、シンガポール、アメリカなどで日本の人気が高い。

 主要市場別の寄与度をみると、2010年よりも高まるのは中国で8.8%。これについて、黒須氏は「政治は政治、観光は観光で変わらないことを期待している」とする。一方、2010年に9.3%であった韓国は「不透明な要素が多い」と2.6%と大きく縮小。また、2010年が3.8%であった台湾は、「中国本土へ需要が流出し、2010年ほどにはいかない」と1.8%の予想だ。


取材:福田晴子