羽田特集:現地レポート、台湾・松山線就航で広がるショートトリップの可能性

  • 2010年11月26日
日帰り台北ツアーでみえてきた
羽田/松山線就航で広がるショートトリップの可能性


 2009年の台湾/日本間の交流人口は約200万人、訪台日本人は5年連続で100万人を突破している。相互に渡航者数が多く黄金ルートといわれる台北/東京間のアクセスは、従来の成田/桃園線に加え10月31日に日本航空(JL)、全日空(NH)、チャイナエアライン(CI)、エバー航空(BR)の4社が羽田/松山線に就航したことでさらに利便性が高まった。運航便数の増加だけでなく、羽田空港、松山空港とも都心に近い好立地で現地での時間を有効に使えるため、週末の1泊2日旅行など休暇取得を必要としない商品が続々と登場。CIでは、キャンペーンで当選した一般旅行者を対象に羽田/松山線初便を利用した研修旅行を実施し、究極のショートトリップともいえる日帰り台北ツアーで新たな可能性を紹介した。
                            
                          
都心の松山空港
中心地への近さが効率的な旅行を可能に


 今回の日帰り旅行で利用したのは、羽田/松山線を就航する4社計8便のうち、最も羽田の出発時間が早い便と羽田への帰着が最後の便で、午前7時00分に羽田を発ち、午後9時55分に戻る。チェックインなどの時間を考慮して、現地滞在時間は7時間ほどで、その間に故宮博物院の観光と鼎泰豊(ディンタイフォン)での昼食、ショッピングとお茶セミナー、足裏マッサージ、と主要スポットや体験が盛り込まれたコースだ。

 日帰りにしては訪問先が多く、慌ただしい旅程になるのではないかと思えたが、松山空港は台北都心部に位置しており、例えば台北車站や台北101まではMRTや車で15分から20分程度とアクセスの利便性がかなり高い。さらに羽田同様コンパクトな設計で、空港内もさほど歩き回らず外に出られるなど、移動時間が短いため効率よく観光に時間が使える。

 今回の故宮博物院の鑑賞時間は90分で、ガイドの案内で翡翠の彫刻「白菜」をはじめ特に人気がある展示を見て回った。後半には自身で展示を回ったり館内でお土産を買う時間として自由時間が取られたが、少し駆け足になってしまった。70万点以上の収蔵品がある館内は、思う存分に見ようとすると所要時間は測りきれない。ただし、90分の鑑賞時間は宿泊を伴うツアーでも同じ行程のものもあり、特に短いわけではなく、一般的に人気のある展示物をしっかりと鑑賞するのは可能だ。とはいえ、ツアーのターゲットやテーマに応じて鑑賞時間を調整する必要があるだろう。

 また、ツアー参加者の反応が特に良かったのが鼎泰豊だ。ニューヨークタイムズに「世界10大レストラン」の一つとして紹介され、2009年には香港店がミシュランで星を獲得したこの点心料理専門店は、各国からの観光客や地元の客で常ににぎわっている。今回訪れたのは本店で、正面のガラス越しに職人たちが熟練の技で小籠包を作っているところが見られ、待ち時間につい見入ってしまう。名物の小籠包を一口食べた瞬間、「この小籠包のためにまた台湾に来たい」という感想が参加者から飛び出した。鼎泰豊は台北のほかの点心の店に比べて高価格になるが、それでも日本の感覚からするとリーズナブルに本当においしい料理を楽しむことができる。その後、お茶セミナーとショッピングに寄り、最後に足裏マッサージで1日の疲れを癒して、松山空港から帰路についた。


休暇取得が不要の週末ショートトリップに期待

 日帰り旅行は確かに強行軍的なツアーといえる内容だが、実際に体験してみるとそれぞれのスポットで急かされるようなことは少なく、意外にじっくりと楽しめる印象を受けた。組み合わせ方によってはあと1、2ヶ所まわることもできそうなくらいだ。夕方に空港へ向かうため、残念ながら夜市や温泉に寄ることはできなかったが、あと1日あればかなり多くの観光ができるだろう。1泊2日であれば休暇を取らず週末だけで行ける気軽さが、旅行需要を呼び起こす起爆剤になりそうだ。

 このツアーを賞品としてCIが実施した「パッとシュッと台湾トリップキャンペーン」には、9月のJATA世界旅行博会場や駅前で配布したチラシ、CIホームページを通じて6000名の応募が集まった。応募の際に実施したアンケートによると、台湾への渡航経験は0回、1回、2回から4回がそれぞれ2割ずつで、5回以上が4割という結果となった。回答者は海外旅行に関心のある人の割合が高いとみられるが、8割が台湾を訪れたことがあり、その多くが複数回渡航しているという。デスティネーションの継続的な成長にはリピーターの取り込みなくしては難しいが、台湾はその条件をクリアしているといえる。日帰り旅行はCI利用でなくては難しいかもしれないが、1泊2日ならCI以外の3社の羽田便でも実現可能だろう。羽田線就航で新しい旅行スタイルが可能となることで、新規客とリピーターの両方の底上げに期待したい。

 羽田線の就航に加え、2011年は台湾100周年という節目を受け、日台交流人口目標は300万人に設定されており、達成の糸口としてまずショートトリップという新しい旅のスタイルを浸透させていく必要がある。今回の研修旅行は台湾日帰り旅行のインパクトに加え、参加者の中に特別枠で当選した、両空港と同じ名前の「羽田」さんと「松山」さんが12名いたという話題性もあり、日本と台湾双方で各種メディアに取りあげられ、羽田/松山線は好調な滑り出しとなったという。CIではそのほか、羽田線の利便性を体感してもらおうと3ヶ月間の特別料金を設定するなど、積極的なプロモーションを展開している。


早朝出発便の利用には羽田へのアクセス確保を

 CIでは1時間前までのチェックインを呼び掛けており、今回と同じ午前7時発の便を利用する場合は午前6時までの手続が必要。モノレールや京浜急行、空港リムジンバスなどが運行している時間帯ではあるが、地域によっては公共交通機関で間に合わない可能性もある。今回のツアーでも神奈川方面や東京都市部からの参加者など一部、都内のホテルや知人宅に前泊していた人もいた。

 そうした状況に配慮し、CIではオンラインで該当便を含む往復航空券の購入者に羽田パーキングクーポン、ビジネスクラスの場合はタクシークーポンを配布するなどのサービスで対応している。また、一部で駐車場無料サービス付きのコースを設定している旅行会社もある。より広いエリアからの旅客取り込みには、深夜早朝など羽田へのアクセスを確保することが重要といえるだろう。

 一方で成田路線はこれまで通り維持する方向で、羽田が加わることでより多くの選択肢を提供し、利用者の都合に合わせて使い分けてもらいたいとした。今後は羽田、台北、高雄、成田など各路線の組み合わせも検討する予定で、さらなる利便性の向上をはかっていく考えだ。まずはショートトリップから、そして周遊へと、より幅広い台湾旅行の需要増加に期待したい。


取材協力:チャイナエアライン(CI)、台湾観光協会
取材:本誌 梶田啓子