調査・統計:海外渡航市場の構造、年代別と経験値別の動向−エイビーロード

 エイビーロード・リサーチ・センターは今年5月、「海外渡航構造調査2010」を発表した。航空行政の見直しや観光立国政策が推進されるなか、首都圏空港が拡張する2010年を旅行需給の転換点ととらえ、海外渡航市場の構造を把握して今後の情勢変化や各種施策・政策の効果を予測することを目的に実施したもの。2007年から2009年の海外旅行者を年代、およびヘビー、ライト、未経験者の経験別に整理しており、各層の動向分析は今後の海外旅行企画・販売に役立ちそうだ。
                
                
                       
調査名:海外渡航構造調査2010
調査実施:エイビーロード・リサーチ・センター
調査期間:2回に分けて実施
・STEP1 2010年1月13日〜1月19日
 対象数28万887人、調査集計数9万5099人
・STEP2 2010年2月9日〜2月12日
 対象数1484人、調査集計数1392人
※STEP2はSTEP1の調査結果をもとに、海外旅行(レジャー)経験有無と頻度から
「海外旅行アクティブ度」を下記の表のように分けて実施。( )内は有効サンプル数


※海外旅行アクティブ度の定義

「ヘビー」…該当の3年間に毎年海外旅行
      に行った
「ライト」…該当の3年間に毎年ではないが
      海外旅行に行った
「休眠」 …該当の3年間は海外旅行に
      行っていないが、それ以前には
      海外旅行に行ったことがある
「未経験」…今までに海外旅行に行った
       ことがない





レジャー需要が回復、20代女性は強い動き

 調査によると、2009年の海外渡航市場はレジャー渡航のシェアが増加した。法務省発表の年代別日本人出国者延べ人数を調査結果で按分して算出した推計値をみると、女性が20代から60代の各年代で2008年から増加している。特に20代女性は2007年から2年連続で前年を上回り、回復傾向にある。一方、ビジネス渡航は減少。30代から50代の男性はいずれも2008年と比べて20%以上減少した。レジャー需要も減少しているが、30代男性が11.1%減と2桁減であるものの、40代男性は8.7%減、50代男性は5.2%減と、ビジネス渡航ほどは減っていない。

 では、レジャー渡航を経験値別で見るとどうか。2007年から2009年の3年間に毎年海外旅行に行った「ヘビー」層は全体の9.0%。2004年から2006年のヘビーは9.4%で、ほぼ同じシェアであったといえる。また、「未経験」層が2007年から2009年が27.7%と前の3年間に比べて4.2ポイント増加、「休眠」層も43.1%と4.3ポイント増加した。




ライフイベントが渡航機会に影響、渡航の有力なきっかけは新婚旅行

 経験値の推移を見ると、未経験から「ライト」層になったのは全体の3.8%。男女ともに20代が多く、シェアは男性が22.9%、女性が22.5%となっている。未経験からヘビーは0.4%だがこれも20代が多く、男性が21.1%、女性が26.1%。未経験から未経験(20代男性:15.7%、20代女性:11.7%)よりも旅行に出かけるようになる割合は多い。また、ライトからヘビーに変化したのは全体の2.5%で、男性60代が13.1%、女性の50代が13.9%、女性の60代が18.3%と多い。現在、旅行意欲が強い世代として20代男女と50代女性、60代男女をマークしておきたい。

 渡航が減少した層は、ヘビーからライトへの移行が多かった30代女性(13.1%)と60代女性(18.3%)。60代女性は旅行意欲が高まる一方で、減少する特殊な傾向があるようだ。また、ヘビーから休眠、およびライトから休眠も30代女性がそれぞれ16.8%と15.2%と多い。渡航機会は子育てや就職、定年などのライフイベントのタイミングに影響されるということが、よく分かる結果であった。

 また、経験値別の渡航の動機・目的を見ると、「特別な動機・目的はない」がヘビーは60.3%、ライトは51.5%でいずれも半数以上となった。「動機・目的がある」の回答で多かったのは「現地の家族・親族・友人などを訪問」で、ヘビーが12.0%、ライトが9.6%。注目したいのはライトでその次に多かった「新婚旅行または海外挙式(自分、他人問わず)」(7.4%)。2007年(8.3%)、2008年(9.0%)に比べるとシェアを落としているものの、海外渡航の十分な動機となっている。初めての海外旅行のきっかけでも、「新婚旅行」はライトが16.3%、休眠が18.8%と高い。海外渡航の機会作り、およびリピーター増加へ繋がる重要な商品として、今後も力を入れていきたい。


有給取得機会の増加や休暇分散に期待

 社会情勢や政策に対する海外旅行の意向を見ると、「今よりも海外旅行に行く回数が増える」と回答した割合は、「海外旅行代金が高くない時期に休みが取れるようになる」が最も多かった。特にヘビーは52.9%と半数以上、ライトも38.6%と多く、低頻度層も休眠は24.1%、未経験が11.9%となっており、渡航機会を増加するためには高額でない旅行ができる環境が必要のようだ。そのほか回答が多かったのが「景気が回復する」「空港拡充などで航空座席数が増えて旅行価格が下がる」「格安の航空会社が日本にも参入してくる」「燃油サーチャージが値下がりする」など、旅行費用の低下を期待する向きが強い。

 費用面以外では「地元の(最寄りの)空港から海外へ直行便が増える」「自宅から空港へのアクセスが改善される」「羽田空港から行ける海外旅行が増える」など、アクセス面での気軽さも求められていた。特に、居住地別にアクセス面の回答をみると、地方では「地元の空港から直行便が増える」への回答は、北海道が32.7%、中国地方が35.0%、四国が29.7%、九州が31.8%と、それぞれ約3割が希望している。地方発の直行チャーターの運航は、今後も重要なファクターとなるだろう。


旅行計画の時期、経験値によって大きな差

 今回、経験値によって大きく回答が分かれたのが、旅行計画の時期だ。「どのくらい前に
休暇が決まれば海外旅行を計画するか」では、いずれも「3ヶ月より前に決まれば計画する
と思う」が最多であったものの、ヘビーは「2週間を切って決まっても計画すると思う」が
15.2%おり、機会があれば旅行に行こうという意欲が強い。それに対して、ライトは「3ヶ
月より前」が30.8%で、休眠が40.9%、未経験は47.1%と経験値が少なくなるにつれて、計
画に必要な期間が長くなる。早く休みが確定することで、旅行を計画する環境は作れるかも
しれないが、実際の旅行に繋がるかどうかは難しい面があると思う。旅行を計画することに、
それだけの期間が必要だと思うほど手間がかかるものと思われている表われでもあり、海外
旅行を身近に感じてもらえるよう、こうしたバリアを取り払う工夫も旅行会社の腕の見せ所に
なるのではないだろうか。