キーワード:「ユニバーサルツアー」(2)、参画へのヒント

  • 2009年8月26日
旅行商品のユニバーサル・デザイン化
同行者の多い旅行、成功すれば満足度の高い旅行に


 「より多くの人が参加できる」ことをコンセプトに造成されたユニバーサル・デザインの旅行商品が求められるなか、どのように取扱えばいいのかわからずに躊躇する旅行会社が多い。ところが、ユニバーサル・デザインやバリアフリーの旅行に携わる人々がいうには、重度の障害でない限り、特殊な装備や資格は必要なく、ほんの少しの工夫でかなりの要望を満たすことができるという。



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小さな工夫で大きな違い

 人それぞれ障害や体調は千差万別なため、ユニバーサル・デザインにも“完璧”はないといわれる。だが、少しの工夫でかなりのニーズに応えることができるのだ。バリアフリーカンパニー代表の中澤信氏によると、たとえば車椅子用のリフト付きのバンがない場合は、もう一段ステップを用意すれば介助が必要な人を抱えて乗り込む際にもだいぶ楽だし、乗り降りが楽になるという点では高齢者の多いツアーでも応用したい。団体旅行の場合は、一般の大型バスでは介添えしながら乗降ができないため、車椅子の利用者や足の不自由な参加者用に通常の小型のバンを併走すれば、少ないコストで対応が可能だ。バスの車内アナウンスは周波数をあわせれば電波をキャッチできることが多く、近くを走れば別々の車に乗っていても添乗員やガイドの話を聞くことができるという。

 また、ホテルや観光スポットでは、手すりやスロープは設置工事をしなくても、可動式のものがあれば利用者が来たときに設置するだけですむ。むしろ設置するよりも、可動式であればそれぞれの状態にあわせてカスタマイズすることもできるだろう。このほか、客室ではツインベッドは壁やもう一方のベッドに接しないよう、両側にスペースを作って設置すれば、介助が必要な人を反対側から引き上げることができる。エレベーターも必ずしもボタンの位置を付け替える必要はなく、例えばボタン下に飾られている大きな壺などの置物を車椅子の利用者がいるときだけでも撤去すれば、利用者自身の手が届くようになる。施設を改修しなくても、ほんの少し工夫するだけで使い勝手がよくなるものである。


情報開示で本人に選択肢を

 中澤氏は、自身も右半身麻痺の障害を持つ。中澤氏によると、身体に不自由な箇所がある人はどのような設備があれば自分にとって便利なのか、よく知っている。だからホテルなどの場合、施設側が室内の様子などを写真付きで紹介すれば、自分の状態にあった設備かどうかその人自身が見極めることができるという。もしバリアフリーの部屋にバリエーションがあるのなら、自分にあった部屋をあらかじめリクエストすることができるだろう。

 これはアクティビティにも同じことがいえる。タイでシニアや障害のある人のロングステイを手助けするバーンタオ・ウェルネスライフプロジェクト代表の谷田貝良成氏によれば、足に障害のある人でも水上スキーやエレファント・ライドができたケースもある。障害の程度に応じてさまざまな工夫をするが、あらかじめ説明しておけば旅行者はそれが自分にできるかどうかを自分で判断できる。「怖いから私はやらない」と辞退する人もいるという。「自由に選べる選択肢があること。それも“ユニバーサル・デザイン”だ」と、前JATAのバリアフリー部会代表の室井孝王氏は話す。


付添者の満足度が重要、現地でヘルパー雇用も

 もうひとつ、ユニバーサル・デザインツアーを企画するにあたり重要なことは、介助の人の負担を軽減することだ。障害のある人が旅行に参加する場合、介助の人が同行するのが一般的。その人が大変だと感じれば障害のある人が旅行をしたいと望んでも実現は困難だし、リピーターとなる可能性も低くなるからだ。

 国内旅行では旅先で入浴ヘルパーを雇うなどして対応する会社が増えているが、海外でもこれは可能だ。特にタイなど東南アジアでは人件費が安いため、コストを低く抑えられるという利点がある。前出のバーンタオでも看護師の資格を持つスタッフを雇い入れており、ヘルパーとして派遣できる体勢を整えているという。谷田貝氏によれば「参加者の立場で見ると、医者や看護師が日本から同行するツアーはコストが高くなるし仰々しくて敬遠したくなる。求めているのはあくまでも普通の旅行であり、必要な場所で手助けがあるだけでいい」とのこと。「障害者は病人ではない」と中澤氏もこれに同意する。たとえば車椅子利用者なら基本的にはガイドと車椅子を押す人がいればよく、必ずしも資格保持者でなくてもいいのだという。

 誰でも参加できるということは、障害のある人もOKということ。その際、同行する付添い人を介助役と考えてはいけない。彼らもまた、平等に旅行を楽しめてこそ、ユニバーサル・デザインのツアーとなるからだ。そのためにはなるべく添乗員や現地スタッフが介助にあたるのが望ましい。普段の介助疲れをなくし、旅行者としてリフレッシュしてもらうことも大きな目的であり、そうすることで旅の楽しさが伝わって、旅行会社にとってはリピーターの獲得につながる。


同行者付き、収益性に期待あり

 ユニバーサル・デザインツアーは採算があわないことが懸念されるが、実は車椅子などが必要な人がツアーに参加する場合、家族の誰かが同行する場合がほとんど。金婚式や米寿のお祝いなど家族全員での一生に一度の大旅行、といったプランの場合は同行者の人数が大きくなるし、ボランティアであるトラベルサポーターなどの参加も見込める。うまくシステムができあがり、参加者が増えれば十分に利益を生む商品になりえる。

 さらに、ユニバーサル・デザインツアーに関わる人々は一様に「手がける企業が増えるほど現地での対応オペレーターが増え、コスト削減につながる」と予想している。現在よりも低価格化を実現できれば、より多くの人が気軽に参加できるようになるだろう。そのためにはまず、参入する旅行会社が増えることが大切だ。

 旅行者の要望は「旅行がしたい」ということ。旅が“誰もが楽しめる余暇の過ごし方”になるように、旅のユニバーサル・デザイン化は直近の課題といえるのではないだろうか。


取材:岩佐史絵