キーワード:「ユニバーサルツアー」(2)、参画へのヒント

同行者の多い旅行、成功すれば満足度の高い旅行に

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小さな工夫で大きな違い

また、ホテルや観光スポットでは、手すりやスロープは設置工事をしなくても、可動式のものがあれば利用者が来たときに設置するだけですむ。むしろ設置するよりも、可動式であればそれぞれの状態にあわせてカスタマイズすることもできるだろう。このほか、客室ではツインベッドは壁やもう一方のベッドに接しないよう、両側にスペースを作って設置すれば、介助が必要な人を反対側から引き上げることができる。エレベーターも必ずしもボタンの位置を付け替える必要はなく、例えばボタン下に飾られている大きな壺などの置物を車椅子の利用者がいるときだけでも撤去すれば、利用者自身の手が届くようになる。施設を改修しなくても、ほんの少し工夫するだけで使い勝手がよくなるものである。
情報開示で本人に選択肢を

これはアクティビティにも同じことがいえる。タイでシニアや障害のある人のロングステイを手助けするバーンタオ・ウェルネスライフプロジェクト代表の谷田貝良成氏によれば、足に障害のある人でも水上スキーやエレファント・ライドができたケースもある。障害の程度に応じてさまざまな工夫をするが、あらかじめ説明しておけば旅行者はそれが自分にできるかどうかを自分で判断できる。「怖いから私はやらない」と辞退する人もいるという。「自由に選べる選択肢があること。それも“ユニバーサル・デザイン”だ」と、前JATAのバリアフリー部会代表の室井孝王氏は話す。
付添者の満足度が重要、現地でヘルパー雇用も

国内旅行では旅先で入浴ヘルパーを雇うなどして対応する会社が増えているが、海外でもこれは可能だ。特にタイなど東南アジアでは人件費が安いため、コストを低く抑えられるという利点がある。前出のバーンタオでも看護師の資格を持つスタッフを雇い入れており、ヘルパーとして派遣できる体勢を整えているという。谷田貝氏によれば「参加者の立場で見ると、医者や看護師が日本から同行するツアーはコストが高くなるし仰々しくて敬遠したくなる。求めているのはあくまでも普通の旅行であり、必要な場所で手助けがあるだけでいい」とのこと。「障害者は病人ではない」と中澤氏もこれに同意する。たとえば車椅子利用者なら基本的にはガイドと車椅子を押す人がいればよく、必ずしも資格保持者でなくてもいいのだという。
誰でも参加できるということは、障害のある人もOKということ。その際、同行する付添い人を介助役と考えてはいけない。彼らもまた、平等に旅行を楽しめてこそ、ユニバーサル・デザインのツアーとなるからだ。そのためにはなるべく添乗員や現地スタッフが介助にあたるのが望ましい。普段の介助疲れをなくし、旅行者としてリフレッシュしてもらうことも大きな目的であり、そうすることで旅の楽しさが伝わって、旅行会社にとってはリピーターの獲得につながる。
同行者付き、収益性に期待あり
ユニバーサル・デザインツアーは採算があわないことが懸念されるが、実は車椅子などが必要な人がツアーに参加する場合、家族の誰かが同行する場合がほとんど。金婚式や米寿のお祝いなど家族全員での一生に一度の大旅行、といったプランの場合は同行者の人数が大きくなるし、ボランティアであるトラベルサポーターなどの参加も見込める。うまくシステムができあがり、参加者が増えれば十分に利益を生む商品になりえる。
さらに、ユニバーサル・デザインツアーに関わる人々は一様に「手がける企業が増えるほど現地での対応オペレーターが増え、コスト削減につながる」と予想している。現在よりも低価格化を実現できれば、より多くの人が気軽に参加できるようになるだろう。そのためにはまず、参入する旅行会社が増えることが大切だ。
旅行者の要望は「旅行がしたい」ということ。旅が“誰もが楽しめる余暇の過ごし方”になるように、旅のユニバーサル・デザイン化は直近の課題といえるのではないだろうか。
取材:岩佐史絵