注目の世界遺産暫定リスト(3)イムディーナとヴィクトリア マルタ

  • 2009年2月25日
 イタリア半島をブーツの形にたとえると、つま先近くにある三角形のシチリア島のさらに南に、マルタ共和国が浮かんでいる。シチリアから93キロメートル、アフリカからは288キロメートルの距離にある絶海の孤島。総面積は316平方キロメートルと、淡路島の3分の2ほどの小国だ。マルタ語というアラビア語に似た独自の言葉をもつが、英語も公用語であることから英語の留学先に選ぶ人も多い。

 この国は意外にも「地中海文明の源」と考えられるほど古い歴史をもつ。紀元前5000年前とも8000年前からともいわれ、エジプトのピラミッドよりも古いことが証明されているというから驚きだ。島の各地には20トンもの巨大な石で造られた神殿が残るが、その建築技術はなぞに包まれているという。巨石文明が姿を消した後も、フェニキア、ギリシア、カルタゴ、ローマ、アラブなどのさまざまな民族が次々にマルタを拠点とし、島は地中海貿易で繁栄した。特に16世紀にオスマン・トルコとの戦いに敗れてやって来た聖ヨハネ騎士団(マルタ騎士団)が、この島の名を有名にした。

 こうした歴史を背景に、マルタは観光の面ですばらしい遺産を多数もっている。マルタストーンと呼ばれるはちみつ色をした石灰岩を用いて造られた町や城塞、住居がいたるところで見られ、まるで島じゅうが遺跡や遺構のようだ。そんなマルタで世界遺産に登録されているのは、ハル・サフリエニ地下墳墓、ヴァレッタ市街、マルタの巨石神殿群の3つ。しかし、暫定リストには7つのスポットが掲載されている。

 そのうち、中世の街の「イムディーナ」は、「静寂の町」と呼ばれ、16世紀には首都が置かれていた古都。首都ヴァレッタからバスで20分の所にある小高い丘の上に、城壁に囲まれてたたずんでいる。メインゲートをくぐるとマルタストーンの町並みが広がり、まるで中世に戻ったかのよう。車の乗り入れが制限されているためもあって街は静まり返り、そぞろ歩きをしていると建物の角からふと騎士が現れそうな気がしてくる。町の中心には17世紀に造られた美しい大聖堂がある。

 また、同じく中世の街の「ヴィクトリア」もリスト入りしている。マルタ第2の島、ゴゾ島の中心部にある町で「ラバット」とも呼ばれており、首都ヴァレッタからバスとフェリーを利用して2時間程度。ここには遠くからも目立つ大城塞があり、その姿はまるで小山のように印象的だ。中世に造られ、現在見られる多くの建物は1693年の地震で崩壊し、オスマン・トルコや海賊の侵攻に備えてより強固に再建されたもの。

 1551年のオスマン・トルコの襲来に際し、ゴゾ島では5000人から6000人の島民が奴隷として連れ去られたという。ヴィクトリア大城塞の堅固さを見ると、当時人々がいかにトルコ軍を恐れていたかが実感できるだろう。現在、その城塞の頂上からは360度の展望が楽しめ、小さい島ゆえにあちこちの方角に海が臨める。砂浜は少ないものの、入り組んだ入り江がさまざまな表情を与え、海は吸い込まれそうに青くきらめいている。

 地中海に落ちた雫のように小粒ながらも、独特な個性が光るマルタ。国土が小さいため移動に時間がかからず、短時間でも充実した滞在ができる。イタリア南部やシチリアとの組み合わせはもちろん、マルタのモノステイ商品も多く販売されている。


▽マルタ観光局
http://www.mtajapan.com/main.html


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