「毎日が競争」はビジネスモデルを強固にする−LCCや鉄道との競争は歓迎

  • 2008年10月22日
インタビュー:ブリティッシュ・エアウェイズ、アジア・太平洋地区エリアコマーシャルマネージャーのギャビン・ハリディ氏

ブリティッシュ・エアウェイズは今年、日本就航60周年を迎えた。この長期にわたる就航を支えた旅行会社の協力に感謝の意を表すために来日したBAアジア・太平洋地区エリアコマーシャルマネージャーのギャビン・ハリディ氏に、現在の欧州や世界で展開するあらゆる競争や、市場環境、日本市場への期待などを聞いた。


■現在の経済環境について

 株式市況の急激な変動は、東京、ロンドン、ニューヨークの金融業が突出する都市を渡航する銀行・金融関連の需要に大きな影響をもたらすだろう。BAもそうした流れに、例外なく影響を受けると考えている。同時に、こうした市況は「不況」の訪れを予感させる。ただし、不況が来たとしても対処する大きなポイントは「スピード」であり、変化を予測した対応ができるかが重要だ。過去の例では、同時多発テロの際の急激な需要の落ち込みへの適応と、その後のビジネスの再構築で適切に対処した実績がある。

■欧州域内の航空ビジネスの競争環境

 2002年から2003年にかけて、格安航空会社(LCC)は毎週のように新たな路線に就航していく勢いがあった。LCCの影響とは「新たなビジネスモデル」を打ち出してきたことだ。競争は確かに厳しくなったが、LCCは新たな需要を生み出した功績もある。欧州の航空会社はこの状況に対応する力を備え、BAも新たな競争環境に適応してきた。LCCがBAのビジネスモデルをさらに進化させたともいえる。LCCのなかでも規模の大きいイージージェットやライアンエアとも、イギリスを大きなマーケットとし、「毎日が競争」だ。

 現在、BAの価格やサービスは幅広い観点からLCCの刺激を受け、進化している。価格ではかつての硬直的な運賃体系から、LCCが採用していたダイナミック・プライシングを適用している。この価格決定は科学であり、芸術であり、非常に難しい側面がある。これらの価格と同時に、サービス面ではLCCは顧客が必要とするものを課金していくが、こうした点ではBAでは、顧客ニーズを従来と比べてさらに詳しく、かつ再定義をしなおし、新たな観点からサービスを提供することにつながっている。顧客が求めるものは何か、これを学び、サービスそのものを発展させていくことが重要だ。

■欧州域内の競争−鉄道

 環境を意識した持続可能性から、鉄道を利用した旅行が注目されている。特に、欧州域内の高速化が航空から鉄道への流れを加速している傾向はある。欧州の鉄道は、以前と比べ顧客視点の志向が強まり、都市間を結ぶスピードが速くなったことで、鉄道を使う需要が増加し、ロンドン/パリ間を鉄道で移動する需要も増えている。特に、この20年の成長は大きい。

 鉄道、LCC、いわゆる「レガシーキャリア」のどれを選択するかは顧客が決定権を持つこと。鉄道の高速化、顧客視点のサービス強化は、BAがLCCの競争で得たことと同様にビジネスモデルの見直しにつながり、鉄道にも航空にも良い結果をもたらすことと考えている。ロンドン/パリ間の運航は続けるが、欧州域内の競争でTGV、新幹線、あるいはリニアであろうと、大きなインパクトを与えるだろう。

 ただし、鉄道は軌道の設置をはじめ、インフラ投資のコストが莫大で、利益を上げながら成長できるかが重要だ。飛行機の場合は滑走路があれば良いので、インフラ投資は鉄道と比べ、それほど大きくはない。最終的には、「ラップ・タイム」の争いになる。

■燃油サーチャージなどを含む価格政策について−コスト削減とあわせ

 BAの原則は、透明性を高めることだ。ただし、法、規則など定められた範囲内で動くことが原則だ。燃油サーチャージは、どの航空会社も頭を痛め、高いコストにもがいている。特に、原油価格が高騰する時期は、現在のビジネスモデルに危機感を抱いていたほどだ。こうした観点から「燃油サーチャージ」として、大きくなりすぎたコストをカバーしようとしている。

 原油価格が下落する局面になり、価格決定の透明性は上昇する局面よりもさらに高いレベルが求められる。アメリカ、ヨーロッパ、日本、オーストラリアなど、各国、地域で課金や表示など事情が異なる点も対応を難しくしている。世界で統一的な対応ができればよい、とも思う。

 こうした状況にあって、旅行会社の役割は非常に大きい。運賃以外のチャージは燃油だけに限らず、荷物をはじめ、いろいろな種類があるが、一人一人の顧客への説明ということではないが、こうした仕組みをわかりやすく、かつ有効に機能するためのパートナーとして重要な役割を果たしている。
 ゼロコミッションを日本で適用するのか否かについては、現在、計画はしていない。航空会社のビジネスが危うくなるような原油価格であった147ドル/バレルが現在では74ドル/バレルにまで下がり、これであれば航空会社としても何とか利益を確保しながらビジネスができる。ただし、オペレーション、スタッフ、販売、飛行など様々な航空ビジネスの側面でコストを意識し、効率的にしなければならない状況にある。その中で、考える問題だろう。

 「ゼロ」コミッションに対し、10年前は多くの旅行会社がおびえていたと思うが、現在はアメリカやヨーロッパで、旅行会社が生き残っている事実を知る人も多い。たとえば、私が統括する地域でも、中東で旅行会社はサービスのメニューを顧客に提示し、サービスフィーを得ている。彼らは顧客に航空座席、タクシー、ホテルなど、旅行期間の全てを提案し、そのサービスを提供している。また、オーストラリアはほぼ100%が旅行会社を経由した取引だ。旅行会社の存在は、航空会社のコミッションとは関係なく、顧客は24時間前の予約ではなく、事前に旅程を組み、かつその旅程は複雑であり、それをコーディネーションする旅行会社が必要不可欠だ。ただし、市場によって、ニーズがさまざまに異なることだが。

■ヒースロー空港新ターミナルT5について

 開港当日の混乱の中に私もおり、そのことは率直に反省すべきで、この点は強く認識している。ただし、この後、大きく改善し、世界でもナンバーワンの空港と自負できる。出発時間の正確性も目標とする率を上回っている。こうした数値的なデータ以外に、顧客にアンケートをとり、常にフィードバックを得ている。この結果を見ると、良い回答が多く寄せられており、初日の失敗があったからこそ、改善がはかられていると感じる。

 10月22日には最後のターミナル間の移動を予定しており、これが終わると完全稼動となる。これにより、ラウンジからレストランなど全ての機能を使うことができるだけでなく、空港の大きな機能である乗り継ぎ時間の「短縮」が実現する。