ビジネストラベラー:旅行会社に求めたいフレキシブルな対応力
今回のビジネストラベラーは、医療関連の総合メーカー、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、世界的な社会貢献活動に従事されている津野桂氏。臨機応変に対応することが特に要求される仕事における旅行会社の役割の大切さと、世界各国での活動の様子について伺った。(聞き手:山見インテグレーター代表、山見博康氏)
※2006年6月、月刊トラベルビジョン掲載
◆仕事で多いのは、急な日程変更
Q:これまでに訪問された国はどちらでしょうか?
パキスタン、インド、スリランカ、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポール、中国、韓国、台湾、インドネシア、米国、メキシコ、チェコ、スペイン、イタリア、スイス、フランス、英国、ドイツ、豪州、ニュージーランドなどで25ヶ国以上はあるでしょう。
Q:出張の目的はどんなことが多いのでしょうか?また、ご担当の社会貢献活動についてもお聞かせください。

出張の多くは、弊社の創業理念であるヘルスケアに関する社会貢献活動を目的としたものです。ですので、もちろん先進国にも関係あるのですが、やはり、社会的または経済的に恵まれない貧しい国での活動が多くなります。例えば、インドでは安全なお産の推進、パキスタンでは子どもの栄養状態改善プログラム、台湾ではドメスティックバイオレンス被害女性の自立支援などのテーマで、世界的な支援をしています。
最近は、だいたい月に1、2回ペースで出張をしています。1回で1ヶ国から3ヶ国を回りますので、一年の3割から4割は外国に滞在していることになりますね。
Q:企業として旅行会社に求めるサービスはありますか?
弊社では、日本旅行・アメリカン エキスプレスを利用しています。通常業務についてはとても満足しています。日程は自分で立て、旅行会社には航空券の予約だけをお願いするケースが殆どです。しかし、出発直前まで日程が決まらないことも多く、また現地での急な変更もあるので、そんな時、臨機応変に対応してもらえる旅行会社は信頼できますね。旅行会社には、ビジネスですからコストも大切ですが、やはりフレキシビリティに富んだ利便性を第一に求めます。また細かなことですが、出入国管理カードに必要な事項を、タイプで書き入れてくれるとありがたいですね。
Q:機内ではどう過ごされていますか?
身体を休めるために、できるだけ眠るようにしていますが、時差の関係もあってなかなか寝付けないときもあります。そんな時は、音楽を聴いたり、本を読むことが多いですね。映画は同じようなものが多くて飽きてしまうし、大きな画面で観たいので、機内では観ません。
Q:次の出張のご予定を教えてください。
5月27日から6月末くらいまで、香港からワシントンDC、そして本社のあるニュージャージーへ移動し、そのまま上海へ。そこからAnhui省のFuyangにあるエイズ孤児のための施設を訪問します。弊社は世界的にエイズ問題に取り組んでいます。
◆事前の現地情報入手で安心
Q:とても旅慣れていらっしゃいますが、旅行準備で気をつけていることはありますか?
余りにも頻繁に海外へ行くので、自分で旅行セットを作っています。化粧品、特にスキンケア類などは欠かしませんし、体調を保つためにも運動着や運動靴はいつも持参します。また、社会貢献活動支援という仕事柄、アジアの水道も無いような不衛生な場所や僻地を訪問することもありますので、手を清潔に保つために擦り込み式の消毒剤を持参します。それに、イスラム圏に行くときは必ず長袖長ズボンとスカーフを持参します。
だいたい1、2週間の出張が多いのですが、出来るだけ荷物は少なくする主義で、最大限ホテルのクリーニングサービスを活用します。自分で洗濯をする時間はあまりありません。衣類は3セット持参します。私はどちらかというとスカートの方が好きなのですが、出張の際はパンツスーツを忘れないようにしていますね。iPodや文庫本なども持っていきます。
Q:旅行中の安全をはじめ、快適な過ごし方に関して、何か秘訣があれば、教えてください。
仕事で行く場合は、必ず現地法人のスタッフが同行してくれるので、幸い恐い目にあったことはありません。個人的な旅行で行ったフィレンツェで隣の椅子にちょっと置いていたカメラが無くなったくらいです。
外出する時は、とにかく余計な荷物を持たないようにしています。パスポートは金庫に、財布には必要なお金だけ入れておきます。
また、弊社は社員をとても大切にしてくれる会社だと思うのですが、その一つに米国本社から絶えずアップデートされる世界の安全情報、健康情報、文化情報があり、これがとても有用です。例えば安全に関してなら、ある国でテロがあれば渡航中止になったり、どの航空会社は乗らないようにといった情報を提供してくれます。健康に関しては気象情報や水に関する注意、予防接種の要否などを、文化関係ではチップやお土産の要否、タブー集、あるいは女性が握手して良いかなどに至るまで細かく教えてくれます。その範囲はアフリカの小国に至るまでの実にきめ細かい情報で、全世界57ヶ国、230社、12万人くらいの社員がこれに従って旅行できるようになっているのです。
Q:そうした会社からの情報提供も経営理念に沿ったものですね。
はい、弊社は創業1886年と世界で最も古い会社の一つですが、約60年前に作成された「Credo(我が信条)」を元に経営されています。
その理念には、顧客・社員・地域そして株主に対する責任が優先順位とともに明記されており、社員に対する責任は2番目にランクされています。これは全社員が共有する恒久的な価値判断の基準でもあります。
◆自然と人が共存する姿に感動
Q:これまで行かれた場所で、もっとも印象的な町はどこでしょうか?
どこも印象的ではありますが、強いて挙げるとすれば、パキスタンのムザファラバードという町でしょうか。昨年11月に起きたパキスタン地震の被害者を支援するため、イスラマバードからその町までヘリで飛んだのですが、機上から見る自然の美しさは目を見張るほどでした。そこに住む人々の生活が地震により破壊されてしまったことはとても残念です。
Q:ほかにもお好きな町はありますか?
インドは何度も訪問しているのですが、その奥深さにいつも心が動きます。デリー、ムンバイ、チェンナイなど、いろいろな街に行きましたが、どこも決して衛生状態が良いとはいえないし、路上で暮らしている人も多くいます。その部分だけ見ると貧しさの極致のようでもありますが、しかし、よく観察してみると、そこには素朴に暮らす人々が生活を楽しんでいる姿も見えてくるのです。
本来、インド自体が多様性を持つ国で、何でも許容する、どんなものでも包み込むような懐の深さがあります。そんな大きなものに包まれた自分というものは多様なものの一点に過ぎない、と感じさせられます。
ゆったりとした時間の流れの中で時を楽しむ人々、そんな中にいると、生きているという実感を見出すことができます。
内陸部の村にも行ったことがありますが、田園風景とそこに住む人々ののどかさの渾然一体となった雰囲気には魅せられましたね。そこには自分が知らない世界がありました。人々が実に素直に自然に溶け込んでいて、一生懸命生きている姿に触れると、人間の原点はそんなところにあるのだな、と感動しました。町の人々は特に愛想が良いわけではなく、アメリカやラテン的なリアクションやオーバーなジェスチャーがあるわけでもないのですが、静かな温かさのようなものが流れているようでした。簡素で無駄がないのです。
考えてみれば、文明の町には騒音などの膨大な無駄が溢れているように思います。しかし、そこにはそれがなかった。シンプルな美しさは、文明に疲れていた自分の何かを癒してくれました。それは、これまで接したことのないような真の誠実さとも思え、心からやすらぎを感じましたね。
ほかには、04年10月に行ったベトナムの世界遺産「ハロン湾」に感激しました。1泊してクルージングを楽しんだのですが、海の中に切り立つ奇岩の数々には、自然の為せる業とはいえ驚くばかりです。攻めてきた敵の攻撃をこの岩が守ってくれたという伝説があるそうですね。ハノイから3、4時間ほど車でかかりますので、日帰りツアーでは十分楽しめませんね。最近は、陸続きなので中国からの観光客が増えているそうですね。
Q:次回、個人で旅行するとしたら、どこに行きますか?
アジアへの出張が多いので、出来ればヨーロッパ、特にポルトガルに行ってみたいですね。洗練された文化に触れたいこともありますが、素朴な感じがするし、かつて栄華を極めた国にどんな面影が残っているか、とても興味があります。
もう一つ挙げるとすれば、モンゴルですね。もともと星を観るのが好きなのですが、透き通った夜空に浮かぶ満天の星を思う存分楽しんでみたいのです。ほかには中東などにも興味があります。
どうもありがとうございました。
※2006年6月、月刊トラベルビジョン掲載
◆仕事で多いのは、急な日程変更
Q:これまでに訪問された国はどちらでしょうか?
パキスタン、インド、スリランカ、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポール、中国、韓国、台湾、インドネシア、米国、メキシコ、チェコ、スペイン、イタリア、スイス、フランス、英国、ドイツ、豪州、ニュージーランドなどで25ヶ国以上はあるでしょう。
Q:出張の目的はどんなことが多いのでしょうか?また、ご担当の社会貢献活動についてもお聞かせください。

出張の多くは、弊社の創業理念であるヘルスケアに関する社会貢献活動を目的としたものです。ですので、もちろん先進国にも関係あるのですが、やはり、社会的または経済的に恵まれない貧しい国での活動が多くなります。例えば、インドでは安全なお産の推進、パキスタンでは子どもの栄養状態改善プログラム、台湾ではドメスティックバイオレンス被害女性の自立支援などのテーマで、世界的な支援をしています。
最近は、だいたい月に1、2回ペースで出張をしています。1回で1ヶ国から3ヶ国を回りますので、一年の3割から4割は外国に滞在していることになりますね。
Q:企業として旅行会社に求めるサービスはありますか?
弊社では、日本旅行・アメリカン エキスプレスを利用しています。通常業務についてはとても満足しています。日程は自分で立て、旅行会社には航空券の予約だけをお願いするケースが殆どです。しかし、出発直前まで日程が決まらないことも多く、また現地での急な変更もあるので、そんな時、臨機応変に対応してもらえる旅行会社は信頼できますね。旅行会社には、ビジネスですからコストも大切ですが、やはりフレキシビリティに富んだ利便性を第一に求めます。また細かなことですが、出入国管理カードに必要な事項を、タイプで書き入れてくれるとありがたいですね。
Q:機内ではどう過ごされていますか?
身体を休めるために、できるだけ眠るようにしていますが、時差の関係もあってなかなか寝付けないときもあります。そんな時は、音楽を聴いたり、本を読むことが多いですね。映画は同じようなものが多くて飽きてしまうし、大きな画面で観たいので、機内では観ません。
Q:次の出張のご予定を教えてください。
5月27日から6月末くらいまで、香港からワシントンDC、そして本社のあるニュージャージーへ移動し、そのまま上海へ。そこからAnhui省のFuyangにあるエイズ孤児のための施設を訪問します。弊社は世界的にエイズ問題に取り組んでいます。
◆事前の現地情報入手で安心
Q:とても旅慣れていらっしゃいますが、旅行準備で気をつけていることはありますか?
余りにも頻繁に海外へ行くので、自分で旅行セットを作っています。化粧品、特にスキンケア類などは欠かしませんし、体調を保つためにも運動着や運動靴はいつも持参します。また、社会貢献活動支援という仕事柄、アジアの水道も無いような不衛生な場所や僻地を訪問することもありますので、手を清潔に保つために擦り込み式の消毒剤を持参します。それに、イスラム圏に行くときは必ず長袖長ズボンとスカーフを持参します。
だいたい1、2週間の出張が多いのですが、出来るだけ荷物は少なくする主義で、最大限ホテルのクリーニングサービスを活用します。自分で洗濯をする時間はあまりありません。衣類は3セット持参します。私はどちらかというとスカートの方が好きなのですが、出張の際はパンツスーツを忘れないようにしていますね。iPodや文庫本なども持っていきます。
Q:旅行中の安全をはじめ、快適な過ごし方に関して、何か秘訣があれば、教えてください。
仕事で行く場合は、必ず現地法人のスタッフが同行してくれるので、幸い恐い目にあったことはありません。個人的な旅行で行ったフィレンツェで隣の椅子にちょっと置いていたカメラが無くなったくらいです。
外出する時は、とにかく余計な荷物を持たないようにしています。パスポートは金庫に、財布には必要なお金だけ入れておきます。
また、弊社は社員をとても大切にしてくれる会社だと思うのですが、その一つに米国本社から絶えずアップデートされる世界の安全情報、健康情報、文化情報があり、これがとても有用です。例えば安全に関してなら、ある国でテロがあれば渡航中止になったり、どの航空会社は乗らないようにといった情報を提供してくれます。健康に関しては気象情報や水に関する注意、予防接種の要否などを、文化関係ではチップやお土産の要否、タブー集、あるいは女性が握手して良いかなどに至るまで細かく教えてくれます。その範囲はアフリカの小国に至るまでの実にきめ細かい情報で、全世界57ヶ国、230社、12万人くらいの社員がこれに従って旅行できるようになっているのです。
Q:そうした会社からの情報提供も経営理念に沿ったものですね。
はい、弊社は創業1886年と世界で最も古い会社の一つですが、約60年前に作成された「Credo(我が信条)」を元に経営されています。
その理念には、顧客・社員・地域そして株主に対する責任が優先順位とともに明記されており、社員に対する責任は2番目にランクされています。これは全社員が共有する恒久的な価値判断の基準でもあります。
◆自然と人が共存する姿に感動
Q:これまで行かれた場所で、もっとも印象的な町はどこでしょうか?
どこも印象的ではありますが、強いて挙げるとすれば、パキスタンのムザファラバードという町でしょうか。昨年11月に起きたパキスタン地震の被害者を支援するため、イスラマバードからその町までヘリで飛んだのですが、機上から見る自然の美しさは目を見張るほどでした。そこに住む人々の生活が地震により破壊されてしまったことはとても残念です。

インドは何度も訪問しているのですが、その奥深さにいつも心が動きます。デリー、ムンバイ、チェンナイなど、いろいろな街に行きましたが、どこも決して衛生状態が良いとはいえないし、路上で暮らしている人も多くいます。その部分だけ見ると貧しさの極致のようでもありますが、しかし、よく観察してみると、そこには素朴に暮らす人々が生活を楽しんでいる姿も見えてくるのです。
本来、インド自体が多様性を持つ国で、何でも許容する、どんなものでも包み込むような懐の深さがあります。そんな大きなものに包まれた自分というものは多様なものの一点に過ぎない、と感じさせられます。
ゆったりとした時間の流れの中で時を楽しむ人々、そんな中にいると、生きているという実感を見出すことができます。
内陸部の村にも行ったことがありますが、田園風景とそこに住む人々ののどかさの渾然一体となった雰囲気には魅せられましたね。そこには自分が知らない世界がありました。人々が実に素直に自然に溶け込んでいて、一生懸命生きている姿に触れると、人間の原点はそんなところにあるのだな、と感動しました。町の人々は特に愛想が良いわけではなく、アメリカやラテン的なリアクションやオーバーなジェスチャーがあるわけでもないのですが、静かな温かさのようなものが流れているようでした。簡素で無駄がないのです。
考えてみれば、文明の町には騒音などの膨大な無駄が溢れているように思います。しかし、そこにはそれがなかった。シンプルな美しさは、文明に疲れていた自分の何かを癒してくれました。それは、これまで接したことのないような真の誠実さとも思え、心からやすらぎを感じましたね。
ほかには、04年10月に行ったベトナムの世界遺産「ハロン湾」に感激しました。1泊してクルージングを楽しんだのですが、海の中に切り立つ奇岩の数々には、自然の為せる業とはいえ驚くばかりです。攻めてきた敵の攻撃をこの岩が守ってくれたという伝説があるそうですね。ハノイから3、4時間ほど車でかかりますので、日帰りツアーでは十分楽しめませんね。最近は、陸続きなので中国からの観光客が増えているそうですね。
Q:次回、個人で旅行するとしたら、どこに行きますか?
アジアへの出張が多いので、出来ればヨーロッパ、特にポルトガルに行ってみたいですね。洗練された文化に触れたいこともありますが、素朴な感じがするし、かつて栄華を極めた国にどんな面影が残っているか、とても興味があります。
もう一つ挙げるとすれば、モンゴルですね。もともと星を観るのが好きなのですが、透き通った夜空に浮かぶ満天の星を思う存分楽しんでみたいのです。ほかには中東などにも興味があります。
どうもありがとうございました。
津野 桂(つの かつら)氏
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
コーポレート・コントリビューションズ アジア・パシフィックディレクター
2000年3月
製薬会社研究開発部門での勤務を経て、2000 年3 月米国コロンビア大学で
MPH(マスター・オブ・パブリックヘルス)を取得後、ジョンソン・エンド・ジョンソン
株式会社に入社。
医用器具のマーケティングを担当。
2003年1月
広報部に転属。日本の社会貢献活動のコーディネーションに携わる
2004年7月
コーポレート・コントリビューションズに転属、アジア・パシフィック地区の社会貢献
担当マネジャーを勤める
2006年3月
同ディレクターに就任