ビジネストラベラー:テレビ会議でビジネス旅行は厳しい時代へ

  • 2007年11月21日
今回は日産自動車の三好道生氏へのインタビュー。これまでの海外出張の体験と現在の動向を教えて頂いた。また、最近の企業出張についても日産の社内での事例から、今後のビジネス渡航に示唆的な発言も多々頂いている。
(聞き手:山見インテグレーター代表、山見博康氏)
※2005年5月、月刊トラベルビジョン掲載


Q:これまで海外出張で訪問された国は

 海外関係の仕事に長く携わっておりますが、訪問国は以外と少ないのです。それでも20ヶ国ほどを訪れています。

 主な国を挙げると、カナダはトロント、米国はロサンゼルスやデトロイト以外にも日産の工場があるキャントンによく行きました。その他、中国、香港、タイ、それと日産の工場があるルーマニアです。

 駐在はローマとロンドンでした。その際にはヨーロッパ各国を訪れています。日本からの出張は、調査などの仕事ではなく、日産かルノーの拠点があるところにピンポイントで行くことが多いですね。

Q:出張はどのような目的が多いですか

 私の場合には、海外工場・海外支店との会議がもっとも多い目的です。視察や研修はまったくありません。

Q:海外出張での座席利用規程はありますか?

 一応、役職と飛行時間との組み合わせで決められます。

 しかし、役員以下はほとんどのケースが時間です。つまり10時間を境目として、ビジネスかエコノミーかが決められます。ロサンゼルスは行きが9時間、帰りが11時間です。この平均は10時間で、ビジネスクラスとなります。これは社員でも同じ適用です。

 代表取締役をはじめ、経営陣の場合は、ファーストクラスです。しかし、最近は、プライベートジェットの利用が盛んになり、有効に活用されています。事実上、ファーストクラスがなくなりつつあります。私たちもトップに同行する場合、タイミングが合えば、プライベートジェットに同乗できます。

Q:ゴーン社長がルノーのCEOを兼務されることで提携もさらに強化され、社員の海外出張は増えるのでしょうか

 海外との仕事は一段と増えると思います。しかし、海外出張はむしろ減少していくと思います。

 理由のひとつは、テレビ会議が本格的に普及していることです。例えば、日米欧が会議をする場合、時差はそれぞれ8時間ずつ。どこか一ヶ所が夜中を我慢すれば、いつでも同時にミーティングができます。

 それに拍車がかかると思われる要因は、今年1月から導入したドキュメントをPCで共有できる機能です。以前、テレビ会議は、書類を写していると顔が見えなかったのですが、今は自分のPCで書類が見え、テレビ会議が現実の会議と同じように機能しはじめています。

 全社的な業務効率化、およびコストダウン効果は計り知れないものとなるでしょう。私自身もこれで出張を減らすことができています。これからの出張は、顔を突き合わせる「Face to face meeting」が必要なものに限られることになるでしょう。

 その意味では、ビジネス出張に関して、旅行会社や航空会社は厳しい時代になってくるかもしれませんね。


世界各地を訪問、時間を有効に利用する

Q:世界の各地に旅されてもっとも印象に残っている国や町はどこでしょうか?

 何といってもブラジルのクルチバです。サンパウロの南にあるこの町には、ルノーの工場があり、日産の車も造っています。

 初めて行った時、日本からとにかく長い長い旅でした。ロサンゼルス経由で、乗り継ぎも悪い。地球の反対側に行く遠さと疲れを感じました。ところが、到着して目が覚める思いをしました。まず、美しいのです。欧州そのものの町並み、そしてここがブラジルとは思えない素敵さでした。

 それから、パリに向ったのですが、快適そのものの旅でした。日本からブラジルまでが大変だったので、余計に強いインパクトがありました。利用したエールフランス航空の接遇は完璧で、搭乗しているのは5時間から6時間と近く、また時差も3時間くらい。つまり、ブラジル人にとってヨーロッパは日本人がハワイを身近に感じるような感覚ではないか、と思ったことを覚えています。

Q:海外出張で機内、待ち合わせ時間をどう過ごしていますか?よい過ごし方を教えて下さい。

 実は、私は資格を取るのが好きなのです。2000年頃から始めたのですが、今や一種の趣味と言えるでしょう。

 この勉強を出張中にしよう思ったのです。機内では欧州へ行くと片道10時間から12時間はあります。1ヶ月に一度の頻度だと年間で150時間から200時間は勉強時間を捻出することができます。空港などでの待ち時間も結構、余裕のあるまとまった時間なのです。

 これまで年に一つずつ、着実に資格を取得しています。最初は2002年に取った社会保険労務士、03年にはファイナンシャルプランナー2級に合格。昨年は、行政書士の資格を取りました。国内では、通信教育を受け、日曜学校などの集中セミナーを受けたりしますが、出張中の勉強はまとまった時間に集中できるのでとても有効です。

Q:機内ではお酒も出るし、どうすると勉強できるのですか

 機内食は8割程度で、必ず残します。満腹は眠気を誘うからです。それにお酒はご法度、ジュースで我慢。夜食のカップメンの類には絶対手を出しません。こうすると眠くならず、機内は格好の勉強部屋に早替わりです。

 ただ、飛行場にある待ち合わせラウンジは、休むのにはいいが、意外と勉強には向いていませんね。テーブルも低いので、飲み物などを置くだけにはいいのですが。

 次は、無理と思ってはいますが、「司法試験」にチャレンジをしたいのです。法学部出身ですし、何とか勉強してみようとがんばっているところです。しかし、社会人が片手間で受けるようなものではないとても難しい試験ですね。

Q:旅慣れておられますが、旅行準備で気をつけることはありますか

 私は、背広を多く持っていきます。普通1週間くらいの出張では、一着で何とか済ませる人もいます。私の場合は三着くらいを用意していきます。ネクタイも5本から6本は用意します。

 ヨーロッパ、特にロンドンに滞在していたせいか、服装はきちんとしておこうという意識があるのでしょう。そのせいか、なぜか私服はほとんど持っていきません。土日を移動日にすることが多いので、私服を着るチャンスも少ないです。

 また、最近手荷物は小さくまとめ、できるだけ機内持ち込みにしようとする人も多いと聞きますが、私はあまり構いません。


柔軟な対応と確実性が絶対

Q:機内で注意することはありますか?

 そういえば一度、こんな失敗がありました。機内で勉強する際、蛍光ペン(ラインマーカー)で線を引く癖があるのですが、ある時、気圧の関係なのか、中のインクが飛び出してワイシャツがピンク色に染まり大変でした。それからは、赤鉛筆を使っています。

Q:仕事上の必需品で出張に携帯するものは何ですか

 まず、パソコンと携帯電話です。これは絶対です。とにかく、メールのチェックから毎日が始まります。これに携帯電話があれば、どこからでも仕事ができます。

 パスポートの期限をチェックすることも当然ですが、よくレンタカーをするので、国際免許証は毎年更新を忘れないようにしています。

Q:ホテルでの宿泊に配慮する点は

 まず、インターネット環境が整っていることが大前提です。以前、パリに出張した際、ホテルの予約が取れず、プチホテルに泊まりましたが、インターネットが使えず困ったことがあります。

 さらに、日産ではPCはセキュリティ上かイントラネットで使えるようアナログ電話回線でメールを打つことになっています。つまり、デジタル回線ではだめなのです。

Q:VIPのアテンドなどで気をつける、また、注意することを教えて下さい

 特に、イタリアでは、すり・ひったくりや置き引きが多いので、手荷物に気をつけました。また、国によっては、タクシー運転手も安心できないこともあり、VIPの場合は、先導車をつけることもあります。

 タクシーに限ると、出張ではメーター以上の料金を請求されてもめることがあります。私はその場合、「消費税と思って払いなさい」と言うのです。タクシーにも現地人料金と外国人料金がありますので、多めに請求されることがあります。大事なことは、いいなりに払って「もめない」こと。イタリアで10万リラと言われるとすごい金額のようですが、高々6000円くらいです。そのようにもめないことが安全です。

Q:日産、あるいは企業出張として利用する旅行会社に望むことは

 旅行会社には、とにかく柔軟というか臨機応変の対応が望まれます。いったん決定した出張日程通り帰国することはまずありません。途中で変更、変更になりがちです。その場合、フライト変更はもちろんホテル変更など一連の変更を迅速、かつ適切に処理してくれないと困ります。一ヶ所の変更は、旅行日程においては次、さらにその次の予定も変更になりますし、その間の連絡も徹底してもらう必要があります。往々にして、連絡がきちんと行なわれていないことがあります。

Q:旅行会社に求めるサービスとは

 広い意味での「危機管理」が重要でしょう。最近、その範囲がますます広がっており、この危機にどのように対応するかは旅行会社にとって大切なポイントではないでしょうか。

 そして、手配の確実さです。先にも言いましたが柔軟な対応と確実性が絶対です。それから、コストが来るのではないでしょうか。

ありがとうございました。

三好 道生 (みよし みちお)氏
日産自動車株式会社
グローバル広報・IR本部広報部
インターナル・リレーションズ主管

1982年 入社、追浜工場生産課
1984年 海外事業部
1988年 仙台日産(株) セールス担当
1990年 海外事業部渉外業務課
1993年 イタリア日産(株) ローマ駐在
1997年 英国日産(株) ロンドン駐在
1999年 インターナショナル人事部
2003年 現職