法律豆知識(105)、バスの中で盗難にあった場合の責任は

  • 2006年11月4日
 先ごろ、インドからのグループがヨーロッパ旅行中にバスごと盗難にあったという記事を海外の報道で見受けた。海外旅行中の専用バスの中で、パスポート、その他の物品が盗まれたらどうなるのだろうか。この種の事件は時々起こるのだが、法的解決となると結構難しい。今回は3つのケースから検討してみよう。

<ケース1>
 運転手が残るため、添乗員が「荷物はそのままでいいですよ」と旅行者に伝えた。しかし、荷物を残したところ、盗難にあったケースはどうなるか。


 添乗員が、運転手が車内に残ることを確認したにも関らず、一時的に車外に出たり、居眠りをしていた隙、つまり「運転手の不注意」で盗まれる場合、がこれに当たる。
 第一次的には、直接の管理を任された運転手、または運転手を雇用するバス会社の使用者責任が問われる。しかし、海外では、バスの運転手やバス会社の責任を追求するのは事実上、困難である。

 実際は添乗員、または運転手を履行補助者として使う日本の旅行業者の責任が問題となることが普通であろう。しかし、添乗員は、運転手が残ることを確認すれば、それ以上にその責任が認められるのは稀であろう。これは、社内で、かつ運転手付きの場合と、社外でスリや置き引きの危険にさらさせる場合と、どちらが危険かは容易には判断できないからである。

 ただし、例外的に責任が問われるとすれば、周囲の状況から、盗難の危険を感じられる場合であった、あるいは、長時間バスに荷物を置くことになる場合であろう。

 添乗員の責任が問われることにより、使用者である旅行業者が責任を問われれば、手配をしたツアーオペレーターに責任を求めることが多いであろう。しかし、ツアーオペレーターの責任は、原則的には、考えられない。バス車内での盗難の危険度まで把握するのは不可能だからである。

 かつて盗難例が報告されている事実、または、運行管理に問題が認められるにも関わらず、その情報を秘して手配したという特殊な場合には、ツアーオペレーターの責任が生じる余地はある。

 最後に、旅行者自身が荷物の口を開けっぱなしにしていた、あるいは入り口近くに置いていた等々、盗まれやすい状況を作り出していれば、旅行者にも過失があり、過失相殺がありうることは覚えておきたい。


<ケース2>
 添乗員が、「危険なので、車内には荷物を残さないように」と注意したにもかかわらず、残していたために盗難にあったケースはどうか。

 この場合は、旅行者が指示に従わずに、わざわざ荷物を残していたので、原則的には旅行者は誰に対しても責任追求は出来ないであろう。

 もっとも、持ち出せるのは手荷物であり、スーツケースは持ち出すのは不可能であろう。この場合は、運転手等が見張りで残るべき状況にある。従って、スーツケースを壊しての盗難は上に検討したケース1と同様に考えて良いであろう。

<ケ−ス3>
 添乗員が何も指示せず、旅行者の判断で、荷物を残していた場合はどうなるであろうか。

 この場合は、添乗員が持って行くよう指示すべきであったか否かが問題になるだろう。海外旅行が初めてであるとか、海外旅行の経験が浅い人に対しては、添乗員が注意を促す義務があるかもしれない。しかし、そうでない限り、海外は日本と比べ危険が大きいことは周知の事実。原則的には、ケース2に準じて考えることだろう。

<損害について>
 盗難が発生すると、損害を被る。この損害とは、盗難されたそのもの現在価値である。特別補償で賄える程度であれば、その範囲内で損害は解消される。しかし、特別補償に馴染まないものも多い。こうした損害については、一般民事において損害賠償の問題となる。

 もっとも、現金や貴重品は、旅行者自身が、いつも安全なかたちで、携帯するなど、自己責任で管理してもらうしかない。これが盗難に遭えば、仮に、旅行業者等が責任を問われることがあっても、過失相殺率は大きいであろう。パスポートについては、財産価値で評価することは困難だ。負担するべきはせいぜい、再発行コストぐらいである。

 ただし、こうしたケースについては、発生後のサポ−トが重要である。旅行の行程を短縮等するだけでなく、帰国が遅れる場合には、ビジネスチャンスを失うなど遺失利益が生じることもあり得る。さらに、慰謝料の発生もありえる。したがって、大使館、領事館での手続を迅速に行い、被害を最小限にする必要がある。

<最後に>
 いずれのケ−スでも、大事なのは、事件が起きた以上、責任の有無に関係なく、被害旅行者のために迅速に対処することである。地元警察への通知や手続、被害回復、領事館への手続など、旅行者の立場に立ってテキパキと行うことである。

 これが的確であれば、本来責任を負うべきであっても、深刻な状況を避けることができることも多い。逆に、初期段階で険悪な状況となると、後の対処が極めて困難になる。旅行業者としては、普段からこのような危機に対し、いかに対処するか、マニュアルを作成、最新に更新をする努力も重要である。



   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第104回 「白バス」乗車で事故発生の責任

第103回  フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)

第102回  フライト・キャンセルからの紛争(3)

第101回  フライト・キャンセルからの紛争(2)

第100回  フライト・キャンセルから発展した紛争(1)


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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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