法律豆知識(96) 法律家の観点から〜海外旅行の主流がパッケージツアーのままで良いのか
<ヨーロッパと日本の違い>
ヨーロッパの旅行関係の判例を調べていると、日本との違いにびっくりすることが多い。その一つに、パッケージツアーの位置づけがある。
ヨーロッパの判例では、「手配した旅行がパッケージツアーかどうか」ということが重要な争点である。
パッケージツアーだと、旅行業者はツアー全体の責任を負わねばならない。例えば、ホテル内で強盗におそわれて死傷事故が発生した場合、交通機関の手配をしただけのつもりでも、パッケージツアーだとみなされると、ホテル内での事故についても責任を負わされる。
旅行業者としては、あくまでも手配したのは交通機関のみとしたいが、旅行者のホテルの予約の仕方次第では、両者がパッケージになっていると判断されることがあるのだ。つまり「パッケージツアーにならない旅行」が、ヨーロッパの旅行業者が好む手配内容だといえる。
他方、日本は、海外旅行となればパッケージツアーが主流である。
むしろ、手配だけでは儲からないので、パッケージツアーを売りたがる。ライセンスは第3種旅行業であるにもかかわらず、パッケージツアーと思わせるような広告方法で販売して、問題となるケースが後を絶たないのが現実だ。
<ヨーロッパの判例の傾向>
ヨーロッパの旅行業者は、手配した旅行がパッケージツアーとみなされるのを嫌うので、判例ではいかなる場合にも、パッケージツアーとなるかの判断基準が重要となる。その基準は、「Pre-arranged (事前手配)」と 「Inclusive Pricing(包括値付け)」である。
前述のホテルのケースでは、ホテルの予約が旅行の出発前に手配したかどうかと、料金は交通機関とホテルの分をまとめて領収したかどうかが、重要となる。この2つの案件のいずれかを満たすとパッケージツアーとみなされ、ホテル内の事故・事件についても、旅行業者は責任を問われることになる。
いずれにしても、ヨーロッパは日本と違い、判例が豊富なので、パッケージツアーか否かについて多くの詳細な判断事例を探すことができる。
<今後は日本でも賠償請求例が増える>
旅行に出れば、旅行者はさまざまな危険に遭遇する。死傷事故となればその
賠償責任は膨大だ。
にもかかわらず、日本の旅行業者がパッケージツアーに執着するのは、旅行者の死傷事故について、あまり深刻なケースに遭遇したことがないのだろう。おそらく、日本人は訴訟を好まないので、保険での処理と若干のお見舞金で解決してしまうのだろうか。
いずれにしても、日本の旅行業者はパッケージツアーを稼ぎ場所としてきた。手配はツアー・オペレーターまかせで、旅行業者としては手配だけでは儲からないという収益構造ができあがってしまったのだろう。
しかし、ヨーロッパの事情を見ると判るが、パッケージツアーは賠償責任が膨れあがるリスクを背負っている。旅行者がさらに増えれば、今後は日本でも事故・事件による賠償請求例も増えるであろう。日本の旅行業界としては、リスクマネジメントの意味も含めて、手配でも稼げるビジネスモデルの構築を真剣に考えるべき時代に入りつつあるのだろう。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第95回 レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に
第94回 拡大するインターネット取引と旅行業法の問題点
第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
ヨーロッパの旅行関係の判例を調べていると、日本との違いにびっくりすることが多い。その一つに、パッケージツアーの位置づけがある。
ヨーロッパの判例では、「手配した旅行がパッケージツアーかどうか」ということが重要な争点である。
パッケージツアーだと、旅行業者はツアー全体の責任を負わねばならない。例えば、ホテル内で強盗におそわれて死傷事故が発生した場合、交通機関の手配をしただけのつもりでも、パッケージツアーだとみなされると、ホテル内での事故についても責任を負わされる。
旅行業者としては、あくまでも手配したのは交通機関のみとしたいが、旅行者のホテルの予約の仕方次第では、両者がパッケージになっていると判断されることがあるのだ。つまり「パッケージツアーにならない旅行」が、ヨーロッパの旅行業者が好む手配内容だといえる。
他方、日本は、海外旅行となればパッケージツアーが主流である。
むしろ、手配だけでは儲からないので、パッケージツアーを売りたがる。ライセンスは第3種旅行業であるにもかかわらず、パッケージツアーと思わせるような広告方法で販売して、問題となるケースが後を絶たないのが現実だ。
<ヨーロッパの判例の傾向>
ヨーロッパの旅行業者は、手配した旅行がパッケージツアーとみなされるのを嫌うので、判例ではいかなる場合にも、パッケージツアーとなるかの判断基準が重要となる。その基準は、「Pre-arranged (事前手配)」と 「Inclusive Pricing(包括値付け)」である。
前述のホテルのケースでは、ホテルの予約が旅行の出発前に手配したかどうかと、料金は交通機関とホテルの分をまとめて領収したかどうかが、重要となる。この2つの案件のいずれかを満たすとパッケージツアーとみなされ、ホテル内の事故・事件についても、旅行業者は責任を問われることになる。
いずれにしても、ヨーロッパは日本と違い、判例が豊富なので、パッケージツアーか否かについて多くの詳細な判断事例を探すことができる。
<今後は日本でも賠償請求例が増える>
旅行に出れば、旅行者はさまざまな危険に遭遇する。死傷事故となればその
賠償責任は膨大だ。
にもかかわらず、日本の旅行業者がパッケージツアーに執着するのは、旅行者の死傷事故について、あまり深刻なケースに遭遇したことがないのだろう。おそらく、日本人は訴訟を好まないので、保険での処理と若干のお見舞金で解決してしまうのだろうか。
いずれにしても、日本の旅行業者はパッケージツアーを稼ぎ場所としてきた。手配はツアー・オペレーターまかせで、旅行業者としては手配だけでは儲からないという収益構造ができあがってしまったのだろう。
しかし、ヨーロッパの事情を見ると判るが、パッケージツアーは賠償責任が膨れあがるリスクを背負っている。旅行者がさらに増えれば、今後は日本でも事故・事件による賠償請求例も増えるであろう。日本の旅行業界としては、リスクマネジメントの意味も含めて、手配でも稼げるビジネスモデルの構築を真剣に考えるべき時代に入りつつあるのだろう。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第95回 レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に
第94回 拡大するインターネット取引と旅行業法の問題点
第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
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