法律豆知識(95)、レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に
<ケーススタディー>
パックツアー中、レストランでウェートレスが誤って熱湯の入ったポットをひっくり返し、旅行者が手足に大火傷を負った。この場合、旅行を企画した旅行会社は、損害賠償責任を負うのか。
また、派遣添乗員が、現地で直接予約し案内した場合、添乗員ないし派遣先、派遣元が責任を負うべきか。今回はこんなケースを引き合いに、事例研究をしよう。
ケースとしては、間々起こりうるトラブル。このようなケースに対し、日本添乗サービス協会(TCSA)作成の「派遣添乗員の業務ガイドライン」&「添乗業務対応事例集」の事例11でも紹介している。ただし、この説明については、疑問が残ったので、ここで検討するとしよう。
<旅行会社の責任>
旅行者が自由行動中、自分で予約した場合は、旅行会社が責任を負うことがないことは明らかだ。では、添乗員が、旅行者に頼まれ、「サービス」として予約した場合はどうなのか。
あるいは、パックツアーの旅程で、添乗員が直接レストランを予約することが不可欠な場合はどうなのか。
TCSAの事例集では、ウェートレスのミスと、旅行会社の企画、ないし添乗員の予約と、因果関係があることを前提に論じられている。
確かに、このレストランを予約しなければ、熱湯事故が生じなかったので、論理的な因果関係は成立しうる。しかし、損害賠償として必要なのは、「相当因果関係」である。「相当」とは、損害と違法行為の間に、単なる因果関係でなく「公平」の観点から損害賠償責任を負わせて良いという、重要、あるいは密接な因果の関係を必要とする。
ウェートレスが熱湯をこぼす、と言うのは極めてまれなケースである。このようなことが起こることを予測することは不可能である。損害賠償義務の根本にある「公平」の観点からは、このような場合、「相当因果関係」があるとは思われない。
こうしたウェートレスのミスに対し、仮に旅行業者が、事態が発生したレストランの使用を旅程に入れた、添乗員が現地で「サービス」で予約をした、あるいは添乗員の予約が旅程上、不可避でも、その行為が旅行者の火傷と、「相当因果関係」があるとは思われない。
従って、旅行を企画した旅行業者が損害賠償責任はありえないと考えられる。
<予約した添乗員の責任はあるのか>
以上の説明から、旅行者の火傷と予約した添乗員の行為に、「相当因果関係」がないことも明らかであろう。
となれば、添乗員の派遣元はもちろんのこと、派遣先も責任を負うことはないはずである。この点、TCSAの説明では、派遣先が責任をとるとしているが、私は、派遣先も、責任をとる必要はないと考えている。
ただし、旅行者のために、責任についてレストランと交渉してあげる必要があるかだが、少なくとも法的には無いだろう。添乗員、あるいは派遣元や派遣先の責任が無いという前提で、「サービス」として交渉する事は、悪いことではない。また、対応が出来る現地スタッフがいるならば、是非、対応をしてあげて欲しい。
<火傷を負った旅行者は、保障されないのか>
この場合、現場のウェートレスに責任があるのは勿論、彼女を使っているレストランが責任を負うのは当然である。
しかし、外国にいる外国人や外国企業に対し、損害賠償請求をするのは、事実上、極めて困難な事態である。
レストランが日本に支店でもない限り、日本には訴訟管轄がない。そのため、訴訟は現地の裁判所に起こすしかない。だが、その手間と暇を考えれば、これは事実上不可能であろう。
こうした予測不能の事態は、旅行者の旅行保険で対応してもらうことが、現実的な対処となる。
ちなみに、入院した場合はもちろん、通院日数が3日以上となれば、特別補償の対象となり、通院見舞金は受け取れる。だが、この金額では、実際にかかった治療費の一部しか補填されないだろう。こうした観点から、旅行者には、旅行傷害保険に入ってもらうことが不可避だ。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第94回 拡大するインターネット取引と旅行業法の問題点
第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
パックツアー中、レストランでウェートレスが誤って熱湯の入ったポットをひっくり返し、旅行者が手足に大火傷を負った。この場合、旅行を企画した旅行会社は、損害賠償責任を負うのか。
また、派遣添乗員が、現地で直接予約し案内した場合、添乗員ないし派遣先、派遣元が責任を負うべきか。今回はこんなケースを引き合いに、事例研究をしよう。
ケースとしては、間々起こりうるトラブル。このようなケースに対し、日本添乗サービス協会(TCSA)作成の「派遣添乗員の業務ガイドライン」&「添乗業務対応事例集」の事例11でも紹介している。ただし、この説明については、疑問が残ったので、ここで検討するとしよう。
<旅行会社の責任>
旅行者が自由行動中、自分で予約した場合は、旅行会社が責任を負うことがないことは明らかだ。では、添乗員が、旅行者に頼まれ、「サービス」として予約した場合はどうなのか。
あるいは、パックツアーの旅程で、添乗員が直接レストランを予約することが不可欠な場合はどうなのか。
TCSAの事例集では、ウェートレスのミスと、旅行会社の企画、ないし添乗員の予約と、因果関係があることを前提に論じられている。
確かに、このレストランを予約しなければ、熱湯事故が生じなかったので、論理的な因果関係は成立しうる。しかし、損害賠償として必要なのは、「相当因果関係」である。「相当」とは、損害と違法行為の間に、単なる因果関係でなく「公平」の観点から損害賠償責任を負わせて良いという、重要、あるいは密接な因果の関係を必要とする。
ウェートレスが熱湯をこぼす、と言うのは極めてまれなケースである。このようなことが起こることを予測することは不可能である。損害賠償義務の根本にある「公平」の観点からは、このような場合、「相当因果関係」があるとは思われない。
こうしたウェートレスのミスに対し、仮に旅行業者が、事態が発生したレストランの使用を旅程に入れた、添乗員が現地で「サービス」で予約をした、あるいは添乗員の予約が旅程上、不可避でも、その行為が旅行者の火傷と、「相当因果関係」があるとは思われない。
従って、旅行を企画した旅行業者が損害賠償責任はありえないと考えられる。
<予約した添乗員の責任はあるのか>
以上の説明から、旅行者の火傷と予約した添乗員の行為に、「相当因果関係」がないことも明らかであろう。
となれば、添乗員の派遣元はもちろんのこと、派遣先も責任を負うことはないはずである。この点、TCSAの説明では、派遣先が責任をとるとしているが、私は、派遣先も、責任をとる必要はないと考えている。
ただし、旅行者のために、責任についてレストランと交渉してあげる必要があるかだが、少なくとも法的には無いだろう。添乗員、あるいは派遣元や派遣先の責任が無いという前提で、「サービス」として交渉する事は、悪いことではない。また、対応が出来る現地スタッフがいるならば、是非、対応をしてあげて欲しい。
<火傷を負った旅行者は、保障されないのか>
この場合、現場のウェートレスに責任があるのは勿論、彼女を使っているレストランが責任を負うのは当然である。
しかし、外国にいる外国人や外国企業に対し、損害賠償請求をするのは、事実上、極めて困難な事態である。
レストランが日本に支店でもない限り、日本には訴訟管轄がない。そのため、訴訟は現地の裁判所に起こすしかない。だが、その手間と暇を考えれば、これは事実上不可能であろう。
こうした予測不能の事態は、旅行者の旅行保険で対応してもらうことが、現実的な対処となる。
ちなみに、入院した場合はもちろん、通院日数が3日以上となれば、特別補償の対象となり、通院見舞金は受け取れる。だが、この金額では、実際にかかった治療費の一部しか補填されないだろう。こうした観点から、旅行者には、旅行傷害保険に入ってもらうことが不可避だ。
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第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
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