法律豆知識(94)、拡大するインターネット取引と旅行業法の問題点
最近は、インターネットによる取引が増えたが、旅行業界も例外ではない。しかし、トラブルも多い。私が属する国際旅行法学会(IFTTA)でも、9月に開催されるマルタ島での会議のメインテーマは、eコマースである。おそらく、様々なトラブル事例が紹介され、その対策が検討されるだろう。今回は、インターネットに関する法的問題点について、検討しよう。
<海外のサイトの現状>
海外旅行に慣れた旅行者の一部は、海外のサイトを使い、格安の航空券や、パックツアーを購入する者も多いようだ。実際、香港、シンガポール、オーストラリア等に、日本からアクセスしても便利なサイトが沢山ある。英語サイトだけでなく、日本人対象に日本語サイトまである、というのが現状だ。最近は、オーストラリアのサイトで、日本語により日本のホテルを紹介し、日本語で直接予約できるというサイトも見つけた。
<海外のサイトの問題点>
海外のサイトの場合、多くは、日本国内に営業所がない。ここに最大の問題点がある。日本に営業所が無いと、日本で旅行業の登録ができないし、登録をする必要性がない。そのため、日本の旅行業法上の規制は無く、約款による旅行者の保護からは対象外となる。つまり、保険が無く、特別補償も適用されないことになる。
ホテルや航空券の手配だけなら、契約違反やキャンセル料等の問題が生じるだけであるが、格安パック旅行(集合と解散地は外国)においては、上記の問題に限らず、バス事故等が発生した時、あるいは、テロに巻き込まれた場合の責任追求が極めて困難となる。
そもそも契約当事者となる旅行業者がウェブサイト上で不明となることが多い。いざ、という場合の窓口さえ、不明というのが実状である。さらに、法律的には日本国内に営業所が無いため、日本に裁判管轄がなく、責任追及の訴訟を起こすためには、外国において外国の法律が適用されることになる。事実上、訴訟は断念することも多い。
<日本の旅行会社が開設するサイト>
日本の旅行業者がウェブサイトを立ち上げ、外国から外国人の旅行者の申し込みを受けるビジネスも見かけるようになった。これからは、急増するだろう。
このタイプのサイトの場合、旅行自体は日本国内、あるいは国外のいずれも考えられる。しかし、旅行は国外、旅行者も外国在住者であったとしても、日本国内に営業所がある以上、その活動には、日本の旅行業法が適用され、日本の旅行業の登録も必要となる。
日本の旅行業法は、こうした事態を想定していなかっただろうが、同法が旅行者を国内に限っていない以上、日本国内で、旅行業法2条で定める行為を行う者は、旅行業、あるいは旅行業代理業の登録が必要となるはずである。
しかし、日本の旅行会社が外国でのウェブサイトを展開する特有のリスクがある。それは、契約違反やキャンセル料の問題が生じたときに、日本の法廷において、日本の法律で処理してもらえるかというと、全てが処理できるとは限られない。
あるいは、バス事故等の交通事故が発生したとき、テロに巻き込まれた場合、旅行者から責任追求を受けた場合に、現場が外国の時は勿論、それが日本国内であっても、外国で訴訟管轄が認められることがありうる。旅行者がアメリカ人の場合は、なおさら、やっかいなことに発展する恐れがある。アメリカの法廷は、自国民に自国の管轄を与えることに極めて熱心だからだ。
米国内で ビジネスの申し込みを行い、かつ、その準備のため何らかの取引契約を結ぶと、営業所が無くても、米国に管轄を認める州が多い(the "solicitation- plus" doctrine)。外国人を対象にするビジネスをしている者は、営業所を置いていないはずの外国の裁判所から突然呼び出し状が来る可能性があることを頭に入れ、注意されたい。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<海外のサイトの現状>
海外旅行に慣れた旅行者の一部は、海外のサイトを使い、格安の航空券や、パックツアーを購入する者も多いようだ。実際、香港、シンガポール、オーストラリア等に、日本からアクセスしても便利なサイトが沢山ある。英語サイトだけでなく、日本人対象に日本語サイトまである、というのが現状だ。最近は、オーストラリアのサイトで、日本語により日本のホテルを紹介し、日本語で直接予約できるというサイトも見つけた。
<海外のサイトの問題点>
海外のサイトの場合、多くは、日本国内に営業所がない。ここに最大の問題点がある。日本に営業所が無いと、日本で旅行業の登録ができないし、登録をする必要性がない。そのため、日本の旅行業法上の規制は無く、約款による旅行者の保護からは対象外となる。つまり、保険が無く、特別補償も適用されないことになる。
ホテルや航空券の手配だけなら、契約違反やキャンセル料等の問題が生じるだけであるが、格安パック旅行(集合と解散地は外国)においては、上記の問題に限らず、バス事故等が発生した時、あるいは、テロに巻き込まれた場合の責任追求が極めて困難となる。
そもそも契約当事者となる旅行業者がウェブサイト上で不明となることが多い。いざ、という場合の窓口さえ、不明というのが実状である。さらに、法律的には日本国内に営業所が無いため、日本に裁判管轄がなく、責任追及の訴訟を起こすためには、外国において外国の法律が適用されることになる。事実上、訴訟は断念することも多い。
<日本の旅行会社が開設するサイト>
日本の旅行業者がウェブサイトを立ち上げ、外国から外国人の旅行者の申し込みを受けるビジネスも見かけるようになった。これからは、急増するだろう。
このタイプのサイトの場合、旅行自体は日本国内、あるいは国外のいずれも考えられる。しかし、旅行は国外、旅行者も外国在住者であったとしても、日本国内に営業所がある以上、その活動には、日本の旅行業法が適用され、日本の旅行業の登録も必要となる。
日本の旅行業法は、こうした事態を想定していなかっただろうが、同法が旅行者を国内に限っていない以上、日本国内で、旅行業法2条で定める行為を行う者は、旅行業、あるいは旅行業代理業の登録が必要となるはずである。
しかし、日本の旅行会社が外国でのウェブサイトを展開する特有のリスクがある。それは、契約違反やキャンセル料の問題が生じたときに、日本の法廷において、日本の法律で処理してもらえるかというと、全てが処理できるとは限られない。
あるいは、バス事故等の交通事故が発生したとき、テロに巻き込まれた場合、旅行者から責任追求を受けた場合に、現場が外国の時は勿論、それが日本国内であっても、外国で訴訟管轄が認められることがありうる。旅行者がアメリカ人の場合は、なおさら、やっかいなことに発展する恐れがある。アメリカの法廷は、自国民に自国の管轄を与えることに極めて熱心だからだ。
米国内で ビジネスの申し込みを行い、かつ、その準備のため何らかの取引契約を結ぶと、営業所が無くても、米国に管轄を認める州が多い(the "solicitation- plus" doctrine)。外国人を対象にするビジネスをしている者は、営業所を置いていないはずの外国の裁判所から突然呼び出し状が来る可能性があることを頭に入れ、注意されたい。
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第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2
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