法律豆知識(86)、グループ・ブッキングについて−国際旅行法学会の準備原稿

  • 2006年4月15日


 私の属する国際旅行法学会(IFTTA)は、年一回学会を開催するが、今年は、9月7日から10日まで、マルタ共和国で開かれる。参加予定のアイルランドの大学教授から、各会員に対して、「グループ・ブッキング(Group Bookings)」に関し発表したいので、各国の事情を知らせて欲しい旨の要請があった。今回は、そのために用意した私の原稿を本コーナーで紹介することとしよう。
 英訳する前のもので、約款を標準旅行契約書といっているが(約款は日本独自のものである)、日本の制度の特徴を縦断的に説明しているので参考にして欲しい。また、この件について、ぜひ加えて欲しい等の意見があれば、ぜひ寄せて頂きたい。

▽日本でのグループ・ブッキング
1:日本では、Group bookingに関しては、旅行業者との間の契約については、パッケージの旅行契約についても、個別のホテルや運送機関の手配についても、それぞれについて標準契約書(約款)が存在し、その中に規定がある。

2:標準旅行契約書は、国土交通大臣が、旅行業法に基づき作成する。旅行業者は、原則的にこの標準契約書に基づき、旅行者と契約することを強制されるのが原則である。
 ただし、個別の業者は、同大臣の認可を得れば、個別の標準旅行契約書を保有できるが、旅行業法に基づき、その内容は、一般用の標準旅行契約書に比べ、旅行者に不利には出来ないことになっている。
 また、旅行業者は個別の旅行者と、標準旅行契約書と違う個別の旅行契約を締結できるが、同じく旅行業法に基づき、標準旅行契約書に比べ、旅行者に不利な契約は出来ないことになっている。

3:標準契約書では、Group bookingの申し込みをするには、契約責任者と呼ばれる代表者を定めて申し込みをすることになっている。一旦、契約責任者を定めると、特約を結ばない限り、契約責任者は、そのグループを構成する旅行者のために、旅行契約を締結する一切の代理権を有するものとみなされる。したがって、旅行業者は、この者一人と、交渉し、契約すればよい。
 なお、契約責任者は、旅行業者の定める日までに、旅行者の名簿を提出する必要がある。
 また、契約責任者が旅行に同行しないときには、旅行開始後のために、旅行者のうち他の者を契約責任者に選任する義務を負う。

4:Group bookingでは、このように、契約責任者を選任する必要があるが、しかし、契約責任者は、各旅行者の代理人にすぎず、旅行契約は、各旅行者と、旅行業者の間で成立し、グループと旅行業者の間で成立するわけではない。
そこで、たとえば、標準契約書では、パッケージの海外旅行のばあい、旅行者の都合による旅行契約解除についてのキャンセル料は、

  旅行開始日がピーク時の時、旅行開始日の前日から起算してさかのぼって
 40日目以降に解除する場合、旅行代金の10%以内
  旅行開始日の前日から起算してさかのぼって30日目以降に解除する場合、
 旅行代金の20%以内
  開始日の前々日以降に解除する場合、旅行代金の50%以内
  旅行開始以降の解除、又は、no showの場合、旅行代金の100%以内 

と規定されている。 
 個別の手配の時は、旅行者は、時期に関係なく、キャンセルにより運送、宿泊機関に払わなければならない取消料等の費用のほか、旅行業者があらかじめ定める取消手数料と、当該旅行業者が得るはずであった取扱料金を支払わなければならないとされている。
 しかし、これら、キャンセルの責任は、各旅行者が個人として負担することになり、グループとして、責任を負うわけではないのである。

5:日本では、旅行者と旅行業者とのトラブルの場合、訴訟で解決することは稀である。その代わり、旅行業者の団体である日本旅行業協会(JATA)が、苦情相談窓口を有しており、これが調停(mediation)の役割を果たしている。この裁判外紛争解決(ADR)としてのmediationの信頼性はかなり高く、トラブルの多くは、これで解決している。



   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?

第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から

第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?

第82回 添乗員が旅先で病気に、その対策と対処

第81回 最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か

第80回 広告やパンフレットで掲載する食事の写真




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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/