法律豆知識(85)、景品表示法と広告−その2 「おとり広告」とは?

  • 2006年4月8日



 景品表示法の不当表示

 景品表示法により、不当表示とされるもの(同法第4条)を分類すると、優良誤認表示、有利誤認表示、二重価格表示、不当な原産国表示、おとり広告、不当な比較広告があり得る。いずれも、不当な表示により、消費者の誤認を招来させて顧客を不当に勧誘し、公正な競争を阻害するものである。ちなみに、前回紹介した、日本航空ジャパンのケースは、実際のものより著しく有利であると一般消費者に誤認させる、「有利誤認表示」の典型例である。

 ところで、公取委は、告示や通達というかたちで、不当表示の具体的な運用基準を示している。これらは、公取委のウェブサイトから、容易に検索できるので、普段から注意をしていて欲しい。
 日本旅行業協会(JATA)の「旅行広告作成ガイドライン」は、勿論、景品表示法にも立脚して作成されている。従って、旅行業者は、このガイドラインに記載がある事項については、それに従っている限り、景品表示法に抵触することはないので安心されたい。


 おとり広告

 本コーナでは、まずは、「旅行広告作成ガイドライン」では、詳しく触れられていない、「おとり広告」について説明しておこう。おとり広告については、平成5年4月28日の公取委の告示17号で、おとり広告に当たる表示が詳しく示され、同日の事務局長通達第6号でその運用基準が詳説されている。

 ところで、旅行業者に関する実例で、「おとり広告」の問題を生じさせそうなケースを考えると、格安な航空券やホテルクーポンを売り出す場合に、その実例を見いだすことができる。旅行者がその安さにつられて申し込みをすると、「その格安航空券はもう売り切れました。しかし、こちらなら予約に余裕があります」といって、格安ではない別の航空券やクーポンを売りつけてしまう。つまり、格安ツアーは、「おとり」というケースである。
 もともと、格安ツアーが存在しなければ、これは露骨に人を欺罔するもので、「おとり」であることは勿論であり、その違法性は強い。実際に、格安ツアーが用意されていても、その参加人員が限られている場合も、典型的な「おとり」になる。
 他方、用意していた格安ツアーで、申し込みに対し十分対応できると思っていたのに、予想外の人気が出て間に合わなくなってしまったというときは、そこには欺罔性はなく、「おとり広告」とならない。
 このように「おとり」となるかどうかの線引きは、意外と難しい。そこで、この線引きを明らかにする解釈基準が大事となる。

 前述の通達では、違法となるケースとして、「供給数料が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合」があげられている。要するに、どのくらい在庫しているか、具体的に示して募集せよ、という訳である。
 しかし、この基準は厳しい。格安航空券など、実際には、販売数量など事前はもちろん、事後でも、公表しないのが普通だ。となると、格安航空券が、潤沢に用意されていない限り、この通達によれば違法状態になってしまう。
 では、格安なものが、どのくらい用意されていれば良いかであるが、通達では、「広告商品の販売数量が予想購買数量の半分にも満たない場合」を、「おとり」に当たるとしている。予想購買数量とは、過去の取引実績が目安になり、過去におけるその時期、季節での販売実績が基準となるが、「半分」に満たなければ違法とするこの運用基準も厳しい。
 私の実感では、格安の航空券やホテルクーポンのうち、「おとり」と認定されてしまうものが、現状ではかなり有りそうである。従って、業界としては「おとり広告」について何らかの改善策が必要な気がする。場合によっては、旅行業界の特殊性に対応した「運用基準」を公取委に設定してもらう必要があるかもしれない。そのためには、かなり強力なロビー活動が要求されるであろう。


 パックツアーでの「おとり広告」

 パックツアーでも、類似した「おとり広告」の事例はありうる。参加人数の限られた格安ツアーを「おとり」に、類似のツアーを売りつけているというケースだ。そのような商法は、景品表示法に抵触するので、注意を要する。





   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から

第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?

第82回 添乗員が旅先で病気に、その対策と対処

第81回 最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か

第80回 広告やパンフレットで掲載する食事の写真




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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
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