法律豆知識(84)、景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から

  • 2006年4月1日



 はじめに

 本コーナーの第57回で、国際旅行法学会(IFTTA)の学会報告をしたが、その際、日本の大手航空会社が「広告のミスリーディング」をしたケースが、ヨーロッパからの出席者の口から飛びだして、面食らった話を紹介した。
 私としては、緻密な日本の航空会社がそんな粗雑なことをするのかと半信半疑であったが、去る3月25日、同日付けの朝日新聞朝刊を読んでいたところ、日本航空ジャパンの航空運賃の割引が、景品表示法にもとづく「不当表示」で、公正取引委員会から排除命令が出されたというニュースが目にとまり、びっくりした。
 公取委の排除勧告は簡単に出されるものではなく、その前に「注意」が出され、それに従えば排除命令まで至らないのが普通なので、どうして排除勧告にまでなったのかと思うと、その記事によれば、同社は、昨年5月にも同様の広告を出して公取委から「注意」をだされていたという。今回はその「注意」を無視して再度同種の広告を出したとのことで、悪質と判断され排除命令に至ったようである。



 広告ミスリーディング


 航空会社の「広告ミスリーディング」の問題自体も旅行業全体に影響するが、旅行業者自身がする広告の内容も慎重にしないと、同じように、景品表示法に抵触することになるので、これを機会に、景品表示法について検討することにしよう。
 旅行業界の広告といえば、旅行業法、旅行契約約款、国土交通省の通達、JATAの「旅行広告作成ガイドライン」等で細かく規制ないし指導されており、この範囲内で処理すれば、事が済むと思いこんでいる者も多いが、それは危険である。
 消費者保護法が旅行契約にも適用されることは、本コーナーでたびたび指摘したが、景品表示法が適用されることも忘れてはならないのである。



 景品表示法


 景品表示法は、正式には、「不当景品類及び不当表示防止法」と呼ばれ、一般消費者の保護と公正な競争の確保を目的としている。独占禁止法の延長にある法律で、公正取引委員会が所轄している。
 景品類のカテゴリー(3条)では、その価格の最高額や総額、種類や提供方法を規制し、例えば、不相当に高額の景品を提供するとして消費者を誘引することを禁じている。
 不当表示防止のカテゴリー(4条)では、商品やサービス(役務)について、実際のものよりも、または競争相手より著しく優良、あるいは著しく有利であると表示すること、その他、一般消費者に誤認されるおそれのある表示をすることにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害する行為を規制している
公取委は、これらに対する違反行為には排除命令を出せる。排除命令は、行為の差し止め、一般消費者の誤認排除のための広告、再発防止策の策定、今後の広告の公取委への提出などを内容としている。
 排除命令に対して、相手方事業者が応諾すれば確定する。事業者は、不服があれば審判に移行し、その結果に不満なら訴訟となる。確定した排除命令に違反すると、刑事罰の制裁もある。
 また、被害者は、損害賠償の請求が出来るが、独占禁止法25条により、無過失の損害賠償となる。事業者には厳しいものとなっている。

 ところで、前述の通り、排除命令の前に、公取委は事業者に対し、「注意」、又は、「勧告」をするのが普通である。事業者は、それに応じて、違反行為を停止すれば、排除勧告に至らないことが多い。なお、「勧告」は、公表されることになっている。
 都道府県にも権限があり、「注意」や「指示」が出来る。「指示」に従わない者に対しては、公取委に対し、措置請求をする。公取委は、これをうけ調査し、排除命令を出すことになる。



 今回は、何が起きたのか


 日本航空ジャパンは、朝日の記事によれば、「東京へはお得な特便割引で。岡山=東京線、1万1100円〜」と表示。しかし、実際に割り引かれたのは、東京から岡山に来る早朝の「下り便」だけで、岡山から出発する「上り便」割引の対象外だったとのことだ。「最初に注意を受けた営業担当者が公取委からの注意を受けた認識を持っておらず、組織として徹底できなかった」と説明していたという。
 公取委の「注意」は、前述のとおり重い意味を持つ。「注意」を実行しなければ、排除命令を受ける。この点は十分理解する必要がある。排除命令を受ければ、その命令の重みだけでなく、事実は公表され、信用失墜は大きい。さらに、顧客からは、損害賠償請求されうるし、無過失責任なので負担は大きい。

++次回は、旅行業界の広告において、景品表示法の観点から注意すべき点を検討してみよう。




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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/