第65回法律豆知識、企業の倒産処理の基礎知識

  • 2005年11月12日
 日本の景気も、長期低落傾向から脱して確実に回復基調となり、企業の倒産数も減少している。しかし、旅行業界は足腰の弱い企業が多く、まだまだ倒産例が多い。今回は、旅行法そのものから離れ、会社の倒産処理についてその概略を説明しておこう。ビジネスに携わる者は、自分の会社が倒産とは無縁でも、倒産法の概略については一般知識として持っておくべきだろう。なお、私自身は、現在、大東文化大学法科大学院(ロースクール)において、倒産法を講義している。

▽倒産法の概略
 倒産法は大きく分けて、清算型と再建型の二種類がある。清算型は、破産法に基づき、破産管財人が清算を行い、最後に債権者に配当して企業は消滅する。特別清算という方法もあるが、使い勝手が悪く、ほとんど利用されない。
 再建型は、破綻しているかそのおそれの強い企業を健全な企業に再建するもので、会社更生法と、民事再生法が用意されている。他に、会社整理という方法があるが、ほとんど利用されず、近々廃止される見込みである。

▽清算型とは
 裁判所に破産の申し立てをすると、通常1週間以内に破産手続きの開始決定があり、破産管財人が選任される。
 破産管財人は、清算手続きにより会社財産を全て現金化して債権者に配当する。現実の配当率は極めて低く、2%から3%あれば良い方だ。現実は配当のないまま異時廃止で終結することのほうがずっと多く、10%配当など稀である。
 中小企業では、代表取締役が会社債務を個人保証していることが通常である。そのため、代表取締役は、会社と一緒に個人としても自己破産の申請をするのが常套手段となる。清算終了後、免責決定を得て債務をゼロに出来るからである。債務の負担が無くなれば、再起も十分可能となる。
 清算は、裁判所に申し立てをせず、「任意整理」で行うこともある。しかし、現在は、破産手続きで処理するのが圧倒的である。破産手続きは、裁判所の努力で運用が効率化された。また、破産法が全面改正されたこともあり、ほとんどのケースが半年以内で終結している。そのため、任意整理の必要性は少なく、例外的な手段となっているのである。

▽再建するには
 会社更生法は戦後、長く使われてきた再建手段である。従来の役員は退陣し、更正管財人が再建に当たる。本来大企業の再建のための制度で、更正計画の認可まで1年位を想定している。
 民事再生法は、2000年に誕生した新しい再建のツールで、管財人がつかず、自ら再建にあたれるのがその特徴である。中小企業の再建用に設計されており、再生計画認可まで半年くらいを想定している。この民事再生法は、再建には効果的な手段で、再建の可能性のある会社は、これにより短期で再建を軌道に乗せている。
 とはいえ、再建には、再建するだけの余力が残っていることが必要である。日本の経営者は、企業経営に息詰まっても、なかなか法的手段をとる決断が出来ず、完全に破綻してから弁護士に相談するというのが実状で、私の事務所でも、本人は再建したくても再建余力が残っておらず、破産で清算せざるを得ないという残念なケースが多い。
 また、再建余力が極めて薄弱なため、スポンサーが確保できないと再建できないというケースも多い。ただ、中小企業に興味を持つスポンサーは少なく、スポンサーを確保できずに再建に失敗するということも多いのが実状である。

▽その他の不法
 会社としては借入れ過剰で再建不可能でも、営業自体は収益が期待できるという場合もある。このようなケースでは、その営業を第三者に譲渡したうえ、残った会社を破産で清算するという方法も良く行われる。
 ただ、旅行業者の場合、行政庁への登録が必要である。そのため、新会社をつくって営業譲渡する方法だと、この新会社が事前に旅行業の登録を得ておく必要があるが、これは事実上困難なため、受け皿は、既存の旅行業者にせざるを得ないことも多い。
 また、負債が特定の金融機関がほとんどという場合は、簡易裁判所に「特定調停」を申し立て、そこで話し合い解決させるという方法もある。金融機関も、不良債権の最終処理を急いでおり、最近はこの方法で短期に解決出来たというケースも多い。

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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆 金子博人弁護士
    [国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
▽ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
▽IFTTAサイト http://www.ifta.org/