第64回法律豆知識、旅行業における「契約は守られるべし」の法原則

  • 2005年11月5日
 契約は、一旦締結されると変更できない。これは、「契約は守られるべし」という、当然の法原則である。相手の同意無く一方的に変更できるのは、契約のなかで変更権が留保されているか、法令上許されている場合だけである。従って、旅行契約では、申込金を受理すると、契約を変更できなくなるのが原則となることを、まず認識して欲しい。
 ところが、旅行業者の中には、旅行は事情が変化するのだから変更できて当たり前、と決め込んでいる者が見受けられる。そこまで行かなくても、契約の変更を気楽に考えている者が多い。その結果、契約の変更を巡って、旅行者とのトラブルが多発する。今回は、この契約変更について検討することとしよう。

▽約款では

 旅行契約約款は旅行契約の当然の内容となる。そこで、まず、約款で変更が許されている場合を確認しよう。
 天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止等、官公所の命令など旅行業者の関与し得ない事由が生じて、変更がやむをえないときには変更できる(約款13条)。
 運送機関の運賃等については、「通常予想される程度を大幅に超えて増額又は減額される場合」には、その範囲内で、旅行代金を増減できることになっている(約款14条1項)。このように、増減が「大幅」な場合に限られていることに注意すべきである。かつ、増額には、旅行開始日から起算してさかのぼって15日に当たる日より前に旅行者にその旨通知する必要がある(同条2項)。
 運送、宿泊機関等の利用人員により旅行代金が異なる旨契約書に記載した場合において、旅行契約の成立後に旅行業者の責に帰すべき事由によらずに当該利用人員が変更になったときは契約書面に記載したところにより変更できる(同条5項)。
 約款にあるのは、以上の3項目のみで、極めて限られている。

▽契約書面での解決は

 実際には、この約款の規定だけでは間に合わない。もっと多くの項目で、事前に特定できないか、特定しても後に変更の必要が出てくる場合があろう。
 この場合、契約書面の必要的記載事項(旅行業法施行規則27条)か否かが重要である。契約書面の必要的記載事項であれば、確定的に記載されていなければならないが、仮に、契約書面では確定された旅行日程、運送、もしくは宿泊機関の名称を記載できないときには、利用予定の宿泊機関や運送機関の名称を契約書面で限定列挙の上、確定書面で確定させればよいことになっている(約款10条)。
 契約書面の必要記載事項でない時には、例えば、後に述べる添乗員の同行の有無のように、確定をさらに先送りできる。
 なお、募集型企画旅行についてであるが、「最少催行人員」については、広告や契約書面であらかじめ明記しておけば、旅行開始前であれば、最少催行人員に満たないことを理由に旅行契約を解除できることになっているし、解除に時期の制限はない(募集型約款17条1項5号)。

▽変更に対する旅行者側の対抗策

 契約書面で定めた日までに確定書面を提出できない時、旅行代金が前述の約款14条1項で増額された場合、あるいは変更補償金の対象になるような重要な変更(日程や、目的地の変更、運送機関や宿泊施設の変更、これらのランクの下方変更など、約款別表第二上欄に記載されている事項)については、旅行者は、取消料無く旅行契約を解除できる(約款16条2項)。
 このように重要な変更については、旅行者が取消料無く解除できるということは、旅行業者としては決して忘れないで欲しい。

▽契約書面での「添乗員」の表記について

 旅程管理業者の同行の有無は、広告の表示項目である(施行規則29条)。しかし、取引条件説明書面及び契約書面の必要記載事項ではない(施行規則25条の3、同27条)。契約書面で、同行しないときの旅行業者との連絡方法の記載が求められているだけである(同27条)。
 参加者数により添乗員の同行の有無が変わるときには、前述の旅行広告ガイドラインでは、「添乗員は同行しません。但し、お客様の参加者数が15名以上の時は、全行程添乗員が同行して旅程管理業務を行います」と記載するよう求められている(同ガイドラインでは、このように、同行しないことが原則となるよう表示すべきで、単に「一五名さま以上添乗員同行」と書くことは不適切としている)。
 契約書面では、同行の有無を記載する必要はなく、同行しないときの連絡先を記載しておけばそれで十分とされている(施行規則27条)。確定書面で同行の有無を確定させる必要もない。つまり、旅行者が集合場の出発空港で初めて添乗員の同行の有無が判るということでもやむをえないことになる。
 これは旅行業者にとって、出発の直前まで最終参加者の人数は判らないということから来るのだろう。ただし、旅行業者の実務としては、可能な限り早めに添乗員の同行の有無を決断して、参加者に伝えて欲しい。

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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆 金子博人弁護士
    [国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
▽ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
▽IFTTAサイト http://www.ifta.org/