第13回・法律豆知識、海外旅行傷害保険の重複契約の不告知の効力
<東京高裁平成3年11月27日判決>
保険契約者が保険契約の締結にあたり、重複契約に関する通知・告知義務に違反した場合において、保険者に契約の解除権を付与する約款は有効である。しかし、保険契約者において保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったという特段の事情を主張立証すれば、契約の解除は許されない。
▽問題の所在
海外傷害保険を申し込むときには、他に傷害保険を掛けていないか聞かれるはずだ。しかし、その際一般の旅行者のなかには、あまり深刻に考えずに、他に傷害保険に入っていても、それを告知しない者が相当いるのではなかろうか。
損害保険会社の保険約款では、顧客に対し、契約を締結する際に重複契約(傷害保険の被保険者、時期等が共通)であるときはその旨の告知義務を課し、契約締結後に重複契約であることを知ったときにはその旨通知しなければならず、これを怠ると、保険会社は契約を解除できるのが通常である。
では、顧客が実際にこの告知、通知義務を怠った場合に、保険会社が本当に契約を解除し、保険金の支払いを拒絶できるのだろうか。もし、解除できるとすると、多くの者がせっかく保険にはいっていても、いざという時に保険金を受け取れなくなってしまうであろう。
本判例は、この問題について、裁判所が判断をしてくれた極めて貴重な判例である。
▽保険契約と事故
Aと妻Bは、旅行業者C社主催のパッケージツアー「モルジィブ・ビアドゥ島8日間」に申し込み、昭和60年1月3日、モルジィブに向け出発した。ところが、Bは、昭和60年1月5日午後9時頃、モルジィブのビアドゥ海岸で溺死した。
実は、Aは、旅行に出かける前、妻Bを被保険者として、この旅行期間中について、死亡の場合においては5000万円が二口と、7500万円が一口、合計1億7500万円の海外旅行傷害保険ないし傷害保険を掛けていた。そのため、保険金詐欺の「疑惑」が生じ、当時のマスコミを大いに賑わすことになった。
▽保険金額の制限と告知・通知義務
なぜ、前述の告知・通知義務があるかといえば、我が国の損害保険会社は、同一の被保険者について締結される傷害保険契約の保険金額が自社及び他社を合計して一定の金額を超えるときには、それ以上の保険引き受けを拒絶する扱いをしているからである。本件当時における傷害(死亡)を保険事故とする保険の引受総額の限度は1億5000万円、海外旅行傷害保険の引受総額の限度は1億円とするのが各保険会社の扱いであった。そのような制限がある理由は、保険金額が高額になると、故意に事故を招来するなどして不正に保険金を取得しようとする危険性が高くなるからである。また、海外では、事故招致の証明が困難で、不正な保険金請求が起こりやすいため、海外旅行傷害保険の限度は低いのである。
▽裁判所の判断
冒頭で紹介したとおり、保険契約者が、保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったことを立証できれば、重複保険であることの告知・通知を怠っていても、保険金はおりるのである。
本件のAは、実は本判決で保険金の受領を否定された。実は、Aは、旅行に関する情報出版と航空券の販売を目的とする会社を設立。その企業の代表取締役を務めており、さらに同社は、ある損害保険会社の代理店でもあった。まさに、旅行傷害保険のプロであった。にもかかわらず、不告知・不通知のまま高額の保険を3口も掛けたとなれば、保険契約濫用の目的がなかったとはいえないと認定されてもやむを得ない(判決では「疑惑」には直接触れていない)。
しかし、普通の旅行者が深く考えずに、重複契約の事実を敢えて述べなくても、それをとらえて、保険会社が保険金の支払いを拒否することは出来ないというのが、本判決の判断であろう。
▽教訓
旅行傷害保険を締結する際、普通の旅行者が不告知でも、原則的には保険の支払いを拒絶されることはないといえる。しかし、他の事情も加われば支払いを拒絶されることもあり得よう。旅行傷害保険を勧めるときには、重複保険でないことの確認は、必ず実行してもらいたいものである。さらに、後に重複保険であることが判ったときには、その旨通知しなければならないことも併せて説明すべきである。
保険契約者が保険契約の締結にあたり、重複契約に関する通知・告知義務に違反した場合において、保険者に契約の解除権を付与する約款は有効である。しかし、保険契約者において保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったという特段の事情を主張立証すれば、契約の解除は許されない。
▽問題の所在
海外傷害保険を申し込むときには、他に傷害保険を掛けていないか聞かれるはずだ。しかし、その際一般の旅行者のなかには、あまり深刻に考えずに、他に傷害保険に入っていても、それを告知しない者が相当いるのではなかろうか。
損害保険会社の保険約款では、顧客に対し、契約を締結する際に重複契約(傷害保険の被保険者、時期等が共通)であるときはその旨の告知義務を課し、契約締結後に重複契約であることを知ったときにはその旨通知しなければならず、これを怠ると、保険会社は契約を解除できるのが通常である。
では、顧客が実際にこの告知、通知義務を怠った場合に、保険会社が本当に契約を解除し、保険金の支払いを拒絶できるのだろうか。もし、解除できるとすると、多くの者がせっかく保険にはいっていても、いざという時に保険金を受け取れなくなってしまうであろう。
本判例は、この問題について、裁判所が判断をしてくれた極めて貴重な判例である。
▽保険契約と事故
Aと妻Bは、旅行業者C社主催のパッケージツアー「モルジィブ・ビアドゥ島8日間」に申し込み、昭和60年1月3日、モルジィブに向け出発した。ところが、Bは、昭和60年1月5日午後9時頃、モルジィブのビアドゥ海岸で溺死した。
実は、Aは、旅行に出かける前、妻Bを被保険者として、この旅行期間中について、死亡の場合においては5000万円が二口と、7500万円が一口、合計1億7500万円の海外旅行傷害保険ないし傷害保険を掛けていた。そのため、保険金詐欺の「疑惑」が生じ、当時のマスコミを大いに賑わすことになった。
▽保険金額の制限と告知・通知義務
なぜ、前述の告知・通知義務があるかといえば、我が国の損害保険会社は、同一の被保険者について締結される傷害保険契約の保険金額が自社及び他社を合計して一定の金額を超えるときには、それ以上の保険引き受けを拒絶する扱いをしているからである。本件当時における傷害(死亡)を保険事故とする保険の引受総額の限度は1億5000万円、海外旅行傷害保険の引受総額の限度は1億円とするのが各保険会社の扱いであった。そのような制限がある理由は、保険金額が高額になると、故意に事故を招来するなどして不正に保険金を取得しようとする危険性が高くなるからである。また、海外では、事故招致の証明が困難で、不正な保険金請求が起こりやすいため、海外旅行傷害保険の限度は低いのである。
▽裁判所の判断
冒頭で紹介したとおり、保険契約者が、保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったことを立証できれば、重複保険であることの告知・通知を怠っていても、保険金はおりるのである。
本件のAは、実は本判決で保険金の受領を否定された。実は、Aは、旅行に関する情報出版と航空券の販売を目的とする会社を設立。その企業の代表取締役を務めており、さらに同社は、ある損害保険会社の代理店でもあった。まさに、旅行傷害保険のプロであった。にもかかわらず、不告知・不通知のまま高額の保険を3口も掛けたとなれば、保険契約濫用の目的がなかったとはいえないと認定されてもやむを得ない(判決では「疑惑」には直接触れていない)。
しかし、普通の旅行者が深く考えずに、重複契約の事実を敢えて述べなくても、それをとらえて、保険会社が保険金の支払いを拒否することは出来ないというのが、本判決の判断であろう。
▽教訓
旅行傷害保険を締結する際、普通の旅行者が不告知でも、原則的には保険の支払いを拒絶されることはないといえる。しかし、他の事情も加われば支払いを拒絶されることもあり得よう。旅行傷害保険を勧めるときには、重複保険でないことの確認は、必ず実行してもらいたいものである。さらに、後に重複保険であることが判ったときには、その旨通知しなければならないことも併せて説明すべきである。