法律豆知識 第1回「未知の国・地域への初ツアーは要注意」金子博人
問題:パッケージツアーの催行が初めての国。旅行内容に不備がある時の責任はどこまで問われるか?
パッケージツアーが催行不可能である国や地域も、治安の安定、国の方針転換により、新たにツアー企画が可能になることもある。このような場合、デスティネーションは未知な部分が多いだけに、旅行者、旅行業者とも魅力的だが、初めてであるが故に、企画・販売側、受入れ側共に経験不足の為、様々なトラブルも生じる。今回は、訴訟に発展したサウジアラビアのケースを紹介し、トラブル防止を検討しよう。
サウジアラビア王国は厳格なイスラム国家で、宗教上の理由から外国人の入国を厳しく制限するも、1994年頃から入国を緩和。当時、同国国防航空省に属するサウジアラビア航空(SV)が企画、管理する旅行限定で日本人の入国も可能となる措置を受けたA社はSVが交付した資料に基づきパンフレットを作成。1999年1月以降に「荘厳なるコーランの響き サウジアラビア紀行十三日間」と題するツアーを募集した。このツアーの初期に実施した分に関して、参加者から強い苦情が出たようだ。旅行後、SVは日本副代表を介し、参加者に陳謝、一人あたり100米ドルを返還。A社も詫び料として、この100ドルを含め、一人あたり3万円を返還した。このうち旅行参加者Bは、3万円の返還では納得せず、旅行内容が契約内容と異なり、旅行代金(83万2000円)が相場より割高との理由で、慰謝料80万円、財産的損害30万円を併せた金額の支払い(実際は詫び料3万円の返還があり、107万円の請求)を求め、裁判を提起した。
Bの主張の概要は、こうだ。「最新型の大型バスが予定されていたが、実際は中古のバス。サウジ王家の『赤い砂漠』で、ロイヤルテントの食事は普通人のテント。旅行代金が高いにも関わらず、昼食のうち4回は屋外で箱入り弁当。予定された訪問地では外から見学、車窓からの見学、駆け足見学が数ヶ所。自由時間は金曜に設定したが、売店は休業であり、何もすることが出来なかった」等々。つまり、「『荘厳なるコーランの響き』は滞在中一度も聞けなかった」として、A社を旅行契約に対する債務不履行(不完全履行)が多数あるとして訴えたのだ。
判決自体は、旅行内容に相当程度不備があることは認めた。ただし、一審、控訴審ともA社が勝訴(控訴審 福岡高等裁判所判決平成13年1月30日)。控訴審判決によれば、今回の旅行が顧客の信頼、ないし期待に十分に応えるものとは言い難いとしながら、旅行の実施に関して、全てがサウジアラビア政府、また政府機関であるSVの管理下にあり、日本の旅行業者が介入することは困難である。また、当該旅行の目的地、日程、移動手段等について、十分な調査を行うことが困難、かつ旅行サービス提供機関(本件はSV)以外の選択の余地が無かったこと等を考慮。A社の対応は、初めての企画としては止むを得ず、法的に過失があったとまではいかないとの判断である。
結果は旅行業者側の勝訴だが、判例は旅行企画にとって多くの教訓を含んでいる。今回のケースにおいて、旅行サービス提供機関が複数存在し、事前調査が可能である場合、結論は逆になった可能性が強い。すなわち、初めての国や地域にツアーを催行する場合、可能であれば実際に現地調査をするなど、事前調査を尽くさないと旅行業者は法的な責任を問われることを示唆するからだ。この点は、旅行業者は肝に銘じて頂きたい。
またA社は、参加申込者に「諸々の手配は、サウジアラビア航空の全責任の下におこなわれます。現地事情により、入国してからも突然の日程・宿泊地・ホテル等が変更される場合がございます」や、「当該変更に関しては変更補償金の対象外とさせていただきます。特殊な国であることをご理解の上、ご参加ください」などと明記したパンフレットを送付している。このようなパンフレットを事前に送付した事実もA社が判決で勝訴を得た要因の一つだ。
しかし、読者の方々には、上記のパンフレットを送付したにもかかわらず、後に参加者が旅行内容に強い抗議を行った事実に注目して欲しい。つまり、文書だけでは、お客は事情を十分理解しないと言うことだ。この件に関しては、口頭で丁寧に旅行の特殊性を説明していれば、事後の苦情は若干なりとも防ぐことが出来たのではないかと思われる。これに限らず、「トラブル防止の最良の手段は、口頭で必要な説明を尽くす」ということであるということを心がけたい。
パッケージツアーが催行不可能である国や地域も、治安の安定、国の方針転換により、新たにツアー企画が可能になることもある。このような場合、デスティネーションは未知な部分が多いだけに、旅行者、旅行業者とも魅力的だが、初めてであるが故に、企画・販売側、受入れ側共に経験不足の為、様々なトラブルも生じる。今回は、訴訟に発展したサウジアラビアのケースを紹介し、トラブル防止を検討しよう。
サウジアラビア王国は厳格なイスラム国家で、宗教上の理由から外国人の入国を厳しく制限するも、1994年頃から入国を緩和。当時、同国国防航空省に属するサウジアラビア航空(SV)が企画、管理する旅行限定で日本人の入国も可能となる措置を受けたA社はSVが交付した資料に基づきパンフレットを作成。1999年1月以降に「荘厳なるコーランの響き サウジアラビア紀行十三日間」と題するツアーを募集した。このツアーの初期に実施した分に関して、参加者から強い苦情が出たようだ。旅行後、SVは日本副代表を介し、参加者に陳謝、一人あたり100米ドルを返還。A社も詫び料として、この100ドルを含め、一人あたり3万円を返還した。このうち旅行参加者Bは、3万円の返還では納得せず、旅行内容が契約内容と異なり、旅行代金(83万2000円)が相場より割高との理由で、慰謝料80万円、財産的損害30万円を併せた金額の支払い(実際は詫び料3万円の返還があり、107万円の請求)を求め、裁判を提起した。
Bの主張の概要は、こうだ。「最新型の大型バスが予定されていたが、実際は中古のバス。サウジ王家の『赤い砂漠』で、ロイヤルテントの食事は普通人のテント。旅行代金が高いにも関わらず、昼食のうち4回は屋外で箱入り弁当。予定された訪問地では外から見学、車窓からの見学、駆け足見学が数ヶ所。自由時間は金曜に設定したが、売店は休業であり、何もすることが出来なかった」等々。つまり、「『荘厳なるコーランの響き』は滞在中一度も聞けなかった」として、A社を旅行契約に対する債務不履行(不完全履行)が多数あるとして訴えたのだ。
判決自体は、旅行内容に相当程度不備があることは認めた。ただし、一審、控訴審ともA社が勝訴(控訴審 福岡高等裁判所判決平成13年1月30日)。控訴審判決によれば、今回の旅行が顧客の信頼、ないし期待に十分に応えるものとは言い難いとしながら、旅行の実施に関して、全てがサウジアラビア政府、また政府機関であるSVの管理下にあり、日本の旅行業者が介入することは困難である。また、当該旅行の目的地、日程、移動手段等について、十分な調査を行うことが困難、かつ旅行サービス提供機関(本件はSV)以外の選択の余地が無かったこと等を考慮。A社の対応は、初めての企画としては止むを得ず、法的に過失があったとまではいかないとの判断である。
結果は旅行業者側の勝訴だが、判例は旅行企画にとって多くの教訓を含んでいる。今回のケースにおいて、旅行サービス提供機関が複数存在し、事前調査が可能である場合、結論は逆になった可能性が強い。すなわち、初めての国や地域にツアーを催行する場合、可能であれば実際に現地調査をするなど、事前調査を尽くさないと旅行業者は法的な責任を問われることを示唆するからだ。この点は、旅行業者は肝に銘じて頂きたい。
またA社は、参加申込者に「諸々の手配は、サウジアラビア航空の全責任の下におこなわれます。現地事情により、入国してからも突然の日程・宿泊地・ホテル等が変更される場合がございます」や、「当該変更に関しては変更補償金の対象外とさせていただきます。特殊な国であることをご理解の上、ご参加ください」などと明記したパンフレットを送付している。このようなパンフレットを事前に送付した事実もA社が判決で勝訴を得た要因の一つだ。
しかし、読者の方々には、上記のパンフレットを送付したにもかかわらず、後に参加者が旅行内容に強い抗議を行った事実に注目して欲しい。つまり、文書だけでは、お客は事情を十分理解しないと言うことだ。この件に関しては、口頭で丁寧に旅行の特殊性を説明していれば、事後の苦情は若干なりとも防ぐことが出来たのではないかと思われる。これに限らず、「トラブル防止の最良の手段は、口頭で必要な説明を尽くす」ということであるということを心がけたい。