スペイン、観光客1億人へ パラドールで日本市場に向けスローツーリズムを提案

ハイメ・アレハンドレ参事官

 スペイン大使館観光部はこのほど、都内で「国営宿泊施設パラドールとスペイン世界遺産都市のプレゼンテーション」を開催した。本イベントは、日本・韓国・台湾を担当するハイメ・アレハンドレ参事官にとって、任期中最後の公式行事となった。

 冒頭のプレゼンでアレハンドレ氏は、スペインの観光実績と日本市場への戦略を紹介。2024年には外国人観光客数が9400万人を記録し、今年には1億人を超える見通しで、同指標においてフランスを抜き世界最多となる可能性もあると述べた。一方で、日本市場については「円安が最大の課題」とし、為替変動により日本人の渡航意欲が抑制されている現状に懸念を示した。さらに、現在の日本とスペインを結ぶ直行便が週3便である点にも言及し、「十分とは言えない」と改善の余地を指摘した。

 それでも、日本人観光客の質的価値は依然として高いと強調。平均宿泊日数は6.54日、一人当たりの消費額は1日439ユーロに上り、主要国と比較しても高い水準を維持しているという。特に20代女性の関心が顕著で、バレアレス諸島への人気が急増していることも明かされた。

 2025年には渡航者数も消費額もコロナ前水準の回復が見込まれており、日本市場への期待は引き続き高い。観光の目的はレジャーが中心で、同行者は夫婦や家族、友人など多様な傾向を示しているという。

 同氏はまた、観光分散と持続可能性を重視した新たなキャンペーン「Think You Know Spain? Think Again.」を紹介。マドリードやバルセロナといった主要都市に加え、歴史や自然資源を有する地方都市への送客を促す意図で展開されており、「知られざるスペイン」の再発見を呼びかけた。

歴史と自然を旅する宿泊体験"パラドール"、高品質で多様な提案

 プレゼン後半では、スペイン国営宿泊施設パラドールの国際セールスマネージャーであるグロリア・ディアス氏、セールスディレクターのフアン・ホセ・ゴンサレス氏が登壇。日本市場に向けて、歴史・文化・自然を活用した宿泊体験と観光ルートの提案を行った。

 計98軒を展開するパラドールは、うち12軒がユネスコ世界遺産都市に立地し、さらに11軒が「スペインで最も美しい村」に指定された地域に存在する。施設の多くは4~5つ星で、地域食材を生かしたレストランを併設。歴史建造物や自然保護区を活用した立地が特徴で、観光と文化資産の融合が宿泊体験の価値を高めている。

 持続可能性にも注力しており、2028年までに5600万ユーロを投資。エネルギー効率の改善を目的とした大規模リノベーションが進行中で、すでに9軒が全面改装、13軒が部分改装を終えている。今年にはイビサ島でバレアレス諸島初となるパラドールが開業予定で、旧要塞を活用した新たな魅力を訴求する。

 ゴンサレス氏は、ルート造成のしやすさと品質の均一性を強調。施設は各地に分布しており、レストランやサービスは統一基準で管理されている。日本市場では特にサンティアゴ・デ・コンポステーラ、トレド、コルドバ、クエンカなどが人気だが、自然豊かなピコス・デ・エウロパ山系やバスク地方のパラドールなど、新しい地域への展開も提案された。

 また、星空観察やゴルフ、スパなどを組み込んだ「五感で楽しむ自然体験」も展開しており、スローツーリズムを志向する日本人旅行者に適した商品造成が可能だとして、旅行会社に向けて積極的な活用を呼びかけた。