伝統と革新の交差点で、松竹が語る「歌舞伎の未来」とインバウンド対応

  • 2025年6月11日
-歌舞伎座における直近の外国人観客比率、ならびに可能な範囲で国籍・性別・年齢層の傾向を教えてください。

長谷川 2024年の通年データでは、外国人観客は平均で約5%。多い月では10%、日によっては20%を超える日もあります。国籍では欧米豪が約7割を占め、特にアメリカとイギリスが多い傾向です。性別では男性がやや多く、年齢層では30代が最も多く、次いで40代、50代、20代と続きます。比較的年配の女性が大多数を占める日本の観客層とは対照的です。

-外国人観光客にとって観やすい演目や上演時間について教えてください。

高橋 踊りの演目が人気ですね。観光の合間を縫ってご来場される方も多いので、1時間前後の上演時間が好まれる傾向があり、最近ですと、4月に上演した『鏡獅子』などは海外のお客様の評判が良かったです。忠臣蔵のような物語は難しいかと思われがちですが、見始めると意外に引き込まれる、という声も多いです。また、事前にあらすじを把握してから観劇している方は、内容への理解度が高く、より楽しめている印象です。難しい言葉や文脈があっても、雰囲気で楽しめるのが歌舞伎の良さだと感じています。

-インバウンド観光客に向けたチケット施策や、プロジェクトチームによる取り組みについて教えてください。

高橋 昨年の1月から2階席の一部を改装して設けた「インバウンド向け一幕見席」という新たな座席を導入しました。

 この席は通常の一幕見席の4〜5倍の価格ですが、快適な環境で、短い時間でも舞台に近く迫力のある席で鑑賞できるため、非常に好評です。訪日外国人のお客様にも快適に観劇いただけるよう、通常の一幕見席より広くてより舞台に近く見やすい座席を使用しています。公演前日の正午からオンライン販売され、今後は団体向けの販売も計画しています。旅行会社の方にもぜひ知っていただきたい施策です。

因藤 この幕見席のアイデアは、社内の若手スタッフを中心としたインバウンド推進のプロジェクトチームが、訪日観光客のニーズに応えるために考案し、実際に運用したものです。インバウンドのお客様の限られた滞在時間の中での歌舞伎鑑劇を快適な環境で楽しるよう配慮した新たな施策となりました。

高橋 プロジェクトチームには、私のように社歴の決して長くない若手スタッフも多く参加しています。「若手でも意見を出せる場がある」ことが非常に励みになりましたし、実際にインバウンドの販売をしている担当の声をしっかり取り入れてもらえたのがとても嬉しかったです。

長谷川 もちろん、幕見席だけではなく通し券も販売は注力しており、高橋の方で在庫管理を行い、しっかり売り上げも伸びています。