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日本交通公社、SDGsを軸に「地域社会と調和する観光」を考察~第32回旅行動向シンポジウムから~

観光客にも責任ある行動を求めるハワイ

ヴァーレイ氏

 レスポンシブルツーリズムあるいはリジェネラティブツーリズム(再生型観光)をスローガンに掲げ、サステナブルな観光への取り組みを急速に強化しているハワイからは、ハワイ州観光局のミツエ・ヴァーレイ日本支局長が参加した。ハワイではコロナ禍により観光客の来訪が途絶えたことが、観光客の受け入れについて現地で再考するきっかけとなり、観光客にも責任ある行動を求め、地域の持続的発展と住民生活の快適さを維持することを重視したレスポンシブルツーリズムへの期待が高まっていった。

 さらに観光客が途絶えたことで自然環境の回復も進み、リジェネラティブツーリズムという発想が生まれ、「観光局も『ハワイを思いやる心』という意味の“マラマハワイ”というスローガンを掲げて、ハワイの伝統文化や自然環境を守るための活動を強化することにつながった」(ヴァーレイ日本支局長)と説明した。ただしマラマハワイは一朝一夕には成し遂げられない取り組みであり「短期、長期に分けて、それぞれどのような取り組みをしていくのか、観光産業のステークホルダーと協議している段階」(同)とも報告。またハワイで提起されたマラマハワイの考え方を日本市場に浸透させるためのジャパナイズも必要で時間がかかる。このためヴァーレイ日本支局長は「教育旅行のプログラムに組み込んで浸透させることも必要だし、観光局としてはメッセージングを強化して少しずつ旅行者のセンチメントを変えていくことが必要だと考えている」としている。

実践者を評価し訪問者の共感につなげる沖縄

 最後に沖縄におけるサステナブルとレスポンシブルな取り組み事例について中島室長が紹介した。日本交通公社では20年4月に沖縄事務所(おきなわサステナラボ)を開設し、沖縄観光の持続可能な発展の支援に取り組んでいる。沖縄では「ちむぐくる(肝心=人の心に宿る深い思い)」が感じられる取り組み事例がある。

 12年からすでにスタートしている「くるちの杜100年プロジェクト」は、輸入に頼ることが多くなった三線の素材、くるち(黒木)を植樹し100年後に沖縄の素材による三線を復活しようというもので、ガンガラーの谷では3万年続く森を3万年後の人類に残すプロジェクトも進んでいる。また県産材をふんだん利用したホテル「百名伽藍」ではホテルが歴史本の発行にまで乗り出している。さらにこれらの取り組みを紹介する「おきなわ観光グリーンガイド」も官民連携で12年に制作されている。

 こうした事例に係るなかで得た経験値を踏まえ中島室長は「地域全体で実践者の思いを支えて広げる必要がある。沖縄には『一人(ぴとぅる)引(ぴ)き、群引(むるぴ)き』、1人が立ち上がれば、みんなも立ち上がるという言葉があるが、実践者を評価することで全体を引き上げられる。まずは内部の良い事例を取り上げて訪問者の共感につなげていく姿勢が求められる」と今後のレスポンシブルツーリズムの推進手法にも言及した。