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【リクエストインタビューvol.3】ホテル業界のデータ可視化と活用に新発想で切り込む-OTAインサイト 矢崎達則氏

  • 2022年10月20日

人間の“脳力”を最大化するためのデータインテリジェンス

-実際にAIと人間の頭脳と、どちらが結果を出せるのか検証した結果はあるのでしょうか。

矢崎 両者を直接比較した資料があるとは聞いていませんが、私自身が個人的な関心事としてホテルに尋ねてみたことはあります。いずれも何らかのRMSを使用している会社で、なおかつ優秀なレベニューマネージャーがいる会社です。

 A社は同じ都市にある4施設のうち、2施設をRMSに任せ、2施設はレベニューマネージャーがコントロールする実験を行ったそうです。RMS任せの2施設ではAIが安い料金を出す傾向が顕著で料金が徐々に下降してしまい、本来売りたい価格帯の3分の2程度まで落ちてしまったそうです。実験は2ヶ月もせず打ち切られたとのことです。

 B社は3.5星から4つ星ホテルを全国展開する会社ですが、そこのレベニューマネージャーに、RMSが指示する通りの料金を使うケースがどれくらいあるのか尋ねたところ「5%もない」との答えでした。彼に言わせれば、何より問題なのは「なぜその値段で売るか」を誰も説明できないということだと指摘しました。まさかオーナーに対して「AIがそう言ったので」とは言えませんからね。

 それでも私はRMSというテクノロジー自体は素晴らしいもので、特に日本のホテルはもっと触れていくべきだと考えています。あるグローバルチェーンはRMSのメリットを、人間より良い仕事をするというわけではないが「料金の上げ下げに付随する作業負担を大幅に軽減できることだ」と説明しています。システムにある程度のロジックと条件を教え込めば料金の上げ下げをある程度自動化でき、人間の手を煩わせなくて済みます。もう1つのメリットはRMSが立てる予測とレベニューマネージャーが自分で立てる予測を突き合わせ、ギャップが大きければその理由を追究し、理由が分かれば対応することができる点です。言わばバックアップのシステムとしての活用です。こうした使い方によって、1人のレベニューマネージャーが無理なく多くのホテルを管理できるようになればRMSの導入価値が得られます。つまり人間の良きアシスタントとしてその技術を最大限活用することで、限られた人的リソースを最適化しているということです。

-インタビューの推薦者の方からは、ホテリエからOTAやITソリューション会社へ転身した矢崎さんの、キャリア選びの考え方や転職についてのアドバイスを聞きたいとリクエストが届いています。

矢崎 心掛けてきたのは、転職がギャンブルにならないようにすることです。その転職が自分にとって良い結果を生む確率をなるべく高いものにすることが重要です。私は検討する転職先については事前にできる限り調べ上げます。ホームページは隅から隅まで読みますし、プレスリリースにも全部目を通します。また丸1日かけてその会社について検索し尽くし、市場からの見られ方や評判などまで、あらゆる情報にアクセスします。そうすると公開情報だけでもその会社について75%くらいは分かりますし、会社が社員に何を求めているのかもわかります。

-読者にメッセージをお願いいたします。

矢崎 現在は大企業に就職して一生安泰という時代ではありません。所属する会社が世の中にとって必要なくなれば自分も身一つで放り出されるわけで、20年先、30年先も自分の会社が必要とされ続けるとは限りません。そういう意味で私は会社に守ってもらえなくても身一つで家族を守っていけることを念頭に現在のキャリアを踏み出しました。

 時代が激しく変化するなかで、進化論のダーウィンが残した「強い者、賢いものが生き残るのではない。変化する者が生き残るのだ」や「優れるな、異なれ」という言葉が心に響きます。変わることを恐れるのではなく、むしろ自ら変化に向かう姿勢で日々の仕事に取り組むことが大事なのだと思います。 

-ありがとうございました。