【リクエストインタビューvol.3】ホテル業界のデータ可視化と活用に新発想で切り込む-OTAインサイト 矢崎達則氏

  • 2022年10月20日

人間の“脳力”を最大化するためのデータインテリジェンス

-具体的にはどのようなサービス、ソリューションを提供しているのですか。

矢崎 4つのソリューションを提供しています。1つ目はレートインサイト。これはホテルのための競合料金調査ツールに、イベントカレンダー、パリティチェッカー、口コミとランキングモニターなどが組み込まれています。2つ目はマーケットインサイト。これはホテル業界が活用し切れていなかった分野のデータを有効活用するものです。これまで市場の宿泊予約行動の予測は、過去の宿泊予約データから読み取れる傾向と、未来の滞在日に対する宿泊予約の入り方を、カンと経験則に基づいて分析して行うものでした。しかし、このやり方はパンデミックで全部破壊され、過去のデータが使い物にならなくなりました。市場環境は今後も大きく変わっていくと考えられ、ますます旧来の手法が通じなくなります。

 それを補完するのがマーケットインサイトで、予約発生前のリアルタイムのユーザーの検索動向を集めて可視化し、これから発生するユーザーの予約の動きを事前に捉え、それに対して予約発生前にアクションするものです。アマゾンなどのEコマース分野では当たり前のロジックですが、この手法を未導入だった旅行や宿泊業界向けに提供するために開発したのがマーケットインサイトです。

 3つ目はレベニューインサイト。現在は顧客管理システム、いわゆるPMSの中にあるデータを可視化して毎日の数字をチェックしているホテルが少なくありませんが、そもそもPMSはチェックインシステムとして開発されているもので、データ分析システムではありません。したがって、レベニュー管理のシステムとして応用するため、PMSのデータをエクセル等にエクスポートして手動で二次加工、三次加工して可視化し、これを社内会議等の資料としているわけです。テクノロジーを活用することで、このプロセスは既に人間がやる必要がなくなっています。ですからレベニューインサイトは、レポーティングまでを自動化し、人間の能力は分析とアクションに専念させるという発想で開発されています。

 ですからダイナミックプライシングのように、AIがレベニューマネジメントを担ういわゆるレベニューマネジメントシステム(RMS)と、OTAインサイトのレベニューインサイト(Business Intelligence)は似て非なるものです。レベニューインサイトの頭脳となる部分はAIではなく、あくまでもレベニューマネージャーという人間の脳が担います。

 4つ目はパリティインサイト。これはチェーンホテルの本部向けのソリューションで、「自社ホームページが最安値であることが最善である」というロジックに基づいています。自社ホームページ vs OTA vs メタサーチの料金を常時モニタリングして、会社としてのパリティが整っているか否かをチェックします。自社ホームページの料金より安いレートが外部に流出して売られていないかを数値化して管理できるソリューションです。導入すれば本社がチェーン全体の管理をしつつ、問題があれば具体的に料金データを示して現場に指示できます。ハイアットでは全世界の傘下ホテルのパリティ管理に使用しています。

-ホテル業界には判断や分析もAI任せでいいとの考えも見られます。レベニューインサイトであえて人間の分析力を重視する狙いは。

矢崎 実は私もOTAインサイトのCEOに同じ質問をぶつけてみました。これだけ世界中の膨大なデータがあるのだから、このデータを餌としてAIに食べさせれば世界最強のレベニューマネジメントシステムができ上がるのではないかと思ったからです。それに対する答えは明快でした。CEOいわく、AI技術をレベニューマネジメントに活用すること自体は賛成であると同時に、誤った使い方をしないように慎重に線引きをしているとのことでした。

 理由は、AIがチェスや将棋で人間を凌駕する力を発揮できるのは、勝ち負けが明確に結果として存在し、なおかつ各駒がルールに則って動きルール外の動きはしない約束で成立しているゲームだからであって、ホテルの予約はそういうわけにはいかないからです。

 人間がなぜ旅行に行きたいと思い立ち、なぜそのホテルに泊まりたいと考えるのかを推測するのは極めて困難です。意思決定は気候や価格やイベントといった要素だけでなく、まだ分かっていない脳内の領域が影響している可能性さえあります。だから21世紀のいま見通せる技術段階レベルでは、レベニューマネジメントを託す相手として、AIより人間の脳の方が優れているとCEOは説明しました。「だから我々はむしろ、人間の脳をサポートするツールを作っていく」のだと。

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