満足度より幸福度へ、従業員を幸せにするホテルを目指して-カフー リゾート フチャク コンド・ホテル総支配人 荒井達也氏

  • 2022年9月9日

総支配人の仕事は「辞めない仕組み」を作ること
行政へ出口戦略を提案できる観光組織を

-稼働率と平均単価の現在の状況をお聞かせください。
ホテル外観

荒井 8月に関しては、7月半ば頃までは、ブッキングペース以外は稼働率・ADRともコロナ前に近い動きで、さらに9月以降も順調でした。レンタカー不足の影響もあり、一部でキャンセルも出ていましたが、7月半ばから8月末まで自社で無料の空港送迎バスを1日2往復運行し、大きくキャンセルを防げたと思っています。

 7月半ば以降については沖縄県内の感染拡大と同時にキャンセルが発生しましたが、予約の主流であるOTAの間際でのキャンセルも多く、感染拡大の影響なのかは不明です。沖縄では2、3日前にキャンセルになっても再販は難しいので、並行して積み上げていくしかありません。これは大きな課題だと思っています。

-国内旅行・訪日旅行の需要は今後どのように推移すると想定されていますか。

荒井 11月以降は雲行きが怪しい状態です。沖縄では10月までは海やプールも入れますが、そこからは段々とオフシーズンになるので、旅行支援に期待するところですね。何も支援がなければ19年比で7割くらい、支援が始まってくれれば少なくとも19年レベルまでもっていきたいですね。

 1月・2月の沖縄は、元々インバウンドの旧正月の需要が多いため、水際対策は緩和されつつあるものの、まだ分からない状況です。グローバルOTAの方のお話では、実際に来るかはさておき、台湾では沖縄の予約自体は増えてきているそうで、それはプラス要因ですが、訪日需要がないと沖縄の冬は本当に厳しい。スポーツキャンプやイベントは少なくなっていますが、ゴルフ場などともタイアップし、避寒地沖縄として改めて施策を打っていく必要があります。一方で、国内旅行に関しては、今夏は諦めた人が多いので、春休み以降にまたリベンジ需要が来ることを期待しています。

-今後の観光需要の回復に向け、人材確保が課題になってくると思われますが、どのような対策をお考えでしょうか。

荒井 人材不足はコロナ以前より最重要課題でしたが、さらに危機感を持って対応すべき課題と認識しています。人数が足りていても、教育・トレーニングが足りていない状態が起こり得ます。例えば以前なら、写真を撮ろうとしているご家族がいたら、「撮ります」とお声がけしていたものが、この2年それができない状況が続きました。こうしたOJT、経験ができず、そもそもこの仕事の楽しさや社会的価値をあまり感じていなければ、どうしても仕事が「作業」になってしまうでしょう。ホテルで働くという誇りやエンゲージメントが薄れて違う業種に移ってしまうことは避けなければなりません。

 人材面では、当ホテルには国際人事部があります。日本人の人材はインターナショナルブランド志向が強かったので、我々はドメスティックブランドということもあり昔から人材確保は課題で、外国人も積極的に採用してきました。現在17ヶ国51人の外国人スタッフがいますが、大半は裏方ではありません。マネージャーもいますし、今のレストランのトップは韓国人のスタッフです。リクラボの久保社長も仰っていましたが、人材確保能力は非常に重要だと思っています。

 総支配人として今私がやるべきことは、スタッフが辞めない仕組みや理由を作っていくことだと思っています。以前は、460人ほどいたスタッフ全員に手書きの誕生日カードを渡したり、「あなたが必要なんですよ」と伝える1on1も実施していました。前職では「CHO(Chief Happiness Officer)」を務めていたのですが、そこでは従業員の満足度(ES)ではなく幸福度(EH)が重要だと学びました。かつて多くのホテルや企業は、社員を不幸にすることで競争に勝ってきたと思います。ですがそれは長続きするものではありません。特に今の世代の人たちには全く響かず、辞めてしまいます。でも従業員が定着してくれれば、採用コストも抑えられるし、教育も積み重ねられる。従業員も熟成してファンも付いてくる。一石三鳥、四鳥になっていくわけです。

 ではどうすればスタッフに幸せを感じてもらえるか。給与やタイトルなどの地位財は、長続きしない幸せです。ほかの会社からより良い給与を提示されたらそちらが幸せになり、キリがありません。非地位財の部分、例えば健康、ライフワーク、沖縄に住むことなど、1人1人の幸せが何かを知り、それに寄り添って歩んでいくことが一番重要だと思っています。これからは、従業員を大切にし幸せにするホテルだけが残っていくのではないでしょうか。

 本当に幸せな人が心からの笑顔で言った「ありがとう」や「いらっしゃいませ」と、幸せでない人の言葉には、とても大きな差があります。特にリゾートである沖縄ではそれが本質であり重要だと感じます。このホテルを好きになってもらい、この業界を好きになってもらい、ここで働くことが誇りになる。そんな人づくりを本気で行っていきたいと思っています。

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