「観光は社会の健全性の維持に欠かせない産業」新聞広告に込めた自負-岩崎産業代表取締役社長 岩崎芳太郎氏

乗り合いバスから防災ヘリまで、鹿児島の観光と交通を支える
生産性や効率性だけでは測れない観光産業の価値を信じて

-オーナー企業の良さを一言でいうと何ですか。

岩崎 人間の自然な営みとして、先祖代々子々孫々という考え方は絶対に失ってはいけない価値観です。仕事に励む原点は子や孫の世代のためであり、その裏付けとなるものを親やその前の世代から引き継いでいるわけです。だからこそ将来に対する真摯な責任感が生まれます。事業や経営資源が家業として継承されていくことが大切で、そういう家業的継承への責任感や誇りが重要なわけです。小泉改革と称する改悪の結果としてある現在の日本の状況を見れば、資本の論理だけを振りかざす経営にはない、家業的経営が持つ価値と重要性も自ずと分かるはずです。

 現実の社会において大切なのは、自分がいて家族がいてコミュニティがあり地域があることで、最終的には国家があり、地球がありますが、家族や地域がなければ国家も地球もない。ですからグローバリズムなんて私に言わせれば滑稽に思えるし、地域も守れないでSDGsなどと浮かれる姿勢には愚かさすら感じます。

-会社を上場しないことも、そういった価値観が理由ですか。

岩崎 経営的に言えば上場するメリットはありません。祖父は「うちの会社は配当する必要がないから、利益を出したら地域やコミュニティに再投資するのだ」と言っていました。サラリーマン社長が任期中に配当を上げるため会社の未来を食いつぶすような経営を行ってしまうこともあります。小泉改革以降は、構造改革、新自由主義といった美名のもとに、むしろそんな経営がもてはやされ、我々のような地方の中堅企業がどんどん潰されていきました。

-コロナ禍の事業への影響は。

岩崎 我々が被った影響は極めて大きいです。影響の少ない石油燃料関係が支えてくれた面があり、資産を売ったりもしましたから、決算的にはもう少し良いバランスシートになっていますけれど、観光・交通分野の痛手は相当なものです。キャッシュフローベースで30億円ほどのマイナスです。

 雇用調整一時金はありましたが、持続化給付金は200万円。ゴルフ場2つ、ホテル1軒、空港や高速道路に飲食店を経営していてそれです。緊急事態宣言時の地元自治体からの支援も東京は200万円で鹿児島は20万円。かき集めても大した額にはなりません。

-『理不尽、観光産業を殺すのは誰か』を上梓され、10月には産経新聞に広告を出して地方の観光産業の危機を訴えたのも、そうした問題意識からですか。

岩崎 コロナ禍がここまで長引くとは考えませんでしたし、国や自治体がここまで無策とも思わず、最終的には状況を見極めつつ有効な手立て、政策が打ち出されるものと期待していました。ところが、いつまでたっても政策は後手に回り状況は悪化するばかり。県境を越える移動をするなといった憲法違反の御達しまで出される始末です。霞が関も知恵がなく20ヶ月以上も無策状態です。

 観光産業側もGoToトラベルをせっつくばかり。10年間続けてくれるならともかく、GoToは首都圏が得をし富裕層が喜ぶ受益の仕組みです。需要喚起するからそこで損失を取り戻せという発想自体も筋違いで、必要なのは真水の支援です。

 また今後、GoToトラベルが再開されて需要が増えても現在の従業員だけでは対応し切れません。霞が関の官僚も永田町の政治家もマスコミも分かっていない。例えば宿泊施設ではバイキングは止めています。これまでもバイキングなしではピーク時の需要に対応できませんでしたから、需要が戻ってもバイキングがなければ現実的にはフル稼働できません。仮にフル稼働してスタッフに負担を強いれば今度は労働基準局が黙っていませんから。

 観光産業の企業に対しては金融機関も冷たい対応です。バランスシートを見せろと迫り、内容が悪ければ潰しにかかります。銀行は「金融庁に言われているから、そんなことはしません」と言っても口先だけのことです。もちろん需要が減っているわけで、本来、淘汰されてしかるべき企業が生き残るのは良くないでしょう。経営の観点からはその側面があることも理解しますが、一方で政治家は票を気にして、とにかく全部を助けるとなってしまう。

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