itt TOKYO2024

「観光は社会の健全性の維持に欠かせない産業」新聞広告に込めた自負-岩崎産業代表取締役社長 岩崎芳太郎氏

乗り合いバスから防災ヘリまで、鹿児島の観光と交通を支える
生産性や効率性だけでは測れない観光産業の価値を信じて

 いわさきグループは鹿児島の観光・交通を支えている。その総帥である岩崎芳太郎氏は、新自由主義により地方の観光・交通事業者が窮地に追いやられ、今回のコロナ禍でも大きな痛手を被っていると現状を憂う。しかし、逆境に屈伏することなく霞が関町や永田町に対しても著作や新聞広告を通して忌憚なく持論をぶつけている。その根底には観光は社会の健全性を維持するために不可欠な産業であるという凄まじい自負がある。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

いわさきグループCEOの岩崎芳太郎氏

-岩崎産業といわさきグループの概要をご説明ください。

岩崎芳太郎氏(以下敬称略) いわさきグループは現在約30社で構成しており、従業員数は契約社員を含めて約2500人です。売上高的にはガソリンスタンド経営を含む石油燃料関連も大きいのですが、会社の中核事業は観光・交通事業だと考えていますし、世間的な認識も同様だと思います。陸上での観光・交通事業は、乗り合いバスや空港リムジンといった鹿児島県における公共交通事業などを行っています。また鹿児島と宮崎、熊本ではレンタカー大手のフランチャイジーとしての事業も手掛けています。海では大隅・薩摩の両半島を結ぶ垂水フェリーと、種子島や屋久島への高速船「ジェットフォイル」の運航、種子島への在来船フェリー事業も行っています。空ではドクターヘリや自治体の防災ヘリの運航・整備も行っています。

 観光事業は指宿と種子島にホテルとゴルフ場があり、屋久島にホテルを持っています。現在は耐震工事で閉館中ですが霧島にもホテルがあります。現在3ヶ所でリゾートを展開しています。このほか食品加工事業や高速道路のサービスエリアや空港の飲食事業も行っています。

-岩崎社長の自己紹介をお願いします。

岩崎 東京の大学を卒業して三井物産に入社し、商社マンとしてニューヨーク駐在なども3年半ほど経験しました。約8年勤務した後に鹿児島に戻り家業である岩崎産業に入りました。

-「変わったやつこそ人材だ」と採用サイトでも説明されています。「変わったやつ」の定義とは。

岩崎 今の時代は他と違わないことを求めます。そうでないといじめられたり、偏差値教育ではじかれたりする。それに対する反語的な意味も込めて「変わったやつ」と言っています。人の個性はみな違う。才能に恵まれた者もいるし、そうでない者もいる。そもそも才能とは何かと考えれば、社会生活に都合のいい話につながっていて、その才に長けていなければ才能がないとされる。しかし才能がないことも才能かもしれないですよ。秀才が何の役にも立たないのが現在の社会です。秀才より奇才や異才が求められています。

 あるいは鈍才でも凡才でもいい。皆が社会の中の役割を担っているのです。語弊を恐れずに言えば、へたに才能があると自認する者は単純作業ができません。しかし人間社会には黙々と同じことをこなす者がいなくてはなりません。詭弁に聞こえるかもしれませんが、鈍才と言われた者が実は単純作業を徹底的にできる才能の持ち主だという見方だってできるはずです。

-岩崎社長は家業を継いだわけですが、次世代への事業継承についてはどのように考えていますか。

岩崎 私は高校3年生のときに父親から「お前は3代目だが別に家業を継ぐ義務はない。社員が6000人(当時)いて家族を含めて1万8000人の生活を背負っている。お前が会社を潰せば皆が路頭に迷う。その責任を負う意識があるなら継げ」と言われました。息子たちにも同じことを言って、それで彼らも入社しているわけで、途中で気が変わっていない限り継いでくれることになるでしょう。

次ページ >>> 地方の中堅企業への危機感