地域に人が訪れる「理由」を作る-日本航空 執行役員 地域事業本部長 本田俊介氏

日本全国に出向するグループ社員を統括
自治体目線で得られる気づきを大切に

-コロナ前にはオーバーツーリズムも起きていましたが、今後は観光促進をどのように実現していこうと考えていますか。

本田 大きなポイントは、サステナブルでなければならないということだと理解しています。今年7月に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」がユネスコ世界自然遺産に登録されました。例えば世界自然遺産登録地でオーバーツーリズムを防ぐためには、SDGsツアーなど、環境保全を体験する目的で誘客を図っていく必要があります。

 その一例として、JALでは現在、奄美大島において「ビレッジプロジェクト」というプロジェクトを進めようとしています。これは農村を宿泊施設に変え、そこに観光客の方に来ていただく取り組みです。もちろん単に空き農家に宿泊していただくのではなく、一定の基準で観光客の方にもお泊りいただきやすい施設に作り替えます。これはイタリアの「アルベルゴ・ディフーゾ」というスタイルを参考にしたもので、今まで観光客が訪れなかった場所に興味を持っていただき、例えばそこで環境保全活動を行うなど、誘客とSDGs活動、誘客と環境保全をセットで進めることができる取り組みと考えています。

千葉県山武市での稲刈りの様子

 また現在、JALとして「農泊」も推進しています。「ビレッジプロジェクト」と同様に、これまで観光客が訪れることが少なかった農村へ人が訪れることが、農家の収入の一部にもなり、関係人口の創出にも繋がります。「食」への興味や関心が高まっているいま、実際に食材が生まれる場所を訪れ、人と人との繋がりができることで旅行後にもその地域に思いを馳せることになり、永続的な人や物の流動が生まれます。

 このように、これまでの「観る」だけの観光ではなく、今まで観光客が訪れなかった場所に誘客し、自然保護活動や「人と人との繋がり」を生み出すといった部分に力を入れながら、新しい人流を作っていきたいと考えています。

-農泊について、実際に取り組んでいる事例はありますか。

本田 岩手県の遠野市で「農業留学」という取り組みを始めています。農林水産省の公募事業でもあり、20名ほどを募って、当社の社員も一緒になって農業体験をし、地域の方とともに課題を話し合うワークショップを行うというものです。今後5回ほど実証実験を行い、その結果を踏まえてプログラムを作成して、来年度から本格的に開始する予定です。

 また、農業留学の学生版として「青空留学」という取り組みも行っています。コロナ禍で大学の授業も在宅メインとなり、国内外に行くこともできない状態ですが、学生の間に社会経験をしたいという要望は根強くあります。そうした学生たちに「青空留学」を通じて農家を訪れ、日本の食を支える農業の実態を見て体験することで、視野を広げる機会としてもらいたいと考えています。

-旅行会社から地域の素材を生かした企画造成をしたいなどの希望があれば、協業の可能性はありますか。

本田 もちろんです。新しい人の動きを意識しながら全員で取り組んでいかなければ、地域創生やサステナブルな観光は実現できません。地域を活性化させたいという思いで社員は出向していますので、是非お声がけいただきたいと思います。

-読者へメッセージをお願いいたします。

本田 今は本当に大変な時期だと思います。ですが、明らかに社会ではゲームチェンジが起き、人々は新しい働き方、生活の仕方、観光の仕方を考え始めています。世の流れを先取りしながら、新しい仕組みを提供していくという発想が必要なのだと考えています。この状況をともに乗り切り、新しい「永続的な流動」の創出に是非力を貸していただきたいと思います。

-ありがとうございました。