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あなたの会社の人員整理、取り返しつきますか? ー 20代社員が振り返る今週のニュース

 この書き方は失礼かもしれませんが、私の予想を大きく裏切って前田産業ホテルズ石井氏へのインタビュー記事が圧倒的人気でした。どのくらい人気かというと、今週の他日のトップ記事に対してダブルスコアとなるほどのPVを叩き出しています。これはJTBやHISの決算会見記事なんかも超えるほど凄まじいPVです。

 人気が出た理由は色々な要因があるでしょうが、やはりタイトルに惹かれた方が多いのでしょう。「お客様は戻っても辞めたスタッフは戻らない」この言葉にハッとした方もいるでしょうし、耳が痛い経営者の方も、そうだそうだと言いたい従業員の方もいらっしゃるでしょう。石井氏は「需要が回復して忙しくなっても急には体制を拡充できません。」とおっしゃられています。コメントで書かれている方もいらっしゃいますが、契約社員や派遣社員の方もそれ以外の方も、この1年間もの凄い勢いで退職されていきました。他社の方々がどういった経緯で辞められたのかまで私にはわかりませんが、望んで辞められた方ばかりではないでしょう。そして、辞められた方々のほとんどは、おそらくこの業界には戻ってこないと思います。別業界ですでに就職されていたのなら、わざわざ短いタームで転職を繰り返す人は少数派でしょうし、観光産業自体が成長性を大きく期待できるようなことにならない限り戻ってくる理由がありません。

 そして問題はコロナ後です。辞めた方々のマンパワーはすぐに補充できません。頭数だけは揃えられるかもしれませんが、失われた知見や経験は長い時間を経て再獲得するしかありません。もしかしたら二度と再獲得できないかもしれません。それで果たして、コロナ後の需要に対応できるのか。この点はきっと、未来の観光産業内の競争に大きく関わってくるでしょうね。

 少し話が逸れますが、この1年で耳にタコができるくらい色々なところで聞いたのが「人手が減った分ITに力を入れて業務を効率化し、DXを推進していく」みたいなことを経営者の方が言い始めて急遽ITの担当になりました、みたいな話です。これを話されてる担当者の方の9割以上はうまくいかずに苦しまれていますね。別に観光産業に限った話ではありませんが。人員は3割減らしたが1.5倍効率化すれば問題ない、とか言う方にぜひとも「その1.5倍って数値はどこから出てきたんですか?」とお聞きしたい。人員整理はリアルな数字なのに効率化のところだけ精査されていない思いつきの数値で計算してたら、それはもう経営ではなくてギャンブルですよね? そんなざっくりとした計算をベースに人員整理をしていたら、それはもしかしたら痛みを伴うどころか取り返しのつかない重症かもしれませんよ?まあ何が言いたいかと言うと、人員が減った分をITによる効率化で簡単にカバーできると思ったら間違いですよってことです。本来IT化なんて社内リソースをしっかりかけて進めていくものなんですから。

 あともう1つ、耳の痛い話がありましたね。息子さんに観光業界を勧めたら「給料が報われない」と関心を示されなかったという部分です。この部分なんかは私達の年代だと同感の方がすごく多いのではないでしょうか。以前もこのコーナーで触れましたがこの業界はもう新卒マーケットから見向きもされないのかもしれない、という可能性を念頭に置かれている経営者の方がどこまでいらっしゃるのでしょうか。

 結局、この問題は観光産業の多くがお客様に納得いただけるほどの高付加価値商品を販売できないため、値段勝負のみになっているという根本的な業界の問題にいきつくのでしょう。高い利益がでる追加価値を提供するような商材がなければ、企業はマイケル・ポーターの言う「コストリーダーシップ戦略」を取るしかないわけです。そして多くの企業がコスト削減に注力させると、結果として人員に対してのコストを下げるしかなくなり、結果優秀な人員はなかなか育たず、育っても出ていってしまい、新たに外部から雇うにはコストが見合わない、新しい高付加価値商品を考えられるような人員がいないとまたコスト勝負になる。こうなってしまったら見事に負のスパイラルですよね。
 こういう状況を正すためには、石井氏のおっしゃるとおり行政の力も当然必要になると思います。ここまで大きな産業だと、個々の自助努力だけで産業全体が変わるというのはなかなか厳しい。コロナによるダメージ後だとより一層ですよね。

 石井氏のインタビュー記事を読んでると、思わずそうだ! と言いたくなるところがあまりに多く、書いている間に勢いが付きすぎてこんな長さになってしまいました。本当はIT化のところとかもっと書きたいこともあるのですが(すぐDXとかいう人は大体DXの意味もわかってない、とか)どんどんこのコラムの趣旨から外れそうなので、今日はこんなところにしておきます。