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「銀行はこう使え!」-メガバンク元営業担当が本気のアドバイス vol.5

銀行審査の裏側
融資の可否を分ける5大要素とは

運転資金=販管費は大間違い!

 銀行の定義する「運転資金」は、人件費や宣伝広告費、研究開発費などの「販売費及び一般管理費」が対象にならないことをご存じでしょうか?「人件費などの支払いで運転資金がいるからお金を借りたい」といったご相談を受けることがありましたが、この内容で運転資金の融資審査が通ることはまずありません。運転資金をベースとして、銀行がどのように考えているか見ていきましょう。

 まず、銀行において運転資金は以下のように算出されます。

  「運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務」

要するに、「商品を仕入れてから販売代金を回収するまでの立替資金」を運転資金と呼ぶのです。販管費が「損益計算書(P/L)」項目であるのに対し、銀行は運転資金を「貸借対照表(B/S)」で捉えているので、この認識の差異は非常に大きいですね。

 銀行がP/L項目に対し融資することはまずありません。その理由は前項で説明した融資検討の5大要素が関係します。銀行の融資審査は、「融資した資金が何に使われ、その結果何を生み出し、生み出されたもので返済できるか」を前提として検証しています。人件費や研究開発費などの費用は資金使途こそ明確であるものの、その結果生まれる成果物や成果物の換価性までは検証することができません。確かな「モノ」がないばかりか、お金を生み出すかどうかも不確定なものに対し融資することはできないのです。

 一方B/Sに目を向けると、いかに論理的に返済可能性を検証できるかが分かると思います。以下の図は、運転資金借入を例として、借入後に商品を仕入れて販売し返済するまでのB/Sの流れを示したものです。

(1) 借入時

借方貸方
預金100買掛金
売掛金借入金100
商品利益
100100

(2) 商品仕入

借方貸方
預金100買掛金100
売掛金借入金100
商品100利益
200200

(3) 商品販売

借方貸方
預金100買掛金100
売掛金120借入金100
商品0利益20
220220

(4) 仕入代金支払

借方貸方
預金0買掛金0
売掛金120借入金100
商品利益20
120120

(5) 売上代金回収

借方貸方
預金120買掛金0
売掛金0借入金100
商品利益20
120120

(6) 借入金返済

借方貸方
預金20買掛金0
売掛金0借入金0
商品利益20
2020

 融資案件を考えるうえで大切なのが、「貸方の借入金が借方の資産の何に見合うか」です。(1)では「借入金100円」が「預金100円」に見合っている状態です。この100円を元手にした(2)の商品仕入れにより、借入金は「商品100円」に見合うことになります。(3)で商品が販売され、その際の利益を乗せた「売掛金120円」が借入金に見合います。(4)において「買掛金100円」が支払われ、一見すると手元に現金が無くなりますが、融資は将来回収される「売掛金120円」を原資として返済するので何ら問題ありません。(5)で売上代金を回収したことにより「預金120円」となり、(6)において「借入金100円」を無事返済できました。

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