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「今こそ自社の強みに投資を」
エクスペディアホールディングス代表取締役 マイケル・ダイクス氏-新春インタビュー

将来の差別化につながる投資を惜しまず
Go To トラベルへの評価も

ダイクス氏。インタビューはオンラインで実施した  日本を重要市場と位置付け、積極的に投資を続けてきたエクスペディアグループ。OTAとして20年以上に渡って蓄積したデータと技術力を活かし、日本国内の宿泊施設の在庫を拡大してきたが、2020年は新型コロナウイルス感染症による大打撃を受け、対応に追われる一年となった。しかしエクスペディアグループは、あらゆるコストを削りつつも、将来へ向けた投資は惜しまず続けている。業界内での人間関係も重視するエクスペディアホールディングス代表取締役のマイケル・ダイクス氏に、今後の戦略や観光需要回復への見通しを聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

-2020年は新型コロナウイルスにより観光産業全体がこれまでに経験したことのない状況に置かれました。未曽有の危機へどのように対応されたか、またその対応への自己評価をお聞かせください

マイケル・ダイクス氏(以下敬称略) 3つのフェーズに分けられると思う。まず1月末から4月にかけてはとにかく危機対応。当時はキャンセルの嵐にどう対応するかが先決だった。ピーク時の10週間には全世界で2200万件の問い合わせがあった。コールセンターはパンクし、お客様を随分と長くお待たせするなど、ご迷惑をおかけした。

 エクスペディアグループでは2週間でパートナー宿泊施設側から予約をキャンセルできる仕組みを作り、全世界に展開した。これまではコールセンターに連絡をもらいキャンセルするという段取りで、宿泊施設からは無断でキャンセルできなかったが、仕組みを変えることで宿泊施設がお客様からの問い合わせに対応できるようになった。

 第2フェーズは5月から6月。お客様に安心していただけるような旅行を提供することと、苦しんでいる中小の宿泊施設のサポートもしようという意図で、「衛生管理」という仕組みを展開した。これまでは宿泊施設を選ぶ優先順位は価格が一番だったが、今はそれより重要なのは衛生管理だということが調査結果で分かった。そこで全世界のパートナー宿泊施設の衛生管理面でどのような取り組みをしているかを入力してもらうようにしたところ、日本は8割が情報を登録してくれた。これは世界でも最も高い数字だ。

 加えて、中小のパートナー宿泊施設への支援として一定期間手数料を10%下げたり、前年の該当宿泊施設からの売り上げの25%をマーケティング費用として還元し、宿泊施設自らマーケティングをして送客を再開してもらおうという施策もおこなった。

 7月以降の第3フェーズはGo Toトラベルへの対応。当初は東京除外があり、費用対効果を含め難しく参画を見合わせていたが、東京がGo Toトラベルの対象となり取り掛かった。しかし、自社ブランドの参画より重要だったのは、当社の宿泊在庫を提携販売しているパートナー旅行会社の取り組みだ。Go Toトラベルにより国内の連携販売パートナー旅行会社の10月の実績は前年比300%増となった。自社サイトだけでなく、業界として伸びていこうという目標も強調された。

-新型コロナウイルスの影響は既に長期に渡っており、収束も見えません。需要が戻るまでの経費の削減の予定に関してお聞かせください

ダイクス グローバルレベルでは売上は第3四半期には少し持ち直したが、前年対比ではマイナス58%。販管費は前年対比で53%減らした。広告宣伝費を含めたあらゆるコストをひとつひとつ見直し、削減していく取り組みをおこなっている。

 一方、将来の差別化につながる技術にフォーカスした投資は惜しまず続けており、既に面白い事例を展開し始めている。ひとつが「バーチャルエージェント」というチャットボット。自然言語対応、人工知能、機械学習を用い、パートナー宿泊施設がバーチャルのエージェントと会話できるような仕組みを展開している。現在は英語圏のみだが、24時間いつでも話すことができ、対応できる質問も増やしているため、実は満足度も通常のコールセンターの倍くらい高い。

 また、「マーケット分析」というツールもパートナー宿泊施設向けの管理画面で無料公開している。インバウンドがいつどういった形で戻るかは誰もが知りたいところだろう。通常データ分析は過去のデータに基づいて将来の予測を立てるものだが、今はそれがまったく参考にならない。しかし、我々のデータでは現在何が検索されていてどのような予約が入ってくるかが見える。宿泊施設が旅行の再開に備えて需要を確認し、分析できる仕組みを展開している。