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クルーズ専門旅行会社、コロナ禍中も営業継続でチャンスを掴む―ビュート代表取締役 村田洋一氏

-コロナ禍中に新たに始めた事業についてお聞かせください
村田氏。インタビューはオンラインで実施した

村田 20あまりの事業を検討し、いくつかを実行に移した。在宅消費が増えているという話から、まず始めたのが運送業。学生時代にトラックのドライバーをした経験が活きた。運送業が世間的に敬遠されていた状況も手伝って好条件で契約ができ、5月から9月まで車両をリースして収入の補填に充てた。

 第2はマスクの仕入れ事業。韓国の港や企業と話をするなかで、韓国には「KF94(コリアンフィルター)」という規格があることを知った。黄砂対策で開発されたもので、このマスクをEMS(国際スピード郵便)で取り寄せて販売した。

 第3はホテルの販売事業。当社は千葉県を拠点としているが、コロナ禍中でも、例えば千葉県民が県内で泊まるという需要はなくならないと考えた。加えてGo Toトラベル事業の構想も聞こえ始めた時期でもあり、「オンライン予約システムを作って地元の需要を喚起しよう」と千葉県のほぼすべてのホテルに持ち掛けた。ところが、誰も乗ってこない(笑)。当時は誰もが目の前のことに手いっぱいだったのだと思う。一度は諦めたが、現在システムを準備中で、今後は事業のひとつとして展開していくつもりだ。

 新規事業からの収入に持続化給付金なども加えると、会社の赤字は月間100万円程に収まる。この額ならば休業は不要と判断し、2月以降一度も会社を閉めることなく今日まで来た。コロナ禍中も予約がまったくなかったのは2月のみで、3月からは予約が入ってきている。営業を続けたことで、誹謗中傷も含め日に何十件もクレームの電話を受けたが、「いつでも新規予約ができる」という宣伝広告の成果で他社よりもお客様の戻りは早く、戦略としては正しかったと考えている。

-現在の予約状況はいかがでしょうか

村田 クルーズは先物なのである意味で回復は早い。現在入っている来年以降の予約は1,000名を超えており、悪くない状況だ。今年分についても、9月から「飛鳥Ⅱ」と「にっぽん丸」、10月末には「ぱしふぃっくびいなす」が予約を開始したが、運航再開日と年末年始については数分で完売した。

 今売れているのはほとんどが日本発着のクルーズで、フライ&クルーズは1%に満たない。外国船の場合は必ず海外に出なければならないため、1箇所だけは近場の海外の港を含むが、主として国内の港をめぐる商品だ。

-2021年の需要は2019年比でどの程度になると想定されていますか

村田 2021年には8割ほどまで戻ると想定している。ただし、既存のお客様をこれまでと同じ手法で取り戻そうとしても4割程度にしかならないだろう。クルーズの潜在客は100万人と言われている。ここにリーチすることができれば、2022年には100%を超えても不思議ではないと考えている。

 例えば来年に関しては、ゴールデンウィークにはまだ空室がある一方、夏休みはCOVID-19収束を見込んだファミリー層の予約で既に満室の状態だ。以前は海外旅行に向いていたファミリー層の目が、申し込みを再開したクルーズに移り始めている。変化を捉えて適切に広告を打てば、新しいお客様は必ず獲得できるだろう。

 観光産業としては、需要が2019年と同水準に戻ることはないという見方が大勢だが、切り口を変えることでまだいくらでも需要は喚起できると考えている。我々は現在も、インターネットを使って常に複数のアプローチを行っている。大抵は失敗するが、中にはうまくいくものもあり、その「当たり」を取りにいくことでシェアを伸ばしてきた。

 海外ではMSCクルーズが8月から地中海での運航を再開し、既に2万人以上が乗船しているが、感染症対策が徹底されており、現在まで1名も感染者を出していない。需要回復にはクルーズの安全性を周知していくことも重要だ。