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独自マーケット拓いた旅行会社の事例-2000万人時代への課題

  • 2012年10月18日

 「価格競争に注力しがちだったのではないか」「シェアの取り合いに甘んじていたのではないか」と、従来の海外旅行市場に対する自省から始まったJATA国際観光フォーラム2012シンポジウム「新たなマーケットの可能性と旅行会社の役割」。独自の顧客獲得に成功した旅行会社の事例発表や現地オペレーターの提言を受け、自ら市場を開拓する取り組みの必要性とともに、「価値観の多様化に十分対応できていない市場がある」と市場拡大の可能性も確認された。今回は今後の旅行会社の役割と方向性のヒントとすべく、各社の取り組み事例を紹介するとともに今後の課題をまとめた


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「行けなかった人に海外旅行を」の発想

▽SPI・あえる倶楽部のケース

SPI あ・える倶楽部 代表取締役・CEO 篠塚恭一氏  要介護者(支援者)を顧客層とするSPI・あえる倶楽部。取り組みのきっかけは、「添乗先で旅行者の高齢化を目の当たりにしていたこと。多少健康に不安があっても、きちんとお金を払って旅行に行きたい人が現場には多かった」と、代表取締役CEOの篠塚恭一氏は話す。

 従来はケアが必要な人の受け入れは嫌がられる傾向にあったが、篠塚氏は「それが10人の家族旅行、60人の同窓会を逃すことになる」と指摘。介護技術を有する旅行業務のプロ「トラベルヘルパー」を養成し、しっかり対応できる体制を整えた。「過去40年間、海外旅行市場を支えた人が今、加齢や高齢化で旅行に行きたくても行けない状況にある。そこにもう一歩踏み込むことで今後も取り込んでいける」と市場の可能性と事業のねらいを説明する。

 参加者の平均年齢は76.1歳で、69.9%のリピート率を誇る。日本の人口が減少するなか、同社の顧客層である75歳以上の年齢層は唯一、増えている有望市場だ。また、日本の金融資産1500兆円の82.4%は、60歳以上の年齢層が保有しているといわれており、今後控える市場の可能性も示唆する。


▽日本旅行のケース

日本旅行 西日本海外旅行商品部 商品企画チーム・マネージャー 山本文子氏  日本旅行が取り組んだのは、短期旅行市場だ。休みが短く、海外旅行をしにくい、働く女性をターゲットに「週末トラベラー」を開発し、昨年のツアーオブザイヤーのグランプリを受賞した。西日本海外旅行商品部商品企画チーム・マネージャーの山本文子氏は、「従来のマスマーケットへのアプローチから基本に立ち返り、データに基づく明確なターゲットを前提とした商品企画をめざした」と、開発の経緯を説明する。

 ターゲットは、出国者数のうち60歳以上の男女以外で唯一拡大している35歳から44歳の女性層(05年比8%増)に決定。を「37歳OL」「仕事ではそれなりの立場」「時間がない」「トレンドに敏感」「こだわり強い」「価格にシビア」などと具体的なペルソナを設定して、ターゲットと同年代の女性企画担当者でプロジェクトチームを編成した。

 それにより企画された商品が、「ソウル1泊2日」「ヘルシンキ3泊4日」など。「出発日だけ決めて旅行に行ける提案型ツアー」「短い休みでも海外に行こうと思える動機づけ」「女性の心をくすぐる旅の要素」「本物志向、コストパフォーマンスの高さ、内容で選んでもらえる商品」の4点を意識し、ターゲットにとって魅力的な旅行に仕上げたという。

 しかし、実際の集客で意外にも20代から母娘まで参加者の幅が広いことが分かった。また、通常商品よりもネット購入比率が高いことから、双方向コミュニケーションなどウェブマーケティングを強化。商品イメージを再考し、現在は「週末トラベラー」から「大人女子が行くアジアトラベラー」に進化させ、可能性を広げている。