中小旅行業者のための財務・経理(2):会社を継続させるための方策

  • 2011年1月8日
決算は“己を知る”最低限の術

 職業柄、倒産会社の社長と面談する機会がよくあります。彼らに経理内容について質問すると、「経理のことに関しては会計事務所にお願いしているので、よくわかりません」という回答が多いことに驚かされます。彼らは本気で会社経営に取り組んでこなかったのではないかと考えざるを得ません。

 「己を知ること」は、勝負をする者の鉄則で、己の状態を正確に把握し、誰を味方にして敵(市場、競合他社等)との戦いに臨むのかが、経営者の最低限の心構えと思われます。

 したがって、自社の損益状況、資産・負債の状況、資金繰り状況をある程度の正確性をもって経営者は把握しておかなければなりません。当然、会社の規模等によって、求められる精度は異なってきます。しかし、最低限でも決算内容だけは把握しておく必要があります。

 経理事務担当者を雇うよりも会計事務所に経理業務を丸投げする方が安上がりという安易な考えは避けるべきです。


自力決算のメリット

 パソコンが低価格化したことに連動し、比較的低価格で機能が充実した会計ソフトが市販されています。会社の規模が比較的小さい旅行業者であれば、経営者(または経営者の奥様)が日々の取引を入力することは、さほどの負担にはならないと思われます。経理に関する専門的知識がなくても、金銭出納帳を記帳できる程度の知識があれば、会計ソフトが補佐してくれますし、わからない点があれば顧問会計事務所の担当者に質問すれば自社で記帳業務ができるはずです。最初は若干の苦労があるとは思いますが、数ヶ月もすれば当たり前に処理ができるようになっているでしょう。

 当然、決算修正項目や税金計算については、顧問会計事務所に助けてもらわなければならないところもあるでしょうが、かなりのところまで自分たちで決算が行なえるように成長するはずです。会計事務所に外注していれば、適時情報を入手することはかなわず、数ヶ月前の月次情報しか入手できないこともあります。日々の取引を適時に入力していれば、適時情報が会社のパソコンから得られます。また、毎日の業務として行なうため、領収書等の紛失もなく、正確な決算を行なうことも可能です。

 なにより、経営者自身が適時に自社の状況を把握できるというメリットがあります。会計事務所に依存していると他人任せとなり、専門家が計算した結果に対して文句がいいにくいため、内容まで分析することなく税務署に提出してしまい、決算が完了してしまいます。

 会計事務所では、顧客企業の売掛金の明細をみても長期未収でもない限り異常性を感じませんが、自社の経営者であれば得意先別の売掛金明細に計上された金額に異常があれば、発見できます。また、経費に関しても前年と比較してみることで削減可能な経費、無駄な経費、もっとつぎ込むべき経費も識別できるはずです。

 自力決算ができるよう、チャレンジしてみませんか。それが、会社を成長させる方策の一つです。



※このコラムは不定期で掲載します

▽これまでの「中小旅行業者のための財務・経理」
中小旅行業者のための財務・経理(1):運転資金調達のノウハウ(2010/11/06)


執筆:玉置栄一(公認会計士・税理士)

 1978年関西大学経済学部卒業。翌年監査法人中央会計
事務所(「みすず監査法人」に名称変更後解散)入所。
1983年公認会計士登録(登録番号8037)、1993年税理士
登録(登録番号78184)。1994年1月に公認会計士・税理
士玉置事務所を開設。日本公認会計士協会近畿会幹事
(5期10年)、近畿公認会計士協同組合専務理事などを
歴任。現在、関西大学会計専門職大学院教育顧問。著者
に「企業再生 なるほどQ&A」(中央経済社)、「スポ
ーツの法律問題」(共著、民事法研究会)、「よくわか
る新連結財務諸表」(共著、清文社)など。