ホテル・旅館のインバウンド:第3回 ザ・プリンスパークタワー東京

  • 2010年11月9日
社員全員に中国語の習得を奨励、
道徳観やマナーを理解し、中国人「目線」のサービス提供へ


 東京の象徴、東京タワーと増上寺の目の前という絶好のロケーションにそびえるザ・プリンスパークタワー東京。エクスペディアの世界ホテルランキング「エクスペディア・インサイダーズ・セレクト2009」で堂々の第2位に選ばれるなど、立地条件のみならずきめ細やかなサービスから世界中の旅行者から絶大な支持を受けています。今回はレ・クレドールの会員でもあり、日本コンシェルジュ協会の副会長も務める宿泊部マネージャーの芝田尚子氏に、ここ数年で同ホテルが注力しているという中国人富裕層マーケットを中心にお話を伺いました。
                         
                            
インタビュー:ザ・プリンスパークタワー東京
宿泊部マネージャー(ゲストサービス・コンシェルジュ・バトラー担当)
芝田尚子氏
聞き手:旅野朋/通訳案内士(英語)



Q.中国人旅行者の受け入れのためにどのような取り組みをされていますか

 中国人のお客様向けには中国語のパンフレットや地図を提供し、中国語の無料情報誌を充実させるようにしています。ギブアウェイ・ラックの中国語のパンフレットの減りの早さを見ると、中国人の観光客の増加を実感します。

 また、2008年頃から中国の観光客獲得を視野に入れ、決済ツールとして銀聯カードの導入を開始しました。現在までにプリンスホテル系列では44ホテルで導入しています。

 このほか、中国人旅行者のニーズをつかむために各部署に中国人スタッフにより、言葉だけでなく文化、習慣なども指導する中国語講座を開設しています。営業面では中国語の話せるスタッフを配置し、中国本土へのセールスを強化しています。一方、新たに雇用する中国出身者にブリーフィングやメンタルサポートをするため、管理部に中国人スタッフを配置しました。中国出身者が安心して働き、お客様に接することができる体制を構築しています。


Q.語学面などの対策は

 現在、全社員が中国語の習得に励んでいます。中国語に馴染みの薄い日本人スタッフもより慣れ親しめるよう、今年の春から毎朝朝礼で中国語を練習しています。また、社員向けに定期的に中国語講座も開講されています。

 コンシェルジュでは中国出身の人間はいませんが、中国語ができるスタッフがおります。他のスタッフも中国語講座になるべく参加するようにし、お客様に喜んでいただけるように挨拶や簡単な会話ができるようにしています。また、中国のお客様がどうやったら喜ばれるか、中国人「目線」のサービスを提供するにあたり、他の部署の中国人スタッフから語学だけでなく文化についても教わっています。


Q.中国人のお客様と接するときに心がけていることはありますか

 中国のお客様の「目線を考えたサービス」を提供するには、その国の国民性や文化に対する理解が欠かせません。道徳観やマナー違いなど日本人には馴染みのないこともありますが、こちらの価値観をおしつけるのではなく、中国のお客様の道徳観やマナーを理解し、対策を講じるようにしています。受け入れ側が日本の美徳や文化を押し付けるのではなく、一歩踏み込んだ理解をできるようにしています。

 例えば、中国からのお客様は団体でお見えになることが多いので、その際にはグループラウンジを設けて、団体のお客様がスムーズにチェックインできるよう対応しています。


Q.中国人旅行者からはどのようなリクエストが寄せられますか

 中国人のお客様は日本人と同じように、景色にこだわりがあるようです。欧米のお客様ではあまりありませんが、FITのお客様は東京タワーが見える側のお部屋をリクエストされる場合もあります。

 また、中国からのお客様は欧米の方と比べて目的が明確です。例えば、レストランの予約を依頼する場合、欧米人のお客様はコンシェルジュに相談した上でこちらに一任されることがよくありますが、中国からのお客様は具体的なお店を指定されるケースが多いです。なかにはミシュランガイドに掲載されている店だけを指定し、日本での5日間の滞在中にすべて行けるようにコーディネートして予約をしてほしいという方もいらっしゃいました。

 ちなみに、最近の中国のお客様はそこまで日本食にこだわっている様子はありません。欧米のお客様と比べると、むしろ食事については料理の和洋中は問わず、世界的な大都会である東京ならではの有名レストランに行きたい、という方が多いように思います。


Q.中国人観光客の買物好きはよく知られていますが、ホテル側でサポートをすることもあるのでしょうか。どのような品物が人気ですか

 デパートと交流があるので、お客様が来店する際にはデパート側に中国語対応ができるスタッフをご用意いただき、対応してもらうことがあります。

 具体的な品物としては、銀座のデパートやブランド物が好きな方も多いのですが、キャラクターグッズをたくさん買われる方もいます。また、お土産はブランド品だけでなく、日本の雑貨や文房具など、日本の日用品の品揃えの幅広さにも目を向けているようです。


Q.お客様から喜ばれるサービスはどのようなものですか

 日本人としての「おもてなし」、きめ細かいサービスは、中国人のお客様だけでなく世界中の旅行者から喜ばれます。例えば、お客様が外出される際には、コンシェルジュでA4の用紙1枚にまとめた案内の資料をお渡しするのですが、お客様はこのようなことに大変喜ばれたり、驚かれたりします。日本人ならではのサービスを期待されているようにも思います。


Q.今後の課題として捉えているものはなんでしょうか

 今後もより多くの中国人旅行者に利用して頂くには、事例を増やし、分析していく必要があります。ザ・プリンスパークタワー東京のみならず、私が所属している日本コンシェルジュ協会でも対中国のみならずお客様へどう接するか、他のホテルや他業種の人と話しあっています。

 言語面でのスキルアップも重要です。幸い、クレームに至ったことはないのですが、中国語しか話せないお客様が来たときにたまたま中国語が話せるスタッフがいない場合、筆談になってしまうことがあります。この場合、漢字の意味も違ったりするため、お客様にストレスを与えてしまっていることに申し訳なく思います。また、欧米の方に比べ、中国のお客様からのアンケートの回収率が低いので、中国のお客様と直接お話する機会を増やすことができれば、より多くのフィードバックを得てサービス向上につなげられるのではないかと思います。

 実際には、まだ中国からの本格的なインバウンドははじまったばかりで、リピーター獲得という段階には至っていません。これからどのように継続的に中国人旅行者を取り込んでいくかが、ホテルとしても日本のインバウンド全体としても課題かと思います。富士山やゴールデンルート以外にも中国人観光客をどう呼び込むか、コンシェルジュでもどう案内したら良いのか考えることも課題となるでしょう。


ありがとうございました


▽過去の「インバウンド最前線」
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