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ホテル・旅館のインバウンド:第2回 フォーシーズンズホテル椿山荘東京

  • 2010年9月21日
 東京を代表するラグジュアリーホテル、フォーシーズンズホテル椿山荘東京。世界トップレベルのサービスや優美な日本庭園に囲まれた館内は訪日外国人旅行客にも人気で、今まで多くのVIPやビジネス客に利用されています。また、最近では台湾、香港、アメリカなどから来るレジャー客も増えてきているそうです。ホテルのスタッフの大半は日本人なのだそうですが、多言語をあやつるバラエティに富んだスタッフがスマートに対応しています。今回はそのひとりとして実際に現場でお客様に接しているコンシェルジュの辻洋子さんにお話をうかがいました。


インタビュー:フォーシーズンズホテル椿山荘東京
       コンシェルジュ 辻洋子氏
聞き手:旅野朋/通訳案内士(英語)

                    
                    
Q.外国人旅行客に応対するときに工夫していることはありますか

 私は外国人のお客様に英語で応対していますが、ネイティブかノンネイティブかによって話す速度や単語を使い分けています。英語が母国語ではない方には聞き取りやすく噛み砕いた形のわかりやすい英語を話すようにしています。また、外国語を通してのやりとりなので、誤解のないように質問を受けたときにはこちらからも質問をして確認しながら、お客様が本当に探している物や場所にご案内できるようにしています。英語のほか、スタッフは様々な言語で応対していますが、挨拶だけでも自分の国の言葉でアプローチされるとお客様には安心感があるようです。

 接客中、外国人のお客様が目にした日本の風習をご説明することもあります。例えば、館内に和装のお嫁さんが運良く見られたときには、日本で親しまれている暦注として大安などの意味を説明します。

 また、これは外国人のお客様に限ったことではないのですが、スタッフ一同、お客様が気軽にコンシェルジュカウンターを利用していただけるような雰囲気作りを意識しています。特に、外国人のお客様には「変なこと聞いてしまったな」と思わせないように、親しみやすいオープンな姿勢を保つよう心がけています。


Q.外国人のお客様からはどんな質問を受けますか

 館内の質問が多く、それ以外では日本の一般的な事項を聞かれることが多いです。例えば、チップの習慣のある欧米人のお客様から「チップは本当にいらないのか」「渡したら失礼になるのか」とよく聞かれます。治安に対する質問も意外と多く、「夜に地下鉄に乗っても平気か」と、日本人には驚くような質問もありますが、「私は夜11時に仕事を終えて地下鉄の駅まで歩いて帰るけれど全然恐くない」と話したりします。


Q.食事について聞かれることは

 とても多いですが、アジアと欧米のお客様では少し問いあわせの仕方が違うようです。アジアの方は研究熱心な方が多く、ガイドブックに載っているお店の予約を依頼されますが、欧米人のお客様は漠然と「日本料理」「エスニック」と、ジャンルを指定するだけで、お店選びなどはコンシェルジュに一任するケースが多いです。

 また、刺身、天ぷら、しゃぶしゃぶなど色々な和食メニューを少しずつ食べたいというリクエストも多いです。しかし、意外と日本ではそのような場所は居酒屋に限定されることが多く、高級感を求めるお客様には紹介しにくいのです。このような場合、お客様には日本の高級レストランは専門店のようになっていることを説明し、「今日は天ぷらにしましょうか」と絞り込みます。ただし、これだと外国人のニーズと日本食のレストランの受け入れがマッチしていないように思います。

 このほか、割烹や懐石料理といった日本料理のお店を紹介した時、「あまりにも静かすぎて嫌になって帰ってしまった」という方がいらっしゃいました。カウンター割烹という日本らしいスタイルを望んでも、実はその人の趣向にあっているものではない場合があるようです。そういう意味では、当館内の日本料理レストラン「みゆき」はほどよく賑わい、色々な和食が食べられるので外国人のお客様には丁度良いのかもしれません。


Q.観光についての問いあわせはいかがでしょうか

 東京は日本への訪問回数やショッピング、グルメ、美術館といった目的に応じてご案内するのですが、東京以外で特に問いあわせが多いのが京都です。東京から日帰りで京都、というお客様もいらっしゃいます。また、外国人のお客様にとっては道中の新幹線乗車体験も楽しみのひとつなので、京都行きのチケットの手配するときには富士山が見える側の席をとるようにして、富士山が見えるタイミングをお知らせしておきます。また、毎年夏になると富士山に登りたいというリクエストが多く寄せられます。昨年、私も富士山登山にチャレンジしたので、そのときの経験を資料としてまとめ、それをもとにより親身に具体的にお客様にご案内をしています。


Q.印象に残った問いあわせは

 コンシェルジュに旅程や予約を一任されるお客様は記憶に残ります。例えば今年、アイルランドの火山噴火の影響で旅行先をイタリアから急遽日本に変更したというお客様がいましたが、ノープランで来日され、私が旅行の計画を立てることになりました。

 行き先は京都、大阪、高野山の宿坊、広島、宮島、といった観光地を選びました。お客様は自立性のある方々だったので、各ホテルのコンシェルジュさん達と連携して、リレー形式で応対しました。お客様には各ホテルでその都度、「次はここに行くのでここまでの行き方を教えてください」と質問していただき、各コンシェルジュが交通を案内して、無事にお客様に旅行をしていただけました。

 最後に当ホテルに戻ってくるようなプランをたてると、道中の様子をおうかがいでき、最後のお見送りもできます。ですから、あえて最初と最後は当ホテルとなるようにプランを組ませていただくこともあります。


Q.今後、さらに外国人のお客様の満足度を上げるため、何が必要だと思いますか

 多くのスタッフからは中国語をはじめとする多言語を話せる人材の配置が必要だという声があります。また、私どもは世界各国のフォーシーズンズのリソースを活用し、宗教、食生活、生活基盤などの違いについて理解を深めていくことをすでにはじめていますが、業界全体として、インバウンドの受入に際してはそのような点も課題になっているのではないでしょうか。

 また、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」のような「官」主導のキャンペーンに、現場の声をもっと吸い上げてほしいという意見が多く聞かれます。例えば、道路標識がわかりにくいことが多いので、コンシェルジュとしてはお客様に道をご案内しにくい面がありますが、これが解消されればホテル側の負担が軽くなるだけでなく、お客様の利便性も向上するはずです。このように日々、外国人旅行客と接している現場と行政が一体となって活動できれば、お客様の視点を組み込んだ上でインフラなどを整備でき、より多くのインバウンドのお客様に便利で快適な旅行を楽しんでいただけるようになるのではないかと思います。


ありがとうございました


▽過去の「インバウンド最前線」
通訳案内士のインバウンド考:第2回 質問・疑問はヒントの宝庫(2010/09/07)
ホテル・旅館のインバウンド:地方に広がる訪日旅行−こんぴら温泉華の湯(2010/08/17)
通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)