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ホテル・旅館のインバウンド:地方に広がる訪日旅行−こんぴら温泉華の湯

  • 2010年8月17日
 2003年のビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)開始以来、東京や大阪では多くの外国人旅行者を見るようになりましたが、最近では地方でもその姿を目にする機会が増えました。地方を訪れる理由を聞くと、「せっかく日本に来たのだから、大都会だけでなく、色々なところに行ってみたい」という声が多く聞かれます。訪日旅行者の積極性が増すなか、地方の日本旅館では「日本らしさ」を武器に奮闘しているようです。今回は数々の受賞暦を誇る香川県琴平の旅館、こんぴら温泉華の湯「紅梅亭」「桜の抄」予約センターでセンター長を務める横田和士氏に、訪日旅行客の取扱状況や受入態勢をうかがいました。


インタビュー:こんぴら温泉華の湯「紅梅亭」「桜の抄」
       予約センター 予約センター長 横田和士氏
聞き手:旅野朋/通訳案内士(英語)

                    
                    
Q.訪日外国人旅行者の予約状況はいかがでしょうか

 「紅梅亭」と「桜の抄」をあわせて毎年300人程の外国人旅行者にご宿泊いただいています。外国からのお客様はツアーや企業招待がほとんどで、人数自体はここ数年変わっていません。お客様の国籍や年代、性別は多岐にわたりますが、みなさま「日本の旅館を体験したい」「温泉に入りたい」という強い希望があって泊まってくださっているようです。特に多いのは台湾からのツアーのお客様で、年間120人、20人前後のツアーを5、6本取り扱っています。

 リーマンショック前は香川県が台湾からの観光客を誘致していたことがあり、高松/台湾間でチャーター便が飛んだこともありました。その頃は海外からの問いあわせが増えたのですが、チャーター便の時期が例年4月に開催される「金毘羅歌舞伎」で、当旅館の予約がすでに埋まっていたため、残念ながらインバウンドを受け入れられなかったということがありました。


Q.外国人旅行者の受け入れに際し、工夫されていることはありますか。また、どのようなことに喜ばれていましたか

 ホームページの多言語化に取り組んでいます。英語のホームページは6、7年前から用意し、年間5、6組、特に東南アジアのお客様を中心に直接インターネット予約をいただいています。中国語のホームページについても簡体字、繁体字で開設する準備をしているところです。

 食事など、旅館で提供するサービスについては「外国人のお客様だから」と特別にしていることはありません。もちろん、宗教上の理由でお食事に制限のある方やベジタリアンなど特別なリクエストがあれば対応しています。以前、企業招待で来館された韓国人のお客様への食事の出し方についてリクエストがありました。前菜がたくさん出される韓国料理に準じたスタイルを希望されましたので、そのときは懐石料理の先付など出せるものを一気に出す、という方法で対応させていただきました。

 お客様は純日本風のお食事にも満足いただいているようで、食べ残しもあまりありません。旅館での日本的な体験そのものへの満足度は高いようです。また、金比羅山へのお参りや太鼓ショーの観覧、四国八十八ヶ所霊場の75番目の善通寺でお遍路さんの装束で記念撮影など、外国人のお客様は「純粋な日本文化」に触れると大変喜ばれます。


Q.訪日客を受け入れるときに苦労されていることはありますか

 7、8年前は、温泉の入り方がわからないという外国人のお客様がいましたが、今では外国人のお客様も旅館での過ごし方を心得た方が増えました。また、「外国人が泊まっている日なら予約しない」という日本人のお客様がいらしたこともありますが、日本人の認識が変わってきたようで、そのような問題はあまり見られなくなりました。

 また、文化的な違いで驚かされることも時々あります。例えば、韓国からの企業関係のお客様の予約を進めさせていただいたときのことです。役職順に良い部屋を割りあてさせていただいたのですが、「VIPが部下の下の階になるなどありえない」と、変更を求められたことがあります。紅梅亭ではグレードの高い部屋が上の階にあるわけではないのでVIPと他の同行者の部屋のランクに逆転現象が起こってしまうのですが、お客様は「それでもいいから」と譲らず、お客様の意向に従って手配をさせていただいたことがあります。


Q.今後の課題は

 大都市圏では外国語対応ができる優秀な人材がたくさんいるようですが、地方になると英語以外での対応ができる人材が少ないため、受け入れ態勢を整えるのに苦労します。英語以外の語学ができるスタッフをいかに確保するか、課題のひとつかと思います。

 また、知名度の向上も課題です。例えば、中国人旅行客に関していえば、個人観光ビザの要件が緩和されたものの、琴平を訪れる旅行者は少ない状況です。知名度アップは一旅館だけでは成し得ないものですので、町や県など全体的な取り組みがされることを期待しています。


ありがとうございました


▽過去の「インバウンド最前線」
通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)