ブームの兆し、「産業遺産」(4)甲州ワインの試み(山梨県甲州市勝沼町)


とはいえ、安い輸入ワインや他の国内生産地との競争にさらされている現状は、決して安心できる状況ではない。そこで産業遺産の出番となった。幸運なことに、周辺には明治時代にはじまったワイン製造に関わりのある建物や建造物がいくつも残されていた。修復したこれらの産業遺産を巡る散策コースがつくられ、ワイナリーだけでなく、歴史巡りの楽しみが加えられたのだ。
ここまでは産業遺産を利用した観光に見られる通常の手法だが、さらにユニークなのが「トンネルカーヴ」。1903年に建設され、路線変更によって1997年に廃線となった産業遺産であるJR中央線の旧深沢トンネルの再利用だ。一年を通じて温度や湿度が安定しているトンネルを、醸造メーカーやレストラン、個人と契約してワインカーヴ(保管庫)として貸し出すことにしたのだ。長さ約1100メートルのトンネルを業務用に900メートル、個人用に200メールの区画に分け、100万本のワインが収蔵可能のカーヴに再生させた。管理している「ぶどうの丘」によると、現在約150人の個人がワインを貯蔵しているとのことで、スペースはいっぱい。新たに借りたい人はキャンセル待ち状態だそうだ。
ワインとトンネルという、マッチングした環境だから可能となった事例だが、保存し、展示する以外の活用方法で、産業遺産の可能性はさらに広がっていくはずだ。
▽山梨県ワイン百科
http://www.yitc.go.jp/wine/
▽ぶどうの丘
http://www.budounooka.com/
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