ブームの兆し、「産業遺産」(4)甲州ワインの試み(山梨県甲州市勝沼町)

  • 2009年1月29日
 今回紹介するのは、日本を代表するワインの産地、山梨県の勝沼(2005年11月に合併して甲州市)。現在、国産ワイン生産量の約4割を占める山梨県のなかでも、甲州市には40軒以上のワイナリーがあり、その多くは勝沼周辺にある。多くのワイナリーで観光客を受け入れており、欧米のようなワインツーリズムが楽しめるスポットだ。観光ブドウ園とあわせると、年間150万人を集める有数の観光地となっている。そんな勝沼では特産のワインと産業遺産をレンタルするユニークな取り組みをはじめた。すでに観光地として人気のあるスポットも、産業遺産を活用することで、その価値を高めることができる。

 勝沼では今から約1300年前の奈良時代には、既にブドウ栽培が始まっていたという説があるほど、この地のブドウ作りは長い歴史がある。第2回で紹介した富岡製糸場同様、「殖産興業」の一環として明治初期からワイン造りがはじまった。1877年(明治10年)になると、大日本山梨葡萄酒会社(現在のメルシャンの前身)が設立され、ワイン醸造技術を学ばせるために2人の若者をフランスに派遣。彼らの帰国後その技術が広まり、日本のワイン造りの中心地へと発展していった。

 とはいえ、安い輸入ワインや他の国内生産地との競争にさらされている現状は、決して安心できる状況ではない。そこで産業遺産の出番となった。幸運なことに、周辺には明治時代にはじまったワイン製造に関わりのある建物や建造物がいくつも残されていた。修復したこれらの産業遺産を巡る散策コースがつくられ、ワイナリーだけでなく、歴史巡りの楽しみが加えられたのだ。

 ここまでは産業遺産を利用した観光に見られる通常の手法だが、さらにユニークなのが「トンネルカーヴ」。1903年に建設され、路線変更によって1997年に廃線となった産業遺産であるJR中央線の旧深沢トンネルの再利用だ。一年を通じて温度や湿度が安定しているトンネルを、醸造メーカーやレストラン、個人と契約してワインカーヴ(保管庫)として貸し出すことにしたのだ。長さ約1100メートルのトンネルを業務用に900メートル、個人用に200メールの区画に分け、100万本のワインが収蔵可能のカーヴに再生させた。管理している「ぶどうの丘」によると、現在約150人の個人がワインを貯蔵しているとのことで、スペースはいっぱい。新たに借りたい人はキャンセル待ち状態だそうだ。

 ワインとトンネルという、マッチングした環境だから可能となった事例だが、保存し、展示する以外の活用方法で、産業遺産の可能性はさらに広がっていくはずだ。


▽山梨県ワイン百科
http://www.yitc.go.jp/wine/

▽ぶどうの丘
http://www.budounooka.com/


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