法律豆知識(119)、受託手荷物の毀損、紛失(その2)
<約款でパソコンやデジタルカメラなど電子機器を対象外にしている例>
モントリオール条約では、受託手荷物の破損や紛失に対する責任限度額が約16万円であること、この範囲内では航空会社は無過失責任を負うことは、本コーナーの第113回で説明した。となれば、この範囲内では、航空会社は無条件で責任を負うはずであるが、若干の問題点が残る。
航空会社の約款では、現金、有価証券や宝石類を損害賠償の対象外にしているケースは多い。そこで、モントリオール条約でも、かかる約款が有効か否かが問題となる。これらは、もともと盗難に遭いやすい貴重品なので、かかる約款の存在も理解できないわけではないのだ。
パソコンやデジタルカメラなどの電子機器も、破損しやすいとして、同じく対象外にしていることが多い。破損しやすいものは、機内持ち込み手荷物として、自ら管理するのが常識、といえないこともないのだ。
これらの点については、モントリオール条約では、貨物については規定があり、「貨物の破壊、滅失、破損が、貨物固有の欠陥又は性質に基づくときは、これらが寄与した程度に応じて責任を免れる」ことになっている。
他方、受託手荷物については、このような免責規定がない。免責規定がないということは、貨物と対比すれば、免責されることがないと解するのが自然である。そもそも上限が16万円と低いので、この範囲内であれば、無過失で全面的に責任を負うと言うのが、条約の素直な解釈と思われる。
とはいえ、貴重品や、極めて壊れやすい精密な機械類を、無造作に預けて置きながら、あとから賠償請求できるというのも、航空会社としては、納得いかないところであろう。ことに、搭乗手続きに当たって、貴重品や壊れやすいものは、預託しないように警告したのに、敢えて手荷物の中に入れていたという場合は、なおさらといえよう。
旅客側の落ち度が大きいときには、裁判になれば過失相殺の法理、あるいは権利濫用の法理等で、旅客の請求が制限される余地もあろう。
もっとも、このような細かな争点については、条約の文言だけでは判断しきれないので、各国の裁判所が判断し、判例としてその国での実務の基準ができあがるべきである。しかし、日本は、本コーナー前々回に述べた通り、裁判が異常に少ない国であり、参考になる判例はいまだ存在しない。
<鍵を開けておくように求められた時>
アメリカ便に於いては、テロ対策上、受託手荷物の鍵を開けたままにしておくことが求められることも多い。この場合に中の手荷物が紛失すると、どうなるのだろうか。
航空会社としては、鍵をかけないようとの指示は当局の指示によるものだから、紛失には責任を負えないと主張しがちである。
しかし、モントリオ−ル条約では、貨物についてだけは、「入、出国、通過の際に取られた当局の行為に起因することを航空会社側で証明できたときには、その寄与度に応じて、航空会社は免責される」ことになっているが、受託手荷物には、かかる規定はない。
受託手荷物について、かかる規定がない以上、責任限度額(約16万円)までは、航空会社が無条件で責任を負うと解釈せざるを得ないであろう。
ただ、その際、現金等の貴重品をその中に入れておいたときには、航空会社の免責があり得るかについては、検討の余地があることは前述の通りである。
<次回に続く>
モントリオール条約では、受託手荷物の破損や紛失に対する責任限度額が約16万円であること、この範囲内では航空会社は無過失責任を負うことは、本コーナーの第113回で説明した。となれば、この範囲内では、航空会社は無条件で責任を負うはずであるが、若干の問題点が残る。
航空会社の約款では、現金、有価証券や宝石類を損害賠償の対象外にしているケースは多い。そこで、モントリオール条約でも、かかる約款が有効か否かが問題となる。これらは、もともと盗難に遭いやすい貴重品なので、かかる約款の存在も理解できないわけではないのだ。
パソコンやデジタルカメラなどの電子機器も、破損しやすいとして、同じく対象外にしていることが多い。破損しやすいものは、機内持ち込み手荷物として、自ら管理するのが常識、といえないこともないのだ。
これらの点については、モントリオール条約では、貨物については規定があり、「貨物の破壊、滅失、破損が、貨物固有の欠陥又は性質に基づくときは、これらが寄与した程度に応じて責任を免れる」ことになっている。
他方、受託手荷物については、このような免責規定がない。免責規定がないということは、貨物と対比すれば、免責されることがないと解するのが自然である。そもそも上限が16万円と低いので、この範囲内であれば、無過失で全面的に責任を負うと言うのが、条約の素直な解釈と思われる。
とはいえ、貴重品や、極めて壊れやすい精密な機械類を、無造作に預けて置きながら、あとから賠償請求できるというのも、航空会社としては、納得いかないところであろう。ことに、搭乗手続きに当たって、貴重品や壊れやすいものは、預託しないように警告したのに、敢えて手荷物の中に入れていたという場合は、なおさらといえよう。
旅客側の落ち度が大きいときには、裁判になれば過失相殺の法理、あるいは権利濫用の法理等で、旅客の請求が制限される余地もあろう。
もっとも、このような細かな争点については、条約の文言だけでは判断しきれないので、各国の裁判所が判断し、判例としてその国での実務の基準ができあがるべきである。しかし、日本は、本コーナー前々回に述べた通り、裁判が異常に少ない国であり、参考になる判例はいまだ存在しない。
<鍵を開けておくように求められた時>
アメリカ便に於いては、テロ対策上、受託手荷物の鍵を開けたままにしておくことが求められることも多い。この場合に中の手荷物が紛失すると、どうなるのだろうか。
航空会社としては、鍵をかけないようとの指示は当局の指示によるものだから、紛失には責任を負えないと主張しがちである。
しかし、モントリオ−ル条約では、貨物についてだけは、「入、出国、通過の際に取られた当局の行為に起因することを航空会社側で証明できたときには、その寄与度に応じて、航空会社は免責される」ことになっているが、受託手荷物には、かかる規定はない。
受託手荷物について、かかる規定がない以上、責任限度額(約16万円)までは、航空会社が無条件で責任を負うと解釈せざるを得ないであろう。
ただ、その際、現金等の貴重品をその中に入れておいたときには、航空会社の免責があり得るかについては、検討の余地があることは前述の通りである。
<次回に続く>